7/5(木)その3:台風、再び
「三上先輩、いいかげんあきらめてください!」
さっきの続き、3時間目の休み時間。
昨日のデジャビュかのごとく、我が2−Bでは親友・三上浩之と生徒会代表・中島依子の押し問答が繰り広げられていた。
「絶対にやだね」
頑として譲らない浩之。
「今日もやってるの?」
クラス委員の榊原が飽き飽きした様子で俺に話しかけてくる。
「台風は停滞中。未だ通過の兆しを見せなくてな」
「え、どういうこと?」
「ひとりごとだ、気にすんな」
「まぁいいや。でも、なんでそんなに三上にこだわるんだろうね?」
たしかに。そこは昨日から疑問だったことだ。
浩之のファンだとしても、さすがにあんだけ断わりゃ諦めるのが普通でないの?
「三上がもうちょい乗ってやれば、楽しいんだけど」
安倍までもが適当なことをほざいて煽ってくる。
「浩之も必死なんだから、火に油注ぐようなこと言うなって」
俺が注意すると、安倍は乾いた笑みを浮かべ、
「後輩いじめるのもいい加減にしとけば?」
と言い残し廊下へと歩いていった。
「今の、聞きましたか? そこの先輩も私に賛成なんですよ?」
なにも知らない中島は、すっかり曲解しているらしい。
「あいつは趣味で中島の味方をしただけだ」
「趣味?」
「性的嗜好ってやつだな」
浩之さんが分かりやすく解説を加える。
「えー! 私が好みなんですか? 困りますよ〜」
といいつつも内心嬉しそうな中島。これだから女は…。
「そうだぞ、安倍なら快く引き受けてくれるだろう?」
すかさず人身御供を差し出す。浩之の最終手段でもある。
「えっ、でも、私は三上先輩のほうが…」
ポッと顔中真っ赤になる。
え、まさか……。
「いや、俺、年下興味ないし」
最後通牒。中島が石のように固まる。
たしかに、浩之の好みはオンナの魅力溢れたお姉さまだ。タイトなスーツを着こなす悪女がタイプと昔に聞いたことがある。事実かどうかは知らんが。
しかし、このテンションの下がりようは…まずくね?
「おい、浩之」
「?」
「中島、固まってんぞ?」
「でもよ…これ以上幻想もたせんのも悪いだろ?」
冷たい男。嫌いじゃないけど、俺とは違うタイプなのはたしかだ。
「中島、聞こえてるか?…中島?」
あちゃー。
「浩之…これ、まずくね?」
「ほっときゃ直るだろ」
やっぱり冷たい男だ。
「だからって放っておくのも…」
榊原が心配そうに中島を見つめる。否、観察する。
「電気ショックでも流してみるか」
この冷血漢はなに物騒なこといってるんだろう。
「そもそも、持ってんのかよ」
「非常用ってやつだ」
「三上君、それ校則違反」
クラス委員としては、見て見ぬふりはできないようだ。
「なに、○学5年生の付録だから安全だろ?」
んなもん、付録に付いてこないことは120%間違いない。
一時、凍りついた局面を打開したのは、年中春の間抜けな声だった。
「和くん、どうしたの?」
真っ先に気づいた榊原が声をかける。
「あ、四条橋さん」
「ちょっと…この子、固まってるけど…」
「見ての通りの後輩いじめだ」
「俺がいじめとは心外だな。後輩いじりの間違いだ」
浩之が心底嫌そうに頭をかく。
「三上くんってやっぱりモテるんだね」
澄香の感想も的外れじゃない。なんてったって、クラスのアイドル。ラブレターならぬラブメールが週に数回は入るらしいし。
「まさに御三家張りの人気だな」
「…御倉っていくつ?」
ほっとけ。
それよりも、中島だ。
「おーい。生きてるか?」
試しに頭をポンポンと。
「う、んん?」
ようやくこっちの世界に帰ってきたようだ。
しかし、次の一言でそうではないことを知らしめることになった。
「あっれ。私なんでここにいるんだっけ」
…アウト。
結局、澄香がしどろもどろで説得し、中島はクラスに帰ったが。
人間って都合のいい仕組みなんだな。
更新、大変遅れました。申し訳ありません。
お待ちになっていた方にはお詫び申し上げます。
ちょっと私事が立て込んでまして、面接やら荷造りやら。まぁ言い訳にもなりませんが。
依子さんの2話目です。
便宜上、プロローグは別にありますが、まだプロローグは終わっていません。メインキャラ…というか各ヒロインが出終わって、それぞれ顔見せ的な話を2,3話やって本編突入です。ゲームだったら、主題歌挿入前ってところです。
正直、前回の依子回はあんまり読者数が伸びないと思っていました。
天然な幼馴染、悪友な関西人、ミステリアスな絵描き娘、クールビューティーな副担任。
スペック的にはかなり厳しいものがありますから。かのチハたんでティーガーに挑むようなものです。
しかし、それなりの読者数が出てきてうれしい限りです。
次回は1時間足らずで更新します。
では評価感想お待ちしております。