表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

スクール村八分

作者: Bull Martini

 今考えても、それが何だったのかよくわからない。

 小4のとき、僕は流行りの病気にかかって一週間近く学校を休んだ。やっとのことで体力も回復して、登校を許された僕は、久々の通学に心を弾ませる。

 教室に入ると、そこには一週間前と変わらない、朝の光景が広がっていてた。

 僕は開口一番、

「みんなおはよう」

 僕の声は、呆れるほど虚しく教室に散った。

 あ、あれ……。僕の声、そんなに小さかったかな。でも違った。

 様子がおかしい、みんな妙によそよそしいのだ。教室のあちこちで、四、五人のグループが固まっていて、僕に気がつくと途端に目を逸らす。すぐ傍のグループの中に、親友の田中君をみつけた。が、僕が近づくと、みんな蜘蛛の子を散らすように遠ざかった。

「何なんだよ……」

 意味がわからなかった。僕は誰かを傷つけたり、クラスの信用を失う行為をした覚えもない。何かの間違いかと思い、改めて別のグループに近づいたが、無駄だった。クラスのみんなが、次々に僕から離れていく。

 その日、僕は孤立した。クラスの誰とも口をきかず、ずっと自分の席に座っていた。

 えっ、なんだ、今のは……。それはたしかに聞こえた。あるグループの中から、

「ねぇどうする、また今日も、がるがるどばるんがやる?」

 そのとき、僕の体に百億万兆光年ボルトの電流が流れた。

 これだっ! これだったんだ。

 きっと僕が学校を休んでいた間、クラスである遊びが大流行したに違いない。でも僕は、ブームの真っ只中に休んでしまった為に、のけ者にされたんだ。

 拳を机に叩きつける。同時に、僕の目には地獄のような炎が湧き上がっていた。耳が悪魔のように尖り、目は獲物を狙う犯罪者のように鋭く光る。僕は決して見逃さない。冷静を装いながらも、クラスの様子を必死で観察した。

 まず最初のグループでそれは見た。一人が両手を胸の前で交差させ、手のひらを互い違いの肩にそえている。まるでツタンカーメンのようなポーズだった。が、迂闊にも、そこでグループの人と目が合い、その場から逃げられてしまった。

 次のグループは、最初に見たポーズに加えて、時計回りにくるっと一回転したあと、その場にしゃがんでカエルのようにぴょんと飛び跳ねる。が、またしても見つかり、逃げられる。僕は場所を変えた。

 今度は誰にも見つからないように、廊下の角で息を潜めた。既に、三番目のグループが反対の角に集まっている。この位置だと相手の姿は見えないが、僕の聴覚は、足音で個人が識別できるほど鋭敏になっていた。

「がーるがーるどばるんがっ♪ がーるがーるどばるんがっ♪」

 奇妙な掛け声が、廊下に響き渡る。あまりの衝撃に、僕は持っていた筆記具を落とした。

 あっ、まずい。

 次の瞬間、逃げ去る女子の足音が聞こえた。

 その日の放課後、みんなは僕を避けるようにして帰っていった。でも、もう慣れたよ。廊下からそれを見届けると、僕は誰もいない教室に一人で戻った。

 やるしかない。明日からのことを考えると、今ここであの遊びを習得するしかなかった。拳を握りしめ、気合を入れた。

 ツタンカーメンのポーズをとりながら、その場でくるっとひと回り、すぐにしゃがんでカエルのジャンプ。その動作に例の掛け声を入れながら、

「がーるがーるどばるんがっ! がーるがーるどばるんがっ!」

 茜色に光る教室の中に、線になった小鳥の影が走る。

 おそろしいほどつまらない。

 一体、誰がこんな遊びを考えたんだ。ぼくは、僕はこの遊びのせいで……。こ、こんちくしょう!

 僕は鬼の形相で続けた。三回目で目がまわり、足がもつれる。だらしなく垂れた唾液が、腕に絡む。それでも繰り返した。声は枯れ、汗が流れ、鼻汁も流れ、体から出るものは全て出た。そして最後に、涙の飛沫が床に散った。その日は、放心状態のまま家に帰った。


 次の日学校に行くと、昨日のことが嘘のように、元気いっぱいのクラスメイトが僕を迎えてくれた。一週間も病気で休んだこと、遅れた授業のこと、みんな親身なって心配してくれる。

「あ、あの……。みんな今日は、がるがるどばるんがやらなくていいの? 僕もみんなの仲間に入れてもらいたくて、昨日残って練習したんだよ。ほんとうに、本当だよ。ウソなんかじゃない。ほら、見ててよ。がーるがーるどばるんがっ! がーるがーるどばるんがっ!」練習の成果もあって、今までで一番上手にできた。「ね、言ったでしょう、僕にもできるんだよ。だから今日から仲間に入れてよ」

 間の抜けた時間が流れたあと、教室は割れんばかりの笑い声に包まれた。きょとんとする僕をみんなが取り囲む。あちこちから、がるがるどばるんがの教えを請う声が聞こえてきた。僕は戸惑いながらもそれに答えた。後に、このがるがるどばるんがは、世紀のギャグとして学校中で大流行することになる。

 よかった、本当に良かった。僕は受け入れられたんだ。でも、昨日のみんなの態度は一体なんだったんだろう……。まあ、きっと昨日の僕は、まだ病み上がりだったから、幻覚でも見たのかもしれない。そうだよ、そうに決まってる。

 その日から僕の学校生活は、病気で休む前となんら変わらない、平穏な日常が戻ってきた。ただ、少しだけ気になることがある。その日を境に、学校上空を旋回する謎の飛行物体がたびたび目撃されるようになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