帝国の終焉(しゅうえん)
キーワードでも書きましたが、改めまして。
ごめんなさい。
「この私、帝国第一皇子が、我が婚約者である連合国王女との婚約破棄をこの場で宣言するっ!」
ここは帝国の新年を迎えるパーティーの会場。
とても広い会場の天井は総ガラス製で満点の星空が見え、会場に金や物資を突っ込む帝国の本気が見える。
その会場にて、信じられない事態が進行している。
「………………」
はずなのだが、帝国側の参加者は全員が静かである。
逆に連合国側は大混乱。
一体どうなっているんだ!? 等のざわめきがあちこちで響いていた。
帝国。
それはこの世界において、国名さえも挙げる必要がないほどの大国。
帝国。 それだけを言えば、コレだと言われる存在である。
連合国。
帝国に対抗すべく結成された連合体。
各国で、ある程度のすり合わせは有るが、法律等は完全に統一されていない。
それでも帝国に抵抗する共通の意思を見せて柱とするべく、国と名乗る。
定期的に国の代表が集まって、連合国としての代表……王――――大統領みたいなものだが、事情により王とあえて呼称――――を決める合議制。
小国ばかりが集まった、烏合の衆だと馬鹿にされる事もままあるが、各国の強みを活かした連携は馬鹿にできない。
現に帝国へ何十年も抵抗できている事実から、その能力は察せるだろう。
帝国と同様、連合国と言うだけで、真っ先にここが連想されるほど有名。
そんな二国で婚約をしようとしていたのは、もちろん戦争で双方の国の疲弊が目立つようになったからである。
つまり和平の象徴として、お互いに望んだ事なのだ。
それを、それをこうもあっさり覆されては、連合国とて静観している場合ではないのだ。
「この婚約は、両国の未来のための婚約。 それを分かっておいでですか?」
王女が皇子の目を見て、正当な問いかけを行う。
当たり前だ。 戦争なんかもう沢山。
だから両国で和平を……となったはずなのに、こんな手の平返しである。
両者が合意して行う婚約の解消……ではなく、問題があって婚約の破棄なのだ。
破棄をするなんて、穏便な話ではない。 明らかに遺恨が残り、戦争の再開一直線だ。
王女は皇子へ失礼も無礼もみせた事は無い。
なのに王女を睨みながら、糾弾するような、こちらに非があるような態度だ。
そりゃあもう、正気を疑う。
「ハンッ! 何を言い返すかと思えば」
王女の問いかけに鼻息で答えた皇子は、いきなりそっぽを向いて、その方向へ手招きをする。
手招きされて出てきたのは、馬鹿みたいに宝石類を縫いつけられた豪華なドレス姿で、その宝石をジャラつかせて歩く淑女。
「帝国の公爵家の末席を汚しております者ですわ」
挨拶の姿の雑さもあわせて、なかなかにパンクな挨拶をかましたご令嬢。
名前を名乗らない様子からも、王女――――ひいては連合国をも舐め腐っているのは明白。
令嬢の挨拶が済んだと見たのだろう。
皇子が満足そうにひとつ頷くと、再び声を張り上げ、一緒に大袈裟な身振り手振りで演説をはじめる。
「ここにいる連合国の王女は、我が国の誇る公爵が愛する娘たる令嬢へ、不遜な行いを繰り返していた!」
ここで帝国の貴族達が、渾身のブーイング。
そのブーイングのうねりは会場を制圧し、連合国側の者達を威圧する。
「視線が合えばところ構わず面罵して貶め、去り際には首を掻き切る仕草を見せつけ、見えない所では悪評のばらまきや破壊工作活動に勤しむ。
どこまでも腐った連合め! 連合国との和平などは、間違いだったのだ!」
表現過剰な皇子の演説はそこで途切れ、すかさず帝国貴族達から沸き起こる、称賛の嵐。
拍手に指笛、よく言ってくれたと声が飛び、公爵令嬢が皇子へすり寄り、うっとりした顔で腕に絡みつく。
果てには皇帝とその妃までも、座席で大きく頷いている。
「よって、婚約者はこの公爵の娘へと変更となった。
残念だったな、戦争は続くぞ?」
