2、冒険者になろう
ライさんとともにギルドに入ると、真っ先に私たちの元に走ってきたのはネルさんだった。後ろで怒っている声が聞こえる気もするのだけれど、彼女の耳には入らなかったらしく、私の手を握って「身体は大丈夫?」と話しかけてくる。
「ええ、大丈夫です。ご心配をおかけしまして……」
「ううん!シアさんの元気な顔が見られて良かった〜!もしかして魔石ですか?」
「はい、追加分です。お願いします」
「わっかりました〜!販売は任せて下さい!あ、ライさん伝言助かりました!」
「どういたしまして」
嵐のように来ては去っていく彼女に目を奪われていると、窓口に戻ったところでエミリーさんがネルさんに話しかけていた。聞こえる内容によると、説教中に私たちが目に入り、抜けて出てきたらしい。「一言言ってから行きなさい」と呆れられているようだ。
ギルド内は窓口の奥にいるエミリーさんたちの声が聞こえるほど、閑散としていた。丁度今の時間は冒険者が依頼をこなしに行っている時間なのだろう。そう考えると、ライさんが私への伝言で良かったのか、甚だ疑問だ。
「あの、ライさんは依頼を受けなくて良かったのですか?」
「僕?そうだね、良い依頼があれば受けようと思っていたんだけど、掲示板を見ても興味が湧かなくてね。帰ろうとした時にネルさんから伝言依頼を受けたから、気にしなくて良いよ」
「そうでしたか」
依頼を受けたかった訳ではないことに、安堵する。将来性のある冒険者の道を邪魔するなんて、私がしたいことではないのだから。
そういえば、以前ノルサさんと話をした時に、「魔石をどう入手するか」が話題に上がったのだが、やはり一番は冒険者として自身がダンジョンに潜る方法が良いらしい。ダンジョン内は不思議な空間で、普通は魔物を倒せば、戦利品を手に入れるため解体をしなくてはならないのだが、ダンジョンのモンスター(ダンジョン内にいる魔物はモンスターと呼ばれるらしい)は、倒した瞬間身体が砂になり、崩れていくそうだ。そして魔石と何かしらの戦利品が残るらしい。
ダンジョンに潜るためには、冒険者になる必要があるはずだ。どんな依頼があるのか見てみようか、と思うけれど、まずは彼にお礼を言わなくてはならない。
「ライさん、ここまでありがとうございました。私は依頼表を見てみようと思うので、失礼しますね」
「依頼表を見るの?」
「はい、冒険者登録をしようかと思っているので、どんな依頼があるのかみてみようかと思いまして」
「そうなんだ。良かったら、僕もついて行って良い?僕も冒険者だし、疑問に思うことがあれば、教えることもできるから」
「ですが……先日から色々とご迷惑をお掛けしているので、申し訳なく思いまして」
ライさんの言動で、彼が優しいのは理解できた。だが、何故ここまで私を助けてくれるのかが分からなかったのだ。そう遠回しに伝えれば、ライさんは困ったような表情を浮かべている。
「えっと、君のことが気になるから……じゃ駄目かな?」
「気になる……ですか?」
「うん。目を離したらフラッと倒れていそうで……あ、そんな病弱じゃないことも分かっているつもりではあるんだけど……ね」
まあ、最初の出会いがあの事件だったのだ。頼りないと思われているのかもしれない。それに依頼を受けにいく訳ではなく、掲示板を見るだけなのだ。せっかく教えてもらえるのだから、お言葉に甘えてしまおうか。
「では、お願いしても宜しいですか?」
「任せてよ!」
そう答えた彼の顔には、作り物めいた表情は見られなかった。
「依頼掲示板の右側は依頼票が貼ってあって、左側は領内の武器防具屋が急遽休業する時に利用するお知らせ掲示板となっているんだよ。まあ、依頼数が多い時はお知らせ掲示板にも依頼が貼ってあることもあるね。上に貼られているものは高い級の依頼票だから、冒険者登録をしたら、シアさんは一番下段の依頼から受けてね」
「分かりました」
上から下まで依頼票の内容を確認したところ、成程一番下のランクである鉄級は魔物退治よりも薬草や木の実の採取がメインとなっているようだ。
