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少女は瞳を閉ざさない  作者: 豆内もず
4話 隠せない少女

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隠せない少女16

「何がどうなってるんだ?」

 誰に何の説明を求めていいかも分からず、俺は視線を泳がせながら空間に問いかける。先ほどまで聞こえていた絵馬が揺れる音も耳に入らなくなるほど、その場を静寂が支配していた。

 睨みをぶつける佳乃を見ても、依然として珠緒はにやにやと薄気味悪い笑みを浮かべている。

「人間の尺度で言うと、これは久々の再会ではないのか? おっひさーとでも返しておこうかのう」

 珠緒は余裕のある顔つきで、どうやら佳乃を煽っている。状況は全く分からないが、目の前の存在が俺達を見下しているということだけが読み取れた。

「そうだね。二度と会いたくなかったし、ようやく会えたって感じだよ。感動でどうにかなりそうだよ」

 強く拳を握りながら、佳乃は言葉を返した。佳乃の言葉を元にすると、あれは間違いなく珠緒とは別物なのだろう。しかも佳乃がこれほどの剣幕で言葉を返すほどに嫌悪の感情を抱く相手のようだ。

 たじろきながら二人見つめる俺の視線に気がついたのか、佳乃がこちらを向いてゆっくりと笑った。

「ごめんね」

「な、なんで謝るんだよ」

「怖い顔してたよね、わたし」

「それは別にかまわないが……」

 本人曰くの怖い顔のことよりも、いったいなぜ佳乃がそれほどの剣幕を向けているのかをぜひ教えて欲しい。そんな言葉を予想したように、佳乃は更に肩から力を抜き、ふうと一息ついた。

「何が起こっているかわからないでしょ? あれはたまじゃないよ」

「それはなんとなくわかるんだが」

 曖昧な感覚が、俺の語尾を更に曖昧にさせた。何から聞いていけばいいかすら、今の俺には良くわからなかった。

「簡単に言うと、あれはたまの身体を乗っ取って出てきただけの、この最悪な呪いの元凶だよ」

「元凶ときたか……」

 あれだけの憤りをぶつけていた理由がはっきりとわかったと同時に、先ほどから感じていた不快感が間違いないものだということに安堵する。どうやら今佳乃たちを苦しめている大元が目の前に姿を現しているという状況らしい。

「人のことを悪霊が如く言いよって。ほんに失礼な奴じゃ。神に対する態度とは思えん」

 俺達の声を聞いていたのか、珠緒の姿をした呪いの元凶が会話を裂いた。聞き捨てなら無い言葉が俺の耳を貫いた。

「か、神だと?」

「そうじゃそうじゃ、そういう反応を待っておったのじゃ」

 ありがたみの無い飄々とした態度で、自称神が言う。

「何を隠そう、ワシはこの神社の祭神、ウズメ様じゃ」

 高笑いをしながら、彼女はそう自らを紹介した。話についていくため、俺は必死で頭の中の整理を始める。

 佳乃はあれを元凶と呼んだ。今目の前にいるモノこそ呪いの元凶で、元凶いわく、彼女は神だそうだ。

 つまりは、佳乃を苦しめる呪いは、この神社の守り神であるウズメとやらの仕業らしい。そのウズメが、今珠緒の身体を乗っ取って目の前に顕現しているというわけか。

「いつき君、あいつの話はまともに聞かなくていいよ」

 佳乃が意識を回収するように俺に言葉をかける。当たり前ではあるが、佳乃はたいそう憤った様子だ。こんな一面もあるのかと、間抜けな思考がふと頭をよぎるが、更なる佳乃の言葉でその思考も遮られる。

「何しに来たのさ。おあいにくさま、神様のお相手をしている暇は私達には無いんだよ」

「いやはや、順調にいっておるようじゃから、ちょいとちょっかいをかけにきただけじゃ。ワシも貴様らなんぞと話をしとうないわ」

 くつくつとウズメは笑い、ゆっくりとこちらへと近づいてくる。俺と佳乃の足が無意識に後ろへと下がるのを感じた。

「だったらさっさと引っ込んでくれると嬉しいな」

「そう構えるでない。楽にしておれば良いのじゃ」

 ウズメが距離を詰めた分、ゆっくりと俺達も後ろへと下がっていく。じりじりとなる砂利の音が、焦燥感を更に掻きたてた。

「くふふっ。つまらん小芝居はこれぐらいにしておくかの」

 ウズメは自身の目の前に手のひらを差し出し、ふうと一息息を吹きかけた。ふわりと季節はずれの生ぬるい風が俺達の間をすり抜けていく。

「さあ、お休みの時間じゃ」

 思わず閉じた目を少し開けると、目の前には変わらない景色が広がっていた。

「なんなんだ……?」

 やっと搾り出した俺の声にあわせるように、佳乃のいた方向からどさりと鈍い音が響いた。音のほうを見ると、先ほどまで怒りの視線を向けていた佳乃が、冷え切った砂利の上に横たわっていた。

「お、おい佳乃! どうしたんだよ! おい!」

 俺は一歩先の佳乃のもとへとしゃがみこみ言葉をかけた。しかし佳乃のほうから返事が返ってくることは無い。

「おい、何したんだよ」

 俺は間違いなく現状の犯人であるウズメを睨みつけ言葉を放つ。視線を向けられた神は、いっそうけたけたと高い笑いを浮かべていた。

 返ってくることのない返事に苛立ちを覚え、俺は更に声を荒げる。

「何をしたんだって聞いてんだよ! 答えろよ!」

 俺はウズメに視線を与え続けながら、倒れる佳乃の上体を少し起こす。呼吸はしている、顔色も悪くなっていない。なのに佳乃は一向に目を覚ます気配がなかった。

「ぎゃあぎゃあと猛るな鬱陶しい。なあに、たいしたことはしとらんよ。少々深い眠りに誘ってやっただけじゃ。一月もすれば目を覚ますじゃろう」

 一月眠り続けるなんて、どう考えたって普通じゃない。たいしたことでしかないじゃないか。

「なんでそんなこと」

「なんで、じゃと? 最初から言っておるじゃろ。ちょっかいをかけにきたと」

 当の本人は、飄々とそう答えた。こんなものがちょっかいなわけがない。苛立ちが徐々に熱を帯びていく。

「おまえな……」

「本来であれば、貴様も一緒におねんねさせてやる予定だったんじゃが、どうやら効きが甘いようじゃのう。その小娘のせいで、残された力がわずかなもんでな。じゃがまあ……」

 ウズメはにやりと不気味な笑いをこちらに向ける。

「小娘さえ眠っておれば、呪いが解かれることも無い。ワシはゆっくりと力の回復に専念させてもらうことにするかのう」

 聞きたいことやぶつけたい苛立ちが山ほどあるのに、不思議と身体に力が入らない。熱を帯びる脳と反し、身体から温度が奪われていくようだった。目の前で高笑いをするウズメの姿が、徐々にかすみ始める。

「くそ、なんで、だよ……」

「安心せい。貴様は半日もすれば目を覚ますじゃろう。くくっ。ではまたのう」

 ウズメは俺の目の前まで近づいてきてにやけ面を向けている。

 感覚のない足に必死で力を入れ、彼女に掴みかかろうとしたところで、俺の意識は途絶えた。

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