とどめに勝ったと思い込んだゲス顔で、連合国側を思いっきり見下しながら、ご令嬢と戯れだした。
これには騒いでいた連合国側がだんまり。
毅然としていた王女も扇子をひろげて、口を隠してモゴモゴと呟いてしまうほど。
皇子の糾弾内容に覚えが有るからだ。
面と向かって罵倒されたり首を掻き切る仕草等をされたと、王女から王へ相談の手紙を送ったと、連合国の貴族へ周知されたので。
あと、それぞれの領内でなぜか領主や国への事実無根な悪評が広がったり、物資の輸送隊がテロに襲撃されたりされた覚えがあるので。
それ以前にもう少し何か計略があると思って、連合国側の全員は帝国にいる間、全行動を記録していた。
帝国から理不尽な難癖をつけてきたなら、これを主張して無実を訴える気でいたのに、それすらすっ飛ばされて戦争続行発言。
そう。 ここで確信した。
証拠が無くて口には出していなかったが、可能性として考えていたそれ。
帝国は、もとから和平なぞ考えていなかった。
連合は帝国の国内経済事情を、ある程度把握している。
ここで和平を結ばねば、帝国の未来は衰退する道しか残らないだろう。
そんな分岐点だと見込んだこともあって、和平の道を進んだのだ。
それをこうもあっさりと、最悪な一手できやがって。
連合国側の気持ちは定まった。
極めて低い可能性。 まさかの決断を見せた帝国に、王女はひろげていた扇子を勢いよく閉じる。
「分かりました。 そこまで婚約破棄への意志が固いのでしたら、祖国へ帰り私の正統性を公表いたしますわ」
王女の声も目も胆も据わった。
連合国側全員とアイコンタクトを済ませ、小さく頷き合う。
「それではごきげんよう。 この場におられる帝国の方々とは、二度と会うことは無いでしょうけど」
最期の挨拶をビシッと決めて、連合国側の全員は転移魔法の魔道具で、帰還をしていった。
~~~~~~
「ははは、あいつらは表面をなんとか取り繕っていたんだろうが、見事な逃げっぷりで我々を恐れていたのが丸見えだ!」
皇子の下品な侮蔑を聞いた貴族達は、追従するように笑う。
だが皇帝と妃は笑っておらず、その顔は仄暗い。
「息子よ。 貴様の案を採用してこうなったが、本当に勝算は有るのだろうな?」
「もちろんですよ父上。 我々はこれから直ぐに出撃。
逃げ帰って今後の相談で混乱している連合国を、一気呵成に襲撃・占領。
これ以上無い電撃的な侵攻策です。
あとは高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応するだけ。
絶対に勝てますよ」
弱気になっている皇帝に対して、自信満々なまま高説を打つ皇子。
「だと良いのだが」
「ずいぶんな弱気ですな」
「…………」
「……ふんっ」
高説に色好い反応を示さない皇帝が、皇子は気に入らない。
だがそんな皇子など気にしていられない。
なにせ皇帝は知っているのだ。
絶対なんて存在しない。
これで侵攻に失敗したら、帝国は確実に今のままの帝国ではいられない。
そのリスクを前にすれば、こんな速攻策は採るべき案ではないと、皇帝はどうしてもその弱気を拭えないのだ。
……ふぅ。
そんな気の抜けた溜め息をひとつ吐き、気晴らしに星空を見上げる皇帝。
「…………ん、なんだ? この艦の上に、宇宙戦艦を浮かべる指示を誰かが出したのか?」
つい。 そんな語調でポツリと洩らした皇帝の言葉に、背後で控えていた近衛兵が慌てだす。
そんな動きを察知した貴族達も上空を見上げ、状況を理解し、やはり慌てだす。
そう、このパーティー会場は、宇宙に浮かんでいるのだ。
会場を艦と呼んでいるが、実際のところは豪華客船だ。 非武装船であり、自衛能力は無い。
対して接近しているのは、正真正銘の帝国軍艦。
皇帝が慌てているために宇宙巡洋艦を宇宙戦艦と見間違えているが、接近してきている事実は変わらない。
「上空の接近艦に、早く退けと伝えろ!」
誰が指示をしたのだろうか?
