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少女は瞳を閉ざさない  作者: 豆内もず
4話 隠せない少女
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隠せない少女2

「お待たせしましたー。巫女のたまちゃんでーす」

 少女はむふむふと笑いながら、全く締まらない挨拶を俺に向けて放った。少女を包む巫女装飾は、全く違和感を感じさせないほど少女に馴染んでいた。

 俺は思い出したように、先程しそびれた自己紹介を行う。

「えっと、山上いつきです」

「いつきさん……。じゃあいっつんだね。よろしく」

 そう言って右手を差し出し握手を求める少女の手を握り返したところで、ようやく衝撃的なあだ名をつけられた事実が脳に届く。

「い、いっつん?」

「うん、いっつん」

 聞き返したところで、少女の自信は揺らぐことはなかったようだ。別に構いはしないが、さらりとタメ口じゃないか。

 俺の困惑を見ても満面の笑みを崩さない少女を見て、ああそう、と諦めも混ざった声がでてくるだけだった。

「何を隠そう、いつき君を川から運び出すのを手伝ってくれたのがたまなんだよ」

 なぜか自分のことのように胸を張った佳乃に呼応するように、珠緒はふふんと鼻を鳴らした。

 確かに佳乃が一人で成人男性を担ぎ上げられるとは思えないが、俺の頭には今までその疑問は浮かんでこなかった。突如として明らかになった事実に、俺の口から思わず声が漏れた。

「そ、そうだったのか。てっきり佳乃が一人で運んだのかと」

「よしのんの貧相な身体一つでいっつんを運べるわけないでしょー?」

「たーまー? 本人がここにいるんですけどー? 悪口が聞こえた気がするんですけどー?」

「やだなあ。被害妄想だよ」

 不機嫌そうに眉をひそめた佳乃を躱すように、珠緒はマイペースに佳乃の髪の毛をくるくるといじり始める。佳乃は振り払うこともせず、静かに息を吐いた。

 運び込まれた際の記憶がないので当然の事かもしれかないが、馴染みのない顔だ。この神社にはふらりと足を運んだこともある。それなのに珠緒には全く見覚えがなかった。

「さていつき君。ずいぶんと話がそれてしまったけれど、たまはここの巫女ちゃんなの」

 自己紹介の終わりを察した佳乃が、話を珠緒と自分との関係についてに切り替える。すっかりと本題を忘れていたが、そもそも二人が仲良くしていること自体がおかしなことなのだ。俺は佳乃の言葉に耳を傾けた。

「神立家は代々この神社を管理していてね、たまには生まれつき不思議な力があるんだよ」

「不思議な力?」

「そう。話した通り、呪いとこの神社には深い関わりがあるんだけれど、神立家の人間は呪いの影響を受けないんだよ。厳密に言うと、前に言った三種の神器のうちの一つである玉の力が、神立家には代々受け継がれてきているんだってさ」

 隣でうんうんと頷く珠緒を見ながら、佳乃は饒舌に説明をしてくれた。呪いを視る力、呪いを解く力、呪いを遠ざける力、この三つの力のうち、遠ざける力はどうやら珠緒が所有しているようだ。

「そういえば、その力を使えるのは呪われた人間だけじゃないのか?」

「よく覚えてたね。えらいえらい」

 佳乃はうれしそうに手でオッケーサインを作る。自分で説明するよりも、巫女の力を有する珠緒のほうが説明者に適任と感じたのか、佳乃は珠緒へ発言権を渡した。

 彼女は得意げに人差し指を上げる。

「呪いから身を守るこの力は、私の家に代々根付いているもので、他の人間に分け与えることは出来ないの。遺伝みたいなものだね。呪われていない私にもしっかりと遺伝しているってわけ。でも剣と鏡の力は呪われている人間でしか力を発揮できないよ。呪われた人間間であれば所有権を移すことも出来るんだけどね」

 先ほどのマイペースが嘘のように、佳乃同様饒舌に珠緒は言葉を並べた。いろいろ話してくれていたところ引け目を感じてしまうが、呪いを視たり解いたり出来るのが佳乃で、呪いが効かないのが珠緒、ということだけが理解できた。

「なるほど。確かに呪われている人間には呪いが効かないなら、そういう形になるのは当然か」

「とまあそんなことがあって、私達がお話できるのは、単純にたまには呪いが効かないから、というだけの話だよ。わかった?」

 佳乃は幼子に説明するような口調で俺に解説を入れた。呪い事自体の大枠を捕らえることが出来ているわけではないので、厳密に言うと分かっていないのかもしれないが、今のところは佳乃の話していた通りのことだけを頭に入れておけばよさそうだ。

 というか、人とこんなに喋ったのは久々だという初日の言葉も嘘じゃないか。ちくしょう。

「ところで、今更だけどいつき君はこんなところで何をしてるの?」

 話に区切りがついたところで、佳乃は素朴な疑問を俺にぶつけてきた。今思い返せば、呪いのことについて何か分かればいいと思いこの神社に来たんだった。そう考えると、俺の発想は驚くほど冴えていたのではないだろうか。

「佳乃の呪いを解く方法が何か見つかればなと思ってさ」

「ふふふっ。いつき君やさしー。そうだね、あまりに進展がないと、きっといつき君も不安になっちゃうよね」

「いや、俺自身は別にどうってことないんだが……」

「大丈夫だよ。こういうときに限って、呪いの方からやってきてくれたりするんだよ」

 佳乃が自信満々にそう話すや否や、先ほどまでいた拝堂から、参拝客の鳴らす鈴の音が響き渡った。

 その音に呼応するように、大きな声が聞こえる。

「あー今日もいい一日だった! 明日もいい日になれば良いのに!」

 神社中に響き渡るほどのボリュームで、参拝客は高らかに勝ち組のような宣言をしている。十メートル以上はなれているのに、はっきりと内容まで聞き取れてしまった。

 今のは願掛けだったんだろうか? 願掛けにしては投げやりだった気もするが。

 不思議な人もいるものだ、と興味を持ってしまった俺は、声の方向に目を向ける。

 そこには、佳乃と珠緒が身に着けている制服と同じ制服を着た少女が、両手を合わせて佇んでいた。同じタイミングで少女に目を向けていた佳乃が、ふふっと笑みをこぼす。

「同じ学校の生徒だろ。あんまり笑ってやるなよ」

「笑わずにはいられないよ。こんなに物事がうまく運ぶなんて」

「は?」

「いつき君。私は君の豪運に心底感心しているよ。というか、私に予知能力が芽生えたのかも」

 どうやら佳乃は少女の様子についてリアクションしていたわけではないらしい。

 褒められるようなことを、今日は何もしていないはずだが。いまいち笑いどころを共感できていない俺に対し、佳乃は決定的な一言を放った。

「さあいつき君、お仕事だよ。二人目の呪いを解きに行こうか」

 佳乃は参拝客の少女に指を指し、その方向に歩みを進め始めた。

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