LV3
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そのゲームに対する評価は概ね高いもので続編が出るたびに話題は広まり、ちょっとした社会現象でもあった。
俺自身。遊んだ事のある同級生が『面白い!』とか『楽しい!』あるいは『凄え!』なんて言ってたのをよく耳にしていたのを覚えている。
だけど俺の周囲の、遊んだことのない大人達からは『馬鹿になる』や『将来なんの役にも立たない』そして『お金の無駄』等と言われて結局やらせてもらえず、逆に遠ざけられる始末。
それで結局はというと、こっそりと少ないお小遣いを貯めて買った攻略本を読んだり、ネット上の攻略動画を隠れて視聴しては遊んだつもりになる程度にとどまったのだ。
そんな憧れだった世界が、概要しか知らなかった物語が今、俺の目の前に広がっているという事実に少しだけワクワクしていた。
灰色の市中を駆け抜け、追っ手を振り切り、町をぐるりと囲む城壁を這うように上り詰めて、振り返る。
荒削りな石組みの建造物。ゲームでは数十程度の数しかない民家だったはずだが、その数百倍では到底足りないような数多の人々の営み。
その中央にそびえ立つのは、この世界を魔王の手から救う勇者の冒険の始まりを告げるはずの白亜の城。俺がこの姿で目覚め、あやうくそのまま永眠しそうになった場所もたぶんあそこだ。
人によっては青だとも緑だとも言うであろう、微妙な色合いをしたエメラルドの空の下。
太陽にしては目に優しく、月にしては自己主張の強い、黄とも赤とも見られるようなほどに揺らめく暖かな光を見上げながら。ふと、思う。
何故俺はこんな姿なのか。俺だからこそ、この姿になってしまったのか。
考えたいことは色々あるけれど、ひとまず今は俺を亡き物にしようとするこの町から逃げ出そうと思う。
その後は……そうだな。出来る事なら、あの頃は出来なかった冒険をしてみたい。
逃げてきた果てに見出した世界で、逃げ続けてきた人生から少しだけ――逃げてみるのも面白そうだ。