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神様を信じるモズ

モズ

早贄の行動が有名で、小さな猛禽と言われるほど気性が荒い。

見た目はすこぶる可愛い。

 結局のところ、課題は終わらなかった。


「ごめんね、僕がモタモタしてたせいで、なかなか終わらせなくて」


 次の日の朝、教室で申し訳なさそうに頭を下げる結城くんの姿を前にして、「そうだね」以外の言葉が思い浮かばない私がいた。

 だって、結城くんの遅刻のせいだから。だって、結城くんの無駄口のせいだから。なによりも、変に強情で適当という言葉を知らないこいつの性格が、一々こだわりを見せ作業を滞らせたのだ。1ミリの情熱すらない私はコピペで終わらせる気満々だったのに、彼は本の内容を鵜呑みにするを良しとせず、「でもこちらの本にはこう書いて……」っと反論するため、その度に手が止まる。

 おかげで私たちは、この学校一の東ティモール通になれそうだ。こうなれば、もっと資料が揃うメジャーな国のリサーチにしておけばよかったと後悔する。マイナーすぎて、嘘書いてもどうせバレないし余裕と考えた、先週の私を殴ってやりたい。


 まあ、終わらなかったのなら仕方が無い。今日も放課後、2人図書室に集まる約束をした。


「引越し前に、めんどくさ」


 結城くんの顔が引きつるのを楽しみに悪態をついたのに、「そうだよねー」と穏やかな笑顔で流された。こいつ、私にだんだん耐性ついてないか?実は割と図太い神経してるのかもしれない。

 

「本当に、夏目さん忙しいなら後は1人でやるから。

 荷造りとか終わってるの?」


「まあ、だいたいは。

 引っ越しに関しては、もはやプロだから」


 プロフェッショナル。もちろんそれは大げさだが、最長でも2年、平均して1年で転入、転校を繰り返す私としては、荷造りはそれほど苦痛な作業では無い。

 近々で使わないものは、すでにさっさと段ボールにしまってあり、後は当日机とベッドを解体し、衣類を詰め込むだけ。どうってことない作業だ。


「そう。じゃあ、今日はがんばって終わらせようね!」


 惜しみなく、ひまわりの笑顔を降り注ぐ彼。

 どうしてそんなに笑ってばかりいられるのだ?守りたくない、この笑顔。


「お!放課後デートのお誘い?

 ヒューヒュー!熱いね―!!」


 ひょうきん者の、えっと誰だっけ?たけしくん?もうそれでいい。そのたけしくんが、こちらの会話に割って入り、冷やかしてきた。

 無視していればいいものを、顔を赤めて必死でそんなんじゃないと反論する彼。

 余計面白がられて、ついにはクラスの馬鹿ども数名が、寄ってたかって野次を飛ばす。


「こ、困ったなー。そういうのじゃ、無いんだけどな……」


 何故かヘラヘラと照れ笑いを見せ、頭を掻く彼。

 なんだろう、私だけが損した気分だ。


「どうして、からかわれて笑うの?」


「え……、いや、これは照れ困りっていうか……」


「嫌ならはっきりと伝えないと、笑ってちゃ相手に伝わらないよ?

 それともからかわれるのは、嫌じゃないの?」


「……そりゃ、嫌だけど、このくらいは…」


「私は嫌だよ。馬鹿にされるのは嫌。私のために怒ってはくれないのかな?勇者さま」


「勇者さまって。それまだ引っ張るの?

ところで、僕の名前分かった?興味ない?そういうの?」


「情けないな。結城くん、来週には苗字も忘れそうだよ」


 ポカンとだらしなく口を開けほうける彼を尻目に、席を立ってたけしくんの前に立ちはばかる。手を後ろで組み、私とさして背の変わらないたけしくんために腰を屈め、わざと上目使いで見上げてあげた。


「たけしくん、あーん」


 こんなときにしか絶対に使わない、声優が発声するような甘ったるい声で、たけしくんにさえずる。某アニメの巨匠は、声優の声は娼婦の声だと言っていた。あいにく娼婦の声は分からないけど、代わりに声優のモノマネならできる。

