7/5(木)その1:やかましさ1級の朝
ふぁ〜あ。眠い。
「和くん、眠そうだね」
いつものことだが、眠そうな俺を見ながら横で澄香が笑っている。
「ほっとけ。昨日は疲れたんだ。しかも朝からドタバタ続きだったしよ」
「眠そうなのは毎日でしょ?」
くそ。返す言葉も見つからない。
「ところで和くん?」
コホンと一つ、咳払いをして澄香が切り出してくる。
なんだ、なんだ……?
「たしか、昨日は1年生の子が来てたよね?」
そんなことかよ。心配して損したわ。
「ああ、浩之を生徒会本部に拉致しようという、男の風上にも置けない輩だ」
「女のコだってば…」
澄香は複雑そうな笑みを浮かべる。
「でも、かわいらしい子だったよね?」
「そうかぁ? 単にやかましいだけだと思うけどな」
ムッとほほを膨らませてくる。
「またまた、和くん鼻の下伸ばしてたでしょ?!」
またかよ。こいつの火の無いところから煙を起こす技術は天才芸だな。火を珍重する縄文人ならのどから手が出る逸材だよ、ホントに。…ホントか?
「それは置いといてだ。まぁ…昨日は1組からやかましさ検定1級がほとんど来なかったから、よしとする一日だった」
一瞬キョトンとする澄香だったが、ようやく気がついたようでポムッと手を打つ。
「もしかして、それって…」
澄香が言い終わる前に、後ろからドタバタ。朝からこれじゃ今日の占いカウントダウンは最下位か? 頼むぜ彩ちゃん!
「澄香〜! おはよ!」
「おはよう、美紗緒」
「朝から騒ぐなよな。頭に響く」
「和弘もおったんか。存在感薄いから気付かんかったわ」