冒険者にはランクがあり、鉄級から始まり、銅級、銀級、金級、白金級、金剛級となっている。金剛級は世界に数人しかいないそうだ。
ちなみにライさんからはダンジョンについても教わった。
世界に散らばって存在しているダンジョンは、各々のダンジョンごとに詳細な決まりがあるらしい。例えば、今回ブレア領の近くにある、今後私が行く予定のアウストと呼ばれるダンジョンは、鉄級は三階層まで、銅級は六階層、銀級は八階層、それ以上は最下層までと、どのランクがどの階層まで降りられるかが決まっている。
アウストなら大石は四階層以降から手に入る、とライさんが教えてくれた。だから最低でも銅級に上がる必要がある。ならば、今のうちに冒険者登録をしておいて、今日可能であれば、依頼に行ってみても良いのではないだろうか。
もし短時間で依頼を受けることができるのなら朝は数刻だけ店を開けておき、その後依頼を受けて帰ってきたら、また店を開けておくのも良い気がする。
そう考えた私は、ライさんに一言告げて、冒険者登録に向かった。窓口は勿論、ネルさんのところだ。
「あれ、シアさん。どうしました?」
ネルさんの窓口に顔を出すと、そこにはぶつぶつと何か書類を記入していた彼女の姿があった。影になったことに気づいたのか、すぐにネルさんは顔を上げたのだが、驚いたようにこちらを見ている。
「冒険者登録ってお願いできますか?」
「え?シアさん冒険者登録するのですか?」
「ええ。幸い魔法も使えるので、無理しない程度にやってみようかと思いまして」
「うーん、シアさんみたいな綺麗なお姉さんが魔物を……?いや、逆にそれは見てみたい気が……」
ネルさんが考え込むようにブツブツ言い始めてしまったので、登録制限があるのかと考えを巡らせていたのだが、彼女の後ろからエミリーさんの声が飛んでくる。
「ネル!また思考がぶっ飛んでいるわよ!」
「あっ先輩!シアさんが美しいから仕方ないじゃないですかっ!美しいは正義ですっ」
「……最近は治ったと思っていたのだけれど……シアさん、冒険者登録はできるから安心してね?」
「あ……はい」
やはりネルさんの思考についていけないな、そう思いながら彼女に冒険者登録をお願いしたのだった。
冒険者登録は簡単だった。提示された紙に、氏名と職業、使用できる武器や魔法を記入するだけだ。
「シアさんが使える魔法は風と水魔法なんですね……!も、もしかして……治癒魔法が使えたりは……?」
「使えますよ」
「なんと……!美しいだけじゃなくて、女神だったとは……!」
「え?」
治癒魔法を使えるだけで女神とは……?私の頭上には疑問符が乱立しているのだが、ネルさんはブツブツと呟きながらも、手は動かしているようだ。
「美しくて、性格も良くて、魔法が使える……しかもあまり使い手のいない治癒魔法を使えるなんて!天は二物を与えず、って言うけれど、シアさんには二物どころか三物、四物与えられている……まさに女神様!」
「……えっと?」
「はい、登録終わりました!このギルドカードにシアさんの魔力を注いでもらって……ありがとうございますっ!無くさないように気をつけて下さい!無くしたら銀貨3枚支払ってまた作り直さないといけないので」
きっと彼女の言葉の中には、返事をしなくて良いものがあるのだろう、と理解した。それが前者の言葉だ。
「ありがとうございます。気をつけますね」
「ぐふふ……美しい笑顔はやっぱり役得……」
「どうしました?」
「いえ、なんでもありませんっ」
こうして無事私は冒険者登録を終えたのである。
題名をつけた後に、サイト名と被っていることに気がつきました。
〜なろう、って表現がなんとなく好きなので、このまま採用します。
いつも読んで頂きありがとうございます。
誤字報告も本当に助かります。
この二日間ほどしょーもない誤字脱字があり過ぎて、若干凹んでおります……気をつけないと。
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