 うん、私は一生縁が無いだろうな。恋人の口へと、甘いお菓子を運ぶイメージで、甘く甘くささやく。


「たけし?かおるだけど?俺の名前」


「親はどう言うつもりで名前つけたんだろうね。

想像力が足りなかったのかな?まあ、そんなことはどうでもいいよ。

たけしくん、はい、あーん」


「たけしじゃないって……」


 意味が判らず困惑するも、それでも免疫のない女の子の声色と上目遣いで、頬を染めるたけしくん。彼が丸顔でよかった。頬はいい感じに赤くなったし、後は団子鼻をつくれば完璧だね。任せておいて。

 後ろ手にしたまま右手の拳を固め、そのまま大きく振りかぶる。


「あーん……パンチ!」


 -----------------------



 校庭の木の枝の先に、モズのはやにえが見える。

 確か、ここらを縄張りにしているオスが1羽いたはずだ。

 小さな猛禽と言われるモズが、捕まえた獲物を枝の先などに突き刺し、そのまま放置する行動をはやにえと言う。

 保存食とも言われるが、大抵は後で食べる様子もなく、そのまま放置される。その不可解な行動の目的は、未だ分かっていないことが多い。

 曰く、縄張り主張しているという説。曰く、狩猟本能に従った行動という説。だけども、私の考え方は違う。

 きっとあれは神様へのお供え物なのだ。神様を信じるのは、ヒトとモズとミーアキャットだけだと私は思う。

 ミーアキャットは太陽崇拝だけど。


 小5にして、男子との取っ組み合いで親を呼び出されるとは思わなかった。

 大げさな、女に殴られたぐらいで。

 まあ、体格変わらないけど。鼻血でてたけど。


「たけしくんの鼻が、私の右手を殴りました」


「たけしじゃねーし!鼻が殴るってなんだ!?」


 女々しく反論するたけしくんを無視して、傷めた右手を見せながら、担任に報告した。呆れて言葉が見つからない担任を待たずに、呼び出されて私の横に立つ母親から、容赦ないゲンコツが落とされた。


「まあまあ……。

 先に手を出したのは夏目さんでも、どうも原因は薫君にあるようですし。

 その後は、まあ、お互いさまというかね…」


 平謝りする母親に対し、担任がフォローする。

 たけしくんの親も、相手が女とあっては、それほど強くは言えないようだ。まあ、私も何発か殴られてる訳だし。


「ほら、夏目さん。薫君に言う事は無い?

 お互い仲直りして、今回の件は終わりにしたいんだけど」


「女の顔を殴るなんてサイテー」


 もう一度容赦ないゲンコツが母親から落とされ、そのまま頭を押さえつけられ無理やり謝罪させられ、大した怪我でもないのでそのままお開きになった。まだ午前中なのに、私は『怪我』扱いでそのまま母親と帰宅することになる。怪我など、母親の二度にわたる鉄槌以外なんともないのだけど。


「あんたって子は本当に。親の顔が見てみたい」


 なかなか洒落た冗談を口にした母親と一緒に、職員室をあとにする。

 ちょうど中休みだったので、廊下で律儀に結城君が待っていた。


「あ……あの」


「今日はもうこのまま家に強制連行らしいから、明日放課後に変更で」


 早口でそれだけ彼に伝えると、何か口ごもる彼の発言を無視して、そのまま廊下を歩き続ける。


「さっきのが、噂された結城君?かわいい子だね。お母さん好みよ」


 母親がニヤニヤしながら顔を覗き込んでくる。たけしの次は母親か。全くどいつもこいつも。


「あーん……」


 パンチ。そう呟く前に、本日3発目となるゲンコツが頭上に振り落とされた。まったく、乙女の頭上にポコスカと。

 後で冷やしておかなきゃ。これ絶対たけしに殴られた頬より酷いことになってるよ。

 このご時世になんて暴力的な母親だ。DV子供相談室に電話してやろうかしら。

 本当に、こんな親に育てられる子は、どんな大人になることやら。子供の顔が見てみたい。


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― 新着の感想 ―
[良い点] >きっとあれは神様へのお供え物なのだ。神様を信じるのは、ヒトとモズとミーアキャットだけだと私は思う。 この主人公の感性すこ。 結城くんもきっとメロメロでしょう(確信)
[一言] やっぱりこの連載好きです 「あーん」 そうか、そんな手が……(笑) 「あんたって子は本当に。親の顔が見てみたい」 お母さん、お洒落ですね 私もこれぐらい言えるようになりたいです
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