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少女は瞳を閉ざさない  作者: 豆内もず
6話 忘れない少女

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忘れない少女5

 佳乃の呪いについての真実は未だに不透明なままであるし、加えて自身が呪われているという事象に決定打を打たれてしまった。

 結局何から考えればいいかもわからず、あーでもないこーでもないという問答だけが脳内を駆け巡り、気がつけば俺の足は佳乃宅へと到着していた。


 家に着いてからも思考がまとまらないまま、落ち着かない夜が過ぎていく。

 これもまた嫌なもので、思考とは裏腹に空腹感だけがしっかりと意志を伝えてくる。

 コンビニに行くか、いや、もう一度外に出るのもなんだか野暮ったい。けれど、もやもやした感情がじっとしていることを許さない。

「なにか作るか」

 自炊などほとんどしない俺だが、意を決してキッチンへと立った。

 そういえば、以前に佳乃が落ち着かないからずっと料理を作っていたと言っていた。いまなら少しその気持ちがわかる気がする。

 どうせなら感情だけではなく、佳乃先生の手腕そのものをお借りしてしまおう。そう思い立った俺は、本棚に仕舞われている佳乃のレシピノートを手にとった。

 この家に住むことになった最初の日、室内を物色した際に存在を知った佳乃のレシピノート。改めて見返しても、細かに書かれたメニューに感心させられる。

 俺はぺらぺらとレシピをめくりながら、献立に想いをはせた。すると、思考を遮るように、するりとレシピノートから何かが滑り落ちる。からんという金属音が、鋭くキッチンに響いた。

「なにか挟まってたのか」

 俺は落ちた金属を拾い上げる。本から滑り落ちたそれは、どうやら何かの鍵のようだった。なんだこの既視感は。この形状の鍵を、わりと最近目にした気がする。

「んー?」

 まじまじと鍵を見つめながら過去を思い出していると、案外近くに答えが転がっていた。

 俺は一旦レシピを置き自室に戻り、自分の荷物の中から目当ての物を取り出した。


 以前図書館で、呪いにまつわる本と一緒に渡された南京錠付きの本。

 受付の職員いわく、俺が忘れたものだというこの本は、俺の持つ鍵では解錠出来ず、結局中身がわからないまま荷物の奥底に放り込まれていた。

 この本の持ち主はおそらく佳乃である。佳乃が目を覚ましたら何の本だか聞こうと思っていたのに、今の今まですっかり忘れていた。

 本を留める南京錠に、先ほどの鍵を差し込む。見立てどおり、形状はばっちりだ。図書館の利用カードに貼り付けられていた鍵では開けられなかったものが、こんな棚ぼたな形で開くのだろうか。

 鍵を右回りに捻る。かちゃり、と錠が外れる音が響く。

「あ、開くのかよ」

 南京錠を丁寧に外し、俺は本の中身を物色する。これは……日記帳だろうか。日付と天気のあとに、文章が書かれている。


 最初のページには二年前の日付が記載されており、三行ほどであっさりと終わっている日もあれば、一ページに渡りびっしりと書かれている日もあり、一日と欠かさず日付が刻まれていた。

 一週間ほど日付が進んだところで、俺は急いで本を閉じる。鍵までつけられている人の日記帳を勝手に物色するなんて、なんと趣味の悪いことか。

「まあでも、佳乃がこれを俺に渡そうとしていたってことは、多分読んでいいんだよな」

 誰に向けてかもわからない言い訳が、ぼそりと室内を伝う。

 丸っこくて可愛らしいこの筆跡は、おそらく佳乃のものだ。つまりこれは佳乃の日記帳。佳乃が自身の日記帳を俺に託そうとしていたことは間違いない。

 直接渡さず図書館を経由した意味は全くわからないが、とりあえずはこれは読んでいいもののはずだ。そうに違いない。

 邪念に完全敗北した俺は、もう一度本を開いた。佳乃がこの本で何かを伝えようとしているのならば、俺にはそれを受け止める義務があるはず。

 そんな大義名分を掲げたが、結局のところ俺と会う前の佳乃のことをもっと知りたかった。

 興味と好奇心を胸に、俺は日記に目を落とす。

『今日は変な人に出会った。失礼なことに私が呪われていると言い、親切にも私の呪いを解いてくれるらしい。なんとも迷惑でお人よしなことか。神立珠緒だけでも迷惑しているのに、本当に勘弁してほしい』

