LV8
〜〜〜
なんなんだろう。この状況。
袋詰めから解放され、なんとなく逃げるタイミングを逃してしまった俺の目の前に渡されたのは、ついさっきまで女冒険者が持っていた骨付きの形成肉。
そのまま食べることも考えたが、もっと美味しくなることを期待してその骨の端を俺の体に埋め込むように固定し、骨の消化が始まらないのを確認して肉の方を火球魔法で少しづつ炙っている状況なのだが……
「そっかー、シルちゃんはじっくり焼く派なんだ、わかってるねえ。私もね、しっかり焼いた方が〜」
うんうん、と首を縦に頷きながら何故か満足そうな、そしてこの火球をそのまま自分にぶつけられる可能性をまったく考慮していなさそうな、このゆっるい笑顔よ。
というか、シルバースライムだからシルちゃん? 前世の名前とは別な呼び方は必要かもしれないけど、ちゃん付けは少し恥ずかしい。
「あの、シルちゃん?」
そう訴えたところで、この身体からギギギっと出る金切り音では何も通じてなさそうだが。
それでも、何かを伝えようとしていることは伝わっただろうか。
「ええっと。それじゃあ、さっきの話の前に私の言ってることはわかる? わかってる?」
わかってはいるのだが、それはやはりキィキィと鳴り響く。
少し考えて俺は、さっきの彼女のように首もとい半身を縦に揺らしてみる。肯定の意思表示ならこれで大丈夫だろう。たぶん。
「それは『はい』ってこと、かな? ねえ、もしかしてそのキィキィと高い音が『はい』で、ギギギって感じの低い音が『いいえ』なのかな? シルちゃん」
……これは驚いた。
もしかしなくても俺は今、貴重な理解者を得ようとしているのだろうか。
はい、っと。俺は首を縦に振りながらキィ、と声を出す。
「やっぱりっ! えっと、じゃあ。ねえ、シルちゃんって別に名前があったりする? シルちゃん呼び方は嫌だった?」
嫌、というほどではない。が、それを細かく伝えるのも難しい。若干申し訳なさそうな彼女の表情に仕方なく俺は、ギギギと首を横に振ることにする。
「それじゃあシルちゃんって呼んでもいい?」
キィ、と頷く俺に対して途端にまた明るい表情に戻った辺り、肯定も否定の意思表示も上手く伝わったようだ。
骨を身体に沈めつつ赤から狐色になっていく肉の端を少しだけ取り込む。うん、いい感じに焼けたらしい。
「ん、と。それじゃあ改めて。シルちゃん。私と、友達に――」
「グウゥジュルルォ」
その言葉は最後まで紡がれる前に、近くの茂みから洩れ出る唸り声に掻き消される。
見ればそこに居たのは、涎を垂らし金色の双眼を充血させた剛毛焦茶の四足獣。孤高の狩狼にしてビットラビットの天敵。
「ソロウルフ!」
どうやら軽い気持ちで試したこの焼き肉は、いつの間にか招かれざる客を呼んでしまっていたようだ。