7/5(木)その2:こぶんのおじかん
授業とは、退屈なものである。
こう歴史に残る名言を吐いたのは誰だったか。
少なくとも、小さいころに見たアニメとかマンガじゃすでにそんな法則だった気がする。
「ゆく河の流れは絶えずして、しかも元の水にあらず…よどみに浮かぶうたかたは…」
なんだよ、うたかたって。あれか? 最近流行りの4字略語か?
考えたみたら、今使ってない言葉を勉強すること自体がありえないだろ。
と結論付けると、古文は格好の睡眠時間となる。
が…。
「………」
ん?
「……ら」
誰かの声が聞こえる。
「御倉」
「は?」
どうやら声の主は、この場を支配してらっしゃる歩先生だったようだ。
「私の授業で呆けるとは、いい心がけだな」
「やー親の教育がいいですかね」
褒められたので、親のおかげにしてみた。しかし、当の御方はご不満だったみたいで。
「なら私の教育がいいかどうか試してやる。今やってる題材はなんだ」
へ? これ、実際にあるの? 先生の創作じゃなくて?
「いえ、ここまで出かかってるんですがね」
喉を触れるジェスチャーで時間を稼ぎつつ、黒板にタイトルくらい書いてるだろうと思ったら、すでにない。全く考えを読まれてた?
脂汗タラタラのとこに、相棒の寝言が聞こえた。
もうどうしようもないんで、拝借してみる。
「むめーしょー…」
「随分難しいのを知ってるな。作者は同じだが、しかし違う」
え、違うんすか?
困ったとこで、また浩之の寝言が聞こえる。今度こそ…
「あと一つ。三上の寝言は無視しろ。意味がない」
…マジ?
「あー。ほーじょーき?」
「四条橋の独り言が聞こえたが、ま、いいだろう。ではその"ほうじょう"とは何を表わしているか」
「あれっすか、米とかたくさん実るみたいな」
「豊穣。漢字が違うが、よく知っていたな」
板書しつつ俺の間違いを正される。
「いや、前に見た映画の原作に使われていたみたいで」
「ふむ、三島か。しかし今問うているのは鎌倉時代の話だ」
「なら…分かりません」
歩先生は深いため息をつくと、もともと板書していたとこにまたタイトルを書き直す。
「方丈記。鴨長明が書いた隠者文学の代表例だ。その名は『方丈』すなわち一丈四方の草庵で著したことからきている」
一丈四方…?
「いまいちデカさが…」
「もういい。やはり御倉は私の補習を受けたいらしいな」
「まさか、そんな、滅相も」
「ではこれで」
「起立、礼」
榊原の号令で無事拘束から解かれる。
あー、肩こった。
「よく寝た」
「てめ…お前のせいでどんだけ恥かいたか」
「ダメだよ和くん、人のせいにしちゃ」
「おまえの寝言のせいで、どんだけ…」
「そもそも寝てたのか?」
横にはなぜか、酒井がいた。無口にくわえて相変わらず気配を消すのがうまいやつだ。
「やーやー、夢ん中でなぜかリオのカーニバルに参加しててね。踊った踊った」
踊ってるのは浩之さんの脳だ。
「でも三上くんっていっつも国語の時間って寝てるよね」
「たしかに。三上が起きてるのを見たことがない」
同意。
「や、ようは言葉のベンキョだかんね。読めて書けりゃ無問題」
「ならどこまで出来んだよ」
疑問をぶつけてみる。
「んー。ラテン語からナスカの地上絵まで」
「すごいね〜」
ちょ、澄香!
「あれって文字なのか?」
酒井の言い分も当然だ。
「なにかを伝えたいから形にする。根っこは一緒だろ」
…哲学的すぎる。
「とりあえずは、その発言の伝えたいことが分からんけどな」
問い詰めたいとこだが、そうは問屋が卸さなかった。
前回更新時の期限ぎりぎりで更新。
あんまりネタを組み込めなかった回です。
いちお、こいつらも学生なもので勉強シーンくらいは入れておこうかな、と。
実はこの話自体がなにかの伏線…とか言ってみたりしますが、どうなんですかね。アウトラインも今だ不明瞭ですから。
文学的会話もちらほら出てきますが、ふつうの高校生レベルの会話なのでいいでしょう。
個人的に隠者文学では、徒然草より方丈記のほうが好きだったりします。
では、評価感想お待ちしております。
次回更新は月曜までには。話は大方出来上がってますので。