 佳乃の日記は、それなりにパンチの効いたスタートを切っていた。まだ珠緒と仲良くなる前の内容だろうか。

 となると、変な人と書かれているこの人物こそが、珠緒いわくの「神社の母」とやらになるのだろうか。俺はページをめくる。

『おせっかい達は、私の呪いにウインクキラーと名前をつけた。なにやら合コンで覚えてきたゲームから引用したらしい。この人たちは、私の事が怖くないのだろうか』

『呪いについての調査の一環として、なぜか私がコスプレをさせられた。なにが尾行だよ、目立って仕方がない。でも、ちょっとかわいい』

『呪いはまだ解けないけれど、今の生活を楽しんでいる自分がいる。自分が呪われていることを忘れてしまうほど。私は本当にあのお節介たちを好きにならずにいられるだろうか』

 ぱらぱらと流れるページには、佳乃たちが呪いを解いて行く様子や、揺れる心情が踊っていた。

 いつか珠緒に聞いたとおり、徐々に佳乃が明るくなっていったという事実が文章には如実に描かれていた。

 微笑ましさやら歯がゆさやら、複雑な感情を抱きながらもページをめくる手は止まらない。


 佳乃の過去をなぞっていると、ページの隙間から紙切れが一枚地面へと落ちていった。

 佳乃はページの間に何かを挟む癖でもあるのだろうか。苦笑いをしながら拾った紙切れは、僅かな厚みを持っており、手にしただけで写真だとすぐにわかった。


 表を向けると、そこには少女二人と男性一人が映っていた。少女の片方は恨めしそうにこちらを睨んでおり、少女を挟む両脇の男女は、けらけらと楽しそうに笑っている。

『まきちゃんが写真を撮ってくれた。こんなに不細工な顔を撮るなんて、本当に意地悪だ。二人とも笑いすぎ!』

 写真が挟まっていた箇所には、写真に対する不満が綴られていた。不細工な顔だなんてとんでもない。なかなか味がある顔でいいじゃないか。

 そんな気持ちを抱きつつも、写真に違和感を覚えたのは、きっと写真に写る人物の全てに見覚えがあったからだろう。


 真ん中に映る佳乃。その右側で満面の笑みを浮かべている珠緒。そして左端で笑う男。

 引っかかりの正体を探るべく、もう一度日記を見返し日付を確認する。

 日記の年号は未だに二年前を注していた。

「ありえない……」

 この言葉を口にした頃には、俺の心の引っかかりはもう違和感と呼べる代物ではなくなっていた。


 二年前の写真で笑う男は、どう見ても俺自身だった。


 俺が佳乃や珠緒と出会ったのは、今冬に他ならない。もちろんこれを撮った覚えもなければ、二年前に生まれたこの紙片の中に俺がいるわけがない。

 じわりと汗ばむ手が、恐る恐るページをめくる。

『いつき君が日記を書きたいと言っていたので、同じものを一冊プレゼントした。果たしていつまで続くことやら……』

 可愛らしい文字から、避けようのない決定打が打たれる。その後どのページをめくっても、見慣れ、聞きなれた三文字から逃げる事が出来なかった。

 なぜ俺の名前が、過去の佳乃の日記から出てくるんだ。

『たまといつき君が、誕生日をお祝いをしてくれた。いつき君がくれたヘアピンは私の趣味とは絶望的に合わなかったけれど、仕方ないから付けてあげる事にしよう。こんなにも嬉しい一日にされてしまうなんて、本当にずるい二人』

『ウインクキラーなんて、本当はなかったのかもしれない。そんなことを考えてしまうくらい、心がざわざわする。私は二人の事が、どうしようもなく好きらしい。このまま、こんな楽しい時間がずっと続けばいいのに』

