2話 異世界転移
「なんだ、今のは……まるでいきなり体の感覚器官を遮断されたかのようだった……」
先程おきた出来事に理解が追いつかず、思わず両手を見て心を落ち着かせようとする。
良かった、腕はちゃんと有る。感覚も戻ってきた。驚いて腰を抜かしていたようだ。
だけどどうしてだろう、手のひらにはホコリではなく小さめの小石や砂利が付着しているではないか。なぜだろう、いくら地下とはいえ砂がばらまかれいたら掃除されているはずだろうに。
そんなことはどうでもいい、今はサイコメトリーの続きを……
「そうだ、さっき見たイメージはなんだ。……まさか、ここがそうだっていうのかっ!」
先程サイコメトリーを使ったときに流れてきた情報は、莉乃が階段裏の壁に手を置いて、その後なぜか、ヨーロッパ風の貴族が住んでいそうな大きなお城のイメージが流れ込んできた。なんのことかと思い、更に情報を引き出そうと思ったらよくわからない場所にいた。
まさかその城がこの薄暗い石造りの空間だとで言うのだろうか。いや、イメージで見た城はかなり大きかった。その部屋の一部だとしてもおかしくはない。
やはり、噂だと思って真偽を確かめずありもしないなどと言うのは、ナンセンスなのだ。実際に本当だったではないか、少なくてもここが異世界じゃなかったとしてもおかしなところに飛ばされたことは間違いない。
おそらく莉乃も、何らかの事情でここに転移してしまったのかもしれない。だとしたら、一刻を争う。ここが異世界だとしたら何が怒っているかわからない、超能力も持たない一般人なんてここでは無力に等しいだろう。まずは、探して合流しなければ。
「もしここに莉乃が来ているなら、またサイコメトリーを使って居場所を突き止めるまでだ」
俺は片膝をおろし、地面に左手をついた。チカラを発動した瞬間、グラっと地面が揺れた気がした。まだ本調子ではないから脳が錯覚でも起こしたのだろうか。
いかん集中しないと情報がまとまらない。
よかった、石造りの床だが、しっかりとイメージが残っている。どうやら昨日、莉乃はここへ来てしまい、しばらくここにとどまったあと歩いてこの先の通路に進んでしまったようだ。
よくよく見たら、ホコリと砂が混じった地面には軽く上履きの足跡が残っている。
はやく向かおう。
あまり足音を立てないように、足早に廊下を駆け、サイコメトリーで読んだ情報を頼りに一直線に莉乃のもとへ向かう。
「莉乃っ……はぁはぁ、やっぱりここにいた」
そこにはうずくまっている莉乃がいた。どうやらここは他のところよりも風通しがよく上の方から光が差し込んでいる。居心地が良かったのだろう。
「か、かいと~~~。ぐすんっ、助けに来てくれたんだね」
「当たり前だ、お前は昨日から行方不明になってたんだ。だから探しに来た。一日、ずっと一人で辛かっただろうな。一緒に帰ろう」
「うんっ!」
莉乃の目は少し赤くなっており目の下はくまができていた。きっと不安で、夜も眠れなかったのだろう。当然だ、こんな広い迷宮のような城に女の子が一人で放り出されたのだから。
俺は莉乃の手を握り、こちら側に手を引き立ち上がらせた。
グラッ
「きゃっ……なんか揺れたけど快飛は大丈夫?」
地面のそこから来るような急な揺れによって、一瞬フラッとしてしまうが莉乃を抱きとめる形になって落ち着いた。
「あぁ、こんなの大したことないだろう。そんなことより、ここは何があるかわからない早く脱出を……」
グオオオオオォォォォォォ
俺が言いかけたところで、地のそこから城全体に響き渡るような低い唸り声が聞こえたのだった。