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僕の体積が邪魔でした

作者: 左内

 僕はちょっと前に、「どうも最近自分の体積がかさばりすぎてるように思う」と君に相談しました。

 あの時君は勘違いしました。

 いえ、肥満の相談と思うのももっともだったと思います。

 確かに体重は前より少し増えていましたし……


 でも、僕が気にしていたのは存在の無駄なだぶつきのことでした。

 わからないという顔する君に、僕はこういう風に説明しました。


「例えば顔見知りの人が向こうから歩いてくるわけです。通りにはほかにも人はいますが僕とその人はばっちり目が合っていて、お互いに気づいているのです。でも声をかけるには遠い。おまけにそんなに親しいわけじゃない。そんな時、自分の体積が邪魔な気がしてしまうのです」


 でも君はやっぱりわからない顔をした。

 僕はわかってもらうために、さらに説明を足しました。


 みんなが楽しそうに会話しているそばで、一人だけ会話に交じれず苦しい思いをしなければならないとき。

 同じ部屋にそれほど仲がいいわけでもない相手と二人、気まずい沈黙をやり過ごしているとき。


 そう、どれも自分の体が邪魔なのです。

 存在と言う体積が。

 できれば消えてしまいたい。

 僕が言いたいのはそういうことでした。


 最近人とあいさつを交わすことすらできなくなりました。

 あいさつの言葉が喉につかえるのです。

 人の目が見れません。

 僕もどうしていいかわかりせんが、きっと相手の方が戸惑うし困っているのでしょうね。


 君にはわかるでしょうか。

 どんな人とでもすぐに仲良くなれる君が、僕はとてもうらやましい。

 君にもいろんな悩みがあるんでしょうが、君の世界はとてもまぶしい。


 最近僕は夢を見ます。

 自分の体の外に出て、その自分の体を精一杯ぎゅうっと押しつぶす夢です。

 圧縮をかける。

 僕の体積を小さくする。

 とてもとても小さく押しつぶして、誰の邪魔にもならないようにする。


 本当はルンバのような機械になれたら一番いいです。

 そうすれば機械は無機物ですから、いくら和気あいあいとした場で何も言えずに不愛想に見えようとも、空気を壊すこともない。

 僕があくせく働いて世の中に貢献できることは、ルンバの機能で代用できます。

 それで誰も困らない。

 むしろ全員が喜べるのに。


 僕は自分を圧縮する。

 小さく小さく押し固める。

 せっせとせっせと縮こまる。


 ここまで話したところで君は不思議そうに言いました。


「なんの話をしてるのかわからないけど、大変そうだね。つらいの?」


 すこんと抜けるように素直な調子の声でした。

 思わず笑っちゃった。

 そうです。僕はつらかったのかもしれません。


 圧縮した僕の体積は、小さく小さくなっていき、でも本当はつらいんだっていう重さだけは変わりません。

 むしろ押しつぶせば押しつぶすほど心の痛みは大きくなる。

 質量÷体積の値は増して、最後にはどす黒い点になる。

 人とのつながりやぬくもりを、欲しい欲しいとわめき散らすブラックホールのようにです。


 そういうわけで方針を変えました。

 僕は自分の体積を薄めて行こうと思います。

 ふわっと広げて希薄にしよう。

 どこまでも軽く、見えなくなろう。


 理想は靴屋の妖精さんです。

 姿はないのに人の役に立つことはしてくれる。

 だから僕は自分を薄める。


 そして薄めて薄めて薄めきって。

 ついには君の目にも見えなくなろう。

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