 そのページを見て、俺はゆっくりと本を閉じた。ずきりと胸の辺りが痛む。佳乃の過去に共感してなのか、自身の今の立場に対してなのかははっきりはしないが、とにかく胸が痛い。

 ゆっくりと息を吐き考えをめぐらせたが、ヘアピンを指でなぞっていた佳乃の姿が思い返されるだけで、自身の記憶を辿っても真実が姿を現すことはなかった。


 二年前から現在にかけて、俺の記憶に抜けなどないはずだ。もちろん、朝夕何を食べたか、一日一日遡っていくのは困難ではあるが、大方あった出来事ぐらいは思い出せる。

 しかしそのなかに、日記に記されているような佳乃たちとの記憶はない。情報に溺れていくように、体から力が抜けていく。俺は今、何を考えればいいんだ?


「おい。鍵ぐらい閉めとけよ。無用心すぎるだろ」

 隣からかけられた声に、呆けていた身体が一気にのけぞった。慌てて視線を向けると、ひらひらと細い指が俺の目の前で揺れる。

「はぁーい。デリバリー蒔枝ちゃんでーす」

 覇気のない声で隣に現れたのは、蒔枝さんだった。

「いや、何してるんですか。ここ佳乃の家ですよ」

「冷静なツッコミをありがとう。まあ立ち話もなんだから座れよ」

 蒔枝さんはマイペースにテーブルの方へ向かい、コートを脱いだあと椅子に腰掛けた。

「なにやってんだよ。早く座れよ」

 蒔枝さんの声は、俺に呆ける隙すら与えなかった。訳の分からないまま、蒔枝さんの正面に腰掛けると、目の前に缶コーヒーが差し出された。

「い、いただきます……えっ、何かおかしくないですか? 俺が間違ってるんですかね?」

「知らねえよ」

「はあ」

 堂々とした態度でコーヒーを口にする蒔枝さんを見て、俺も目の前のコーヒーを手にとった。

「つめたっ」

 ひやりとした感覚に、身体が震える。暖房を入れているとはいえ、不意打ちで刺さった冷たさに、思わず手がひっこんだ。

「誰もホットだなんて言ってないだろ」

 涼しそうな顔で、蒔枝さんはコーヒーをすすっている。何しに来たんだこいつ。

「ありがたくいただきます」

 抵抗じみた口調を浮かべ、俺は缶コーヒーを再び手に取る。腹の立つことに、散乱した感情が冷たさで引き締まった。

「佳乃ならいませんけど、何をしに来たんですか?」

「見れば分かる。佳乃に用があったわけでもないし、別にかまわない」

 だったらなおさら何をしにきたんだろうか。というか不法侵入だぞ。居候が言えた口ではないが。

「珠緒から連絡が来たんだよ。様子を見て来いって」

「様子? なんのですか?」

「お前に決まってるだろ。状況を見て察せよ。馬鹿か? いや、馬鹿だったな。失礼」

 どうすればそんなに一つの事象に罵詈雑言を並べられるのか、ぜひご教授願いたい気分だ。

 それより、なぜ珠緒が俺の様子を知ろうとしているのだろうか。

「俺の様子ですか? そんなものなんで」

「だから知らねえよ」

 蒔枝さんは、俺の疑問を遮るように答えた。派遣された本人が知らないのであれば、この答えはこの場には落ちていない。

「よくそんな状況で来ましたね」

「本当にな」

 他人事のように呟く蒔枝さんは、ふうと息を吐いた。訳の分からないままのこのことこんなところにやってくるなんて、この人は珠緒になにか弱みでも握られているのだろうか。

 哀れみに近い目で蒔枝さんを見ていると、彼女は何かに気付いたようにこちらに手を伸ばした。反射的に俺は手を顔の近くへとやった。

「なに? そのポーズ」

「え、いや。あ、写真ですか」

 彼女が手を伸ばしたのは、先ほど佳乃の日記から滑り落ちた写真だった。驚いた、哀れみを察してぶん殴ってくるのかと思いつい身構えてしまった。恥ずかしい。

「懐かしいな……」

 写真を見た蒔枝さんは、目を細めてポツリと呟いた。

「その写真のこと知ってるんですか?」

「知っているも何も、これを撮ったのは私だからな」

「蒔枝さんが撮ったんですか?」

「だからそう言ってるだろうが」

 細まった蒔枝さんの目がこちらを睨む。思えば不思議な問答だ。撮られた人物の一人であるはずの俺が、誰が撮ったかを聞き返しているのだから。

 平然と言葉を返してくれている彼女も、この会話がおかしいことに気付いているはずだ。この写真の真相を、なんとしても問い詰めないと。

 蒔枝さんは再び写真に目を落としたあと、写真をこちらへと返した。

「いい写真だろ?」

「……そうですね」

 ついさっきまで冷ややかな目を向けていたくせに、蒔枝さんはこんなときに限って朗らかな顔でこちら見ている。意外すぎて聞かないといけない事が吹き飛んでしまったではないか。