切羽詰まった声が、ことの大きさを物語っている。
「接近艦と交信不能!」
「接近してきている! このままでは衝突するぞ!!」
「周囲の護衛艦は、何をしている!?」
あのあとにも、様々な怒声や悲鳴が会場を飛び交う。
「所属不明艦と交戦中との返答!」
「天井を閉めろ!」
「操作、受け付けません!」
「艦が暴走! こちらもあちらの艦へ接近しています!!」
「回避不能! 回避不能ぉっ!!」
「出せ!! この会場から出させてくれぇ!!!」
「いやあああぁぁぁああ!! 殿下! 殿下ぁぁぁああ!!!」
「ええい、脱出艇はないのか!? 私だけでも生き残らんと、帝国の未来が!!」
「会場内の扉、全て開きませぇんっ!!」
「ぶつかるぞぉっ!!!」
「対ショック姿勢っ!!」
衝突して対宇宙用強化ガラスが割れる様をぼんやり見ながら、連合の王女が二度と会うことは無いと言っていた意味を噛みしめ、皇帝は思う。
帝国は終わったな……と。
不幸な事故により、大銀河帝国の重要な幹部階級以上の人材は完全壊滅。
指導者不在で大混乱の中、宇宙連合国に侵攻を受けた。
領土の9割以上を奪われたところで帝国の生き残りはなんとか立ち直り、国の体裁はなんとか死守したが、かつての勢いは既に無い。
その立ち直れた原因が、完全勝利を前に連合内のどの国が帝国へトドメをさすのかと、内輪揉めを始めた隙を突けたからだと言うのが失笑もの。
帝国の領土を侵略して国力を得たために、それぞれが力に酔いしれて、気が強くなってきているのが、連合国内の意見をまとめにくくなった主な原因。
しかも帝国がなんとか立ち直れたと言っても、結局は皇帝の血が完全に途絶え、共和国へと政治体制を変えた。
最終的に内乱で分裂した連合国だった国々と、共和国。
戦乱は未だにおさまらずに泥沼化し、宇宙戦国時代へと世は突き進んで行く。
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謝罪
ジャンル間違いなのは重々承知です。
ですが、この作品の目的である「ファンタジーはファンタジーでも、実はSFが主体の魔法世界でしたー!」をするため。
どうしてもジャンル詐欺をせねばならなかったのです。
それをどうかご理解頂けますよう、深く深くお願い致します。
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蛇足
王女
噂だけは色々有るが、この話以降での公式な記録は完全に消えている。
王女の国内で逆ハー愛され姫でウハウハ生活だったとか。
帝国で婚約破棄されたショックから立ち直れずに、閉じこもってしまったとか。
誰か心に決めた一人だけに愛されて、平穏な生活を送ったとか。
宇宙戦国時代で宇宙艦隊を指揮する女傑として歴史に名を刻んだとか。
王家から離れ、田舎の星でスローライフを満喫したとか。
異常な能力が芽生え、各地を旅して回り、様々な伝説をのこしたとか。
退屈な日常にサヨナラして、ハガネの肉体でまぎれもなく奴さして、世を騒がせたとか。
楽器一本と改造した宇宙戦闘機だけを味方にして、音楽の力で戦争を止めようとしたとか。
お供を数人だけ連れて宇宙へ飛び出し、宇宙の賞金稼ぎとして痛快活劇を繰り広げたとか。
何が正しいのか、全てが嘘なのか。 それは誰にも分からない。
一緒に離脱した連合の貴族達
特に情報は無し。
それぞれがこれ以降、それぞれでそこそこに活躍した……んだろうね、多分。
知らんけど。
帝国の不幸な事故の真実
もちろん連合のしわざ。
ゴーサインは、王女が扇子をひろげてモゴモゴした時に、王女が指示した。
実行犯はいない。
強いて言えばプログラム。 マルウェアとかワームとか、そう言った種類を魔法で作ったモノ。
一回限りの奇襲用として、帝国に仕込んでいた。
婚約破棄せず、何事もなくパーティーが終われば、なにも起きなかった。
起こすつもりはなかった。
あの馬鹿が婚約破棄して戦争を続行すると言わなかったら、やらなかった。
連合が“もしも”の事態に備えて用意していた、非常手段。
よって帝国が悪い。
技術体系
根っこは魔法。
それが科学技術っぽい考えも取り入れて、発展したのがこの世界の技術。
宇宙で艦隊戦を普通にする位に、発展している。
いわゆる銀河で英雄が伝説をのこしちゃう系とか、星々で大戦争しちゃう系に似た世界です。