怒りながら口説いてくる俺の婚約者
俺には悩み事があります。
それは婚約者のこと。
悪い子ではないが、ちょっと変わった子。
怒っているのに俺を“口説く”んです。
『ちょっと!!ランス様!!いい加減にしてください!』
今日もはじまりました、俺の婚約者様であるアーリャが怒ってしまいました…。困ったな、どう対処するのがいいのでしょうか…。
そもそも何故、怒らせてしまったのでしょう…。
『かっこいいにも程があります!やめてください、モテてしまいますわ!私という婚約者がいながら、他の方に好かれるなんて、許しませんからね!』
「……す、すみません?」
『私が怒っている理由がわかっていませんね?!そういうところですわ!可愛らしい仕草をするのも控えてください!』
「アーリャ、俺は男ですよ。可愛くはないと思いますが…」
『もう!全然わかってませんわ!』
アーリャはいつもこんな調子で俺のことを口説くように怒ってきます。珍しい怒り方で、正直みてて面白い。
だけど、息をするように口説き文句を言うので…照れくさいですね、嫌ではありませんが。
『かっこいいのを気を付けてください!』
「どうやって気を付けるんですか…」
『顔は仕方ありませんわ、生まれつきかっこいいので。ですが服装ですわ!かっこいいのにさらにかっこよくなってどうするんですか!!』
「う、うん??君がくれたネクタイピンが合う服を仕立ててもらったんですが、気に入りませんか?」
『いいえ!私のプレゼントを身に着けてくださっているのは嬉しいです。その召し物もよく似合っています。見惚れてしまいますわ。』
かっこいい、でゲシュタルト崩壊しそうですね…。
こうも褒めちぎられると自惚れてしまいますね…まぁ、アーリャが俺にベタ惚れなのは婚約当初からですし、なんならアーリャの強い希望ですし…俺は満更でもないですけど。
「気に入ってくれて嬉しいです。ですがそんなに怒らなくても…」
『怒りますわ!だって…見てください、みんな見惚れていますわ!軽率にモテないでください!』
「確かにみられてますね…見惚れられてるわけではなさそうですが…」
『いいえ、いいえ!!見惚れていますわ!こんなにもかっこいいんですもの!!淑女の皆様!ランス様は私の婚約者なんですからね!!』
「あ、アーリャ…そう言わなくても皆様は知っていますよ…」
『心配なのです!ランス様かっこいいから、モテてしまいます!だから毎日の牽制は欠かせませんわ!!』
「そうですか…ですか淑女なんですからあまり声を荒げてはいけません。授業が始まりますので、またあとで。」
『気を付けますわ。では、またあとで。』
……はぁ~~俺の婚約者可愛すぎませんか??婚約してから六年、ずっと俺のことを口説くんですよ?怒りながらですが。周りの人にはもう俺とアーリャの仲を引き裂こうなんて人はいないのに、俺はアーリャのなのに。
「ランスはいいな。あんなに牽制されてれば女は言い寄ってこないだろう。」
「ジーク王子…えぇ、そうですね、周りの方も俺がアーリャのものであると理解してくださっていて助かります。」
「羨ましいものだ。」
「何を言うのです、マリア様もなかなかだと思いますが?」
「あいつは俺にしかアピールしない。リリアン嬢がウザいくらいに絡んでくる。」
「あ~」
この国の王子であるジーク様とその婚約者であるマリア様は、俺とアーリャが婚約した同時期に婚約した。家柄の関係で昔からの付き合いですが…マリア様とはあまり話したことがありません。
ジーク様がすごい牽制するので…その割にはマリア様のことを惚気てきますけど…
「リリアン嬢もしつこいですね。ジーク様にすごい拒否されてるのに」
「そうなんだよ…マリアが嫉妬する姿がみれるのは嬉しいんだがな。」
「マリア様嫉妬するんですね」
「はぁ?当たり前だろ、あいつ俺の事大好きだからな。」
「すごい自信ですね」
「お前も愛されてる自覚、あるだろ?」
そりゃあ、愛しか感じませんね。俺も愛していますし…
『かっこよすぎますわ、見惚れてしまってお勉強できません!!』
『モテるのやめてください!ランス様は私のでしょう!!』
『好きすぎて寿命が縮んでしまいますわ!責任を取ってください!私と結婚して死ぬまでそばにいてくださいね!!』
『顔が良い、頭も良い、運動神経も良い、家柄も良い……完璧すぎではありませんか?!困ります、さらに惚れ込んでしまいます!!』
昔から俺を好いてくれる可愛いアーリャ。きっと気づいてはいないでしょうが、俺もアーリャを愛しています。アーリャのように熱く口説きたいのに、アーリャが俺を口説き続けるからタイミングが見つかりません……早く結婚したい。速攻で手を出してやります。
「…ランス様」
「あれ、マリア様…珍しいですね、どうされましたか?」
「アーリャ様のことでお話が」
「なんでしょう…?まさか粗相を?」
「まさか。あの子変わってるけど、素晴らしい淑女だよ」
「…あ、はい。」
「…すごい悩んでたの。ランス様に怒ってばかりで可愛げがない素直になれない…嫌われてるかもって…」
「はい???」
確かに怒ってばかりですが…怒っている内容がすごい可愛いですし、ぷんぷん怒っている様子もすごい可愛い。何故そのようなことで悩んでるんでしょうか…まさか無自覚?六年間無自覚で俺を口説いていたんですか、俺の婚約者は。可愛すぎですか?
「……嫌いにならないであげてね、あの子…多分私と同じだから。」
「マリア様……」
知っています。
マリア様とアーリャが婚約者であるジーク様と俺の事を愛していて、素直で、可愛いのは知っています。
俺のアーリャのほうが可愛いですけどね!!
ランス
アーリャの婚約者。いつも怒られながら口説かれてる。正直アーリャに手を出してしまいたい。
アーリャ
ランスをいつも怒りながら口説いている婚約者。ランスに一目惚れしていて、毎日まわりを牽制してる。
ジーク
国の王子。マリアとは婚約の関係にある。
マリア
ジークの婚約者。なんでも肯定する癖がある。