「父の呪いが解けた日に撮ったんだ。私が外に出られるようになったのは、そこに映っている恩人達のおかげだよ」

 蒔枝さんはゆっくりとそう告げた後、コーヒーを傾けた。

「失礼承知で聞いてもいいですか?」

 ほんの少しの間が俺の心を落ち着かせ、自然と口が開いた。蒔枝さんの目が、再び鋭く光る。

「……なに?」

「俺が蒔枝さんに会ったのって、いつが最初ですか?」

 必死に搾り出した問いは、蒔枝さんの溜息となって返ってきた。おかしな質問なのはもちろん承知の上だ。

 しかし、これで全てがはっきりする。溜息から無言が続き、蒔枝さんが口を開く。

「さて、いつだったかな」

 それだけ言って、蒔枝さんは嚙み締めるように上を向き、唇を振るわせた。

 その姿を見てはいけないような気がして目線をそらすと、写真の中で不機嫌な顔をしている佳乃と目が合った。俺は急いで蒔枝さんに視線を戻す。

「惚けないでくださいよ。蒔枝さんだって、今のこの問答がおかしいことくらいわかって――」

「あーあ。こうなるから嫌だったんだ」

 唇同様に震える声が俺の言葉を遮り、天井へと淡く伝わる。わざとらしく会話を切られてしまったが、彼女の様子の変化に一気に心配が勝ってしまう。

「ど、どうしたんですか?」

「どうもこうも。はあ、もう大丈夫だと思ってたのに……写真を見ると、やっぱり駄目だな。その顔も、声も、何もかもが消えてくれない」

 そう言って立ち上がった蒔枝さんは、窓のほうへと歩みを進めた。窓の外を眺める彼女の顔は見えないが、嬉々とした様子でないことは確かだった。

「何もかもって――」

「私はこう見えて佳乃や珠緒みたいに強くない。そう簡単に割り切れやしないんだよ。だから、酷な質問でいじめてやらないでくれ」

 蒔枝さんは独り言のように呟いた。彼女の顔色は未だに見えないが、これ以上何かを尋ねていい雰囲気ではなくなってしまった。


 蒔枝さんの言葉が何に対する願望で、俺に求められた行動がどういったものかわからないまま、押し黙ることしか出来なかった。

 時計の針がかちりかちりと音を立てる。長い沈黙が室内に流れたあと、大きく息を吸った蒔枝さんがこちらを向いた。いつも通り、鋭い眼差しが俺に突き刺さる。

「最初に会ったのはいつか、だったな」

「えっ」

「お前が言ったんだろ。失礼承知で聞きたいって」

「……はい。そうですけど」

 先ほど投げかけた質問にようやく返答が投げられた。少し赤みが差している蒔枝さんの瞳が淡く揺らぐ。

「二年前。その写真も、その頃に撮ったものだ。それがお前の目に触れているってことは、きっと頃合いなんだろうな」

「やっぱり、何か知っているんですね?」

 蒔枝さんはもう一度息を吸い込んで、こちらへと向かってきた。彼女はそのまま俺のほうへと手を伸ばし、額に向けて指を放つ。

 痛みのないでこピンに身をのけぞらせると、休む間もなく彼女は俺の胸ぐらを掴んで自身のほうへと引き寄せた。ぐらりと脳が揺れ、目の前に蒔枝さんの顔が迫る。

「な、何をするんですか」

「過去の話。教えてやるのは私の仕事じゃない。だから文句だけ言わせろ」

「ち、近いです」

「うるせえ」

