3話 城
グラッ
「また揺れたね。さっきの唸り声みたいなのも怖いし……」
「あぁ、だからさっさとこんな城おさらばしよう」
「城? ここお城なの?」
そうか莉乃は外から見たイメージを感じ取ってないから、ここがどんなところかわかってないのか。
「そうっぽいぞ。ほら石造りの古い感じの」
まあなんでそんなところに来たのかっていう一番の疑問は置いておくとして、とにかくここに来たときの部屋に戻るのが先決だ。
「よし、立てるか? ここに来た部屋まで戻るぞ。もしかしたら帰れるかもしれないからな」
バキバキバキッッッゴゴゴゴゴゴォ
「今度は外から、すごい音がするよ!」
城の外でなにか怒っているのか、木々が倒れ土がえぐれるような音がする。
これはもしかしたら、本当にマズイことが起きているのかもしれない。
「ちょっと待ってろ。集中する」
キョトンとしている莉乃をその場で立たせ、俺は壁を見る。そして目を瞑る。
サイコメトリーと同じく、脳の中心に向かって自分の血液を送り込むイメージで脳を活性化させる。ただしやりたいことはさっきとは違う。今度はクレヤボヤンスだ。
日本では千里眼とも言われるこの超能力。昔の日本にはこれができる人物がいたそうだ。ただ俺が得意としているのは、どちらかと言うと、目の前の物質を透過してその奥を見ることだ。これにより隠れているものも見ることができる。
今回の場合、外の様子を見たいが小窓は小さいのがはるか頭上にあるだけなので、クレヤボヤンスでも使わないと到底観察できないだろう。
見えた!
「なっ、何だこの生き物はっ……」
そこで見えたのは、城の三分の一から二分の一くらいの大きさはあろうかというドラゴンだった。背には黒いヒレが美しく立っており、全身にはあかいウロコをまとっている。その肉食獣のような大きな口からは今にも炎でも吐きそうな印象を与える。
ここやっぱり、本当に異世界、なんだな……
確かに部長は言っていた
「別にこの噂のこと教えてあげてもいいんだけれど、どうなっても知らないわよ?」
「どうって何だよ」
「へえ~、シラを切っているのかしら。本街君。あなたなら、わかるでしょう?」
そういって大げさに窓からこちらを振り返って、こちらを伺う。
「私にはわかるの。あなたはきっと、本当に不思議な力を持っている。だからどんな謎も解決できるんだって」
「そういう先輩こそ、ミステリアスで不思議な印象を俺に与えてますがね」
「あら私に興味を持ってくれているのかしら? 嬉しい。なら私の謎も解明されちゃったりして」
またも大げさな動きでこちらの唇に小指を乗せるような仕草をする。
ミステリアスっていうか、不思議な印象を受けるのはそういう謎めいた仕草のせいだと自覚していないんだろうか。
「本街君は、もしかしたら隠しているつもりなのかもしれないけど……そうだなあ、魔法っぽいけど、多分超能力のようなものが使えるのよね?」
驚いた、俺の行動でも観察されていたんだろうか。会長の前では特に気を使って、感づかれないようにしてきたつもりなんだけどな。
「そのチカラを使って七不思議を調べたら、何らかのセカイの理にでも干渉して本当に異世界に飛ばされるかもしれないわよ? ふふっ、それでもいいのね?」
「だれが超能力者ですか。だれが。俺はちょっとオカルトに首を突っ込みたくなるだけの、普通の一般人です。会長の心配は邪推ですし、杞憂に終わるでしょう」
「そう? だといいのだけれど。またいつか話せるようになったら、教えてね。あなたの謎、私も解明してみたいから」
またも謎めいた事を言って俺の心を惑わせる。その言い方だと別の意味に捉えちまうだろうが……
すると俺の口先にあった手を避けて、体を窓の方に翻して窓から下の方を覗いている。
「星海高校七不思議、その七、『異世界への扉』それは前の生徒会長から聞いたことがあるわ。なんでも倉庫になっている、地下一階北階段の裏に異世界にいける扉があるんですって」
「そしてそこの扉は時たま、人を呼び寄せては扉開き、異世界に引き込んでしまうんだそうね」
「私は見たわ、昨日の放課後フラフラと歩いていた莉乃ちゃんが地下へ歩いていくのを……まさか、異世界にいざなわれてたりしてね」
そのまさかでしたよ会長。俺も莉乃も会長の言ったとおり、異世界にいざなわれてしまいました。あなたの洞察力はもはや超能力の領域なんじゃないかと思いますね。
でも来てしまったからには、まずこのレッドドラゴンをなんとかしないといけないな