表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

恋するヨシキリ

ヨシキリ

オオヨシキリとコヨシキリがいるが、どちらもやかましい。

淡褐色と地味だが、見ようによっては可愛らしい。



幸田様より素敵なレビューいただきました。

ありがとうございます!

 男子からのプレゼントは、仕分けが楽で助かる。総じて、全てゴミだから。

 積み上げられたダンボール、かつてベッドであったパイプと板きれ。生活感をまるで失った自分の部屋は、こんなに広かっただろうかと、懐かしく思うより違和感の方が強い。とはいえ、この部屋で過ごしたのは一年のことで、大した思い出もなければ当然かもしれない。

 女子からのプレゼントは……


「咲―!

 もうすぐ引越し業者のトラック来るから、のんびりしないでねー?

 あんたいつも、ここからが長いんだから」


 母親の声で一気に興が冷めた。母様、いいじゃないか、最後ぐらいセンチメンタルになっても。

 クラスメイトから貰ったプレゼントを選ぶ素振りをして、結局は全部捨てる。この一連の作業でカタルシスを感じるのが、私にとっての、この土地とのお別れの儀式でしてね。まあ、昨日の今日だから、私に発言権はないけど。

 ゴミ袋へとダイブするこれらのプレゼントは、昨日のお別れ会で、みんなから手渡しで貰うはずだった。しかしながら、主役の私が会をボイコットしたため、紆余曲折を経てここにある。少し話を戻そう。

 昨日の結城くんとの駆け落ちは、あっけなく幕を閉じた。所詮小学生の逃避行だ。大したことはできなかった。たまたま目の前を走り去る軽トラの荷台にGPSつきキッズ携帯を投げ込み、遠くに逃げる裏をかいて、学校の裏庭で2人きり、たっぷり、のんびり過ごした。いろんな話をした。将来のこと、これまでのこと、そして今できること。2人話疲れたころ、給食を逃したお腹が鳴いた。なんだか愉快になって、夕方に笑顔で手を振って、結城くんとお別れした。

 今日の夕飯はなんだろう、晴れやかな気持ちで家につくと、仁王立ちの母様が、鬼の形相でお出迎えしてくれましたとさ。

 さんざんのお説教で聞かされたのだが、どうやら教師をはじめ、警官にまでご迷惑をおかけしたそうな。中でも、携帯を投げ込まれた軽トラの持ち主である農家のおじさんは、任意だが事情聴取までされてとんだ災難だったらしい。

 さんざんのお説教に、各方面へのさんざんのお詫び、流石の私でも、これは夕飯ないなと悟った。日もすっかり暮れた頃に、やつれた感じの担任が家に来て、紙袋に入ったクラスメイトからのプレゼントを届けてくれた。


「なんにせよ、無事でよかったですよ」


 そう笑う彼の目は、ちっとも笑っていなかった。そして今に至ると。


 はいはい、もういいですよー。

 せっかく担任が届けてくれた物だけど、仕分けも面倒になり、プレゼントを集めた袋ごとゴミ袋に捨てようかと考えたが、ふと思い立ち、紙袋を無造作にひっくり返して、中身をフローリングにぶちまける。

 愛情のこもったガラクタを乱暴に掻きわけ、目当ての一品を探した。

 あったのは一通の手紙。オーソドックスな白色の封筒で、右端に可愛らしく四つ葉のクローバーが描かれている。控えめで清楚感のある便箋と封筒を選ぶあたりが、なんとも彼らしい。高鳴る胸の鼓動を感じつつ、封を開けた手紙へと目を落とす。




『夏目 咲 さまへ


 土曜日にカワセミを見にいったこと、夏目さんはきっと後悔されている事でしょう。』


 ああ、そうか。

 この手紙を書いたのは、逃避行より前なんだ。確かに昨日の一件がなければ、行くべきでは無かったと思っていたな。


『不意に手を取っておきながら、怖気づいた僕の事を、さぞかし弱虫と呆れられていることでしょう。』


 呆れてはいないよ。ちょっと残念だっただけ。

 そんな無茶には、少し憧れてたから。


『夏目さんの言う通り、僕は弱虫です。

 愛想良く笑うだけの、臆病ものです。

 でも、強くなろうと思います。


 だから、もう少しだけ待っていてください。

 綺麗に纏めて、僕を思い出の中に仕舞いこまないでください。


 夏目さんにとっての終わりの1週間は、僕にとっては始まりの1週間でした。

 夏目さんに罵倒され、傷つけられ、驚かされて、振り回されて、ハラハラドキドキの1週間でした。


 笑うなと言われました。

 嫌なことはしっかり主張しろと怒られました。

 猫の死体を埋めました。

 自転車の2人乗りをさせられました。

 デートでほったらかしにされました。

 双眼鏡の使い方、筋がいいとほめてくれました。

 おじさんにからかわれたのを、フォローしてくれました。

 手を掴みました。

 弱虫と言われました。

 手を振り払われました。

「またね」と嘘をつかれました。


 書いていて少し腹が立つぐらい、思えば夏目さんのペースに巻き込まれてばかりでしたね。

 だから今度は、お返しです。僕があなたを振りまわす事にします。


 必ず会いに行きます。約束します。

 海外に行く訳じゃないのでしょ?

 その気になれば、どこにいたって、いつだって会いに行けますよ。空飛んででも会いに行きます。


 まずはメールでも手紙でも電話でもいい。便りを僕にください。

 新しい学校の話が聞きたいです。鳥の話を教えてください。

 皇帝ペンギンの話だって聞けず終いでしたね。

 貴方の事を、もっと知りたいのです。


 どうか、僕は思い出にしないで。

 同じ朝日に目をこすり、同じ月を見ています。

 遠く離れていても、貴方と同じ時を生きています。


 優しくても綺麗でも、嘘は嘘でしかありません。

「またね」と言った夏目さんの言葉は、必ず本物にして見せます。


 また会いましょう。夏目様。

 結城はるきは、あなたの勇者になりたいです。」


 まったく、くさいから70点。ちゃっかり名前アピールしてるところは高得点っと。手紙を読み終え、独り言を言いながらそのまま仰向けに寝そべる。

 ああ、零れる、これだけじゃだめだ。軽く足を開き、両腕を耳の横につけて、「ハッ」と気合を入れつつブリッヂをする。


「咲―、だから急いでって……。

 なーにやってんの?あんたは」


 段ボールの積み重ねられた、殺伐とした部屋で1人ブリッヂをする私に、母親が心底馬鹿を見る目で「親の顔が見てみたい」と吐き捨てる。そのセリフ気に入ったんだね、母さん。


「ねー、母さん。

 携帯が欲しい。できればスマホ」


「はあ?小学生で?

 あ!結城君か!結城君だろ!!色気づきおって!」


「あーはいはい、そうだよ。

 言っておくけど、あんたの娘、万年ボッチだからね。友達ゼロ。

 伊達に通信簿に「咲さんはもう少し社交性を身につけましょう」なんて毎回書かれてる訳じゃないから。

 このままじゃ、将来碌な事にならないよ?

 初めてできた友達なんだからさ、応援してよ」


「はー。あんたなんちゅう脅し方するの。

 前々から話はあったんだけどさ。

 あんた、中学からおじいちゃんの家に行きなさい。

 もうついて来なくていいよ。

 生活能力ゼロのお父さんじゃ、単身赴任にはできないからさ」


「え、そんな急に言われても」


「中学からだよ。準備しておいて」


「そんな勝手に!」


 慌てて上体を起こし、部屋から出ていこうとする母親と目を合わす。まっすぐに向けられる、芯の通った力強い目を見た瞬間、諦めた。多分もう、私では覆せない。あれは子供にどうこう言わせない、大人の瞳だ。子供の都合なんてお構いなしなんだから、嫌になる。


「それと携帯、いいよ。お父さんには、私から話通してあげる」


 いきなりの事で頭がついていかない。

 中学から祖父の家?もう引っ越し無し?

 そんな、土地に根を生やす方法なんて、私しらないんだけど・・。

 両親と離れることもそうだが、もうリセットできないことに、得体のしれない恐怖を感じる。


「咲―!

 トラック来たよ!」


「あ、はーい!」


 まあいい。あと1年以上もある。

 とりあえず今は、今できる事から。


 次々と荷物を運び出していく、力強い引っ越し業者のお兄さんの邪魔をしないよう、部屋の隅で宝石箱を開く。

 取り出したのは、熊のぬいぐるみ'だった'『ベティ』の右眼。

 お役御免だよ。

 これからはもっとキラキラした思い出を仕舞うから、君はもう解放してあげる。


 同時に用意しておいた便箋1枚に、でかでかと一文を殴り書きした。


『ごめんなさい』


 全面的に悪いとは思っていない。自分勝手に利用したのはあっちだし。でも、あの時の私は、掛け替えのないものなんて、まるで分かって無かったから。大切な物を踏みにじられた悔しさは、今なら少しは理解できるから。


 この部屋、こんなに広かったっけ?

 宝石箱と私以外のすべての荷物を運び出され、何一つ無くなった部屋で大の字に寝転がり、ベティの右眼を眺める。

 たかがぬいぐるみの目玉1つ。きっと代用品を買って、すぐに手直ししているだろう。

 昨日まではそう思っていた。


 多分彼女はしてない。今日はそう思う。これからはそう思う。

 彼女にとって、ベティの右眼に代用品は無いんだ。痛々しく眼帯をつけたベティを想像し、チクリと胸が痛んだ。


「さよなら、ベティ。ありがとうね」


 胸の痛みを紛らわすように、ベティの右眼を太陽にかざす。

 半透明のプラスチックでできた、茶色く輝く大切なベティの右眼、光を吸収し、まるで本物の宝石のように眩しく輝く。

 とてもとても綺麗だ。


「あのねベティ、私ね、好きな人ができたんだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] ふふふふ(*´∀`*) ふふふふとなりました お母さんもさらっと素敵 いきなりの宣言もありましたがふふふスマホよかったですね ふふふふ(*´∀`*) 面白かったです!
[一言] いやぁ、感動の最終回でした。完結お疲れ様です。 結城くんからの手紙、じ〜んと来ました。 これからの2人がどうなっていくのか。 今回のことで、ちょっと夏目さんもちょっと大人になった感じがし…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