 蒔枝さんの額が俺の額へとぶつかる。でこピンとは違い、しっかりとした痛みが額を走った。

「んぎっ。いったぁ!」

 俺がリアクションをとる前に、蒔枝さんが悲鳴を上げながらその場へとしゃがみ込んだ。自分から仕掛けておいて、勝手にダメージを受けているようだ。

「なにやってるんですか!」

「くそっ! 石頭め!」

 蒔枝さんは額を必死にさすりながら、こちらに人差し指を向けた。

「いいか、お前のその硬い頭の中がすっからかんになってたって、私は絶対に忘れてやらないからな! なかったことになんて、してやるもんか」

 もう何に対する文句なのかもわからなかったが、蒔枝さんは高らかに声を上げてから、その場にうずくまった。少しの間があって、落ち着いたであろう蒔枝さんがリビングの入り口を指差した。

「後のことは、あいつらに聞け」


 突如玄関口から物音がして、俺は蒔枝さんが指差す扉の方をみる。どたどたという音に遅れて、佳乃と珠緒が姿を現した。

「い、いつき君! 貞操は大丈夫!? 私は浮気には寛容じゃない方だよ!」

 賑やかなままこちらに近づいてきた佳乃は、俺の肩をぶんぶんと揺すり始めた。

「貞操って……何の話を?」

「こんな時間に男女が二人っきりなんて、もうなにが起こってもおかしくないし。相手がまきちゃんとなれば尚更だよ!」

 佳乃は周りをきょろきょろとしてから、うずくまる蒔枝さんの元へと向かう。

「まきちゃん! なんにもしてないよね? ね?」

「なんで私があいつに迫ってることになってるんだよ」

「だって、酔うとまきちゃんなにするかわからないし。お酒のにおいがしないから大丈夫か……。いやでも……」

「おい、誰かこの失礼な発情娘を黙らせろ」

「誰が発情娘ですかっ!」

 早口でまくし立てる佳乃に対し、蒔枝さんはわざとらしく耳を押さえながら立ち上がった。

「何を焚きつけたらこんな有様になるんだよ」

 視線を向けられた珠緒が、腕を組んでふふんと鼻を鳴らした。

「よしのんが急に家に来てものっすごい邪魔だったから、まっきーがいっつんのところに行ってるよ、やばいよよしのん、性の乱れだよって言ったの」

「もしかして、そのために私を動かしたのか?」

 にっこりと親指を立てる珠緒を見て、蒔枝さんは深い溜息を吐いた。俺が同じ立場でも、同じリアクションをしていただろう。まさか佳乃を家に帰すためのだしに使われていたなんて。

「でもまあ、それだけじゃないんだけどね」

 珠緒が全員に視線をくべる。はっと俺の視線が佳乃とぶつかる。さっきまでの勢いはどこに行ったのやら、照れた様子で目を離す佳乃を見て、こちらも恥ずかしい気持ちになって目線を外した。

「こらこら、初々しいのは禁止だよ。見てて恥ずかしくなっちゃう」

 やれやれとにやける珠緒に文句を言おうとして口を開いたが、そのタイミングまでもが佳乃と被ってしまい、俺達は再び目線を外した。

「はいはいごちそうさま。いいからみんな座って」

 ぱんぱんと手を叩いて、珠緒が全員を席へと促した。渋る蒔枝さんも最終的に席に着き、四人でテーブルを囲む状況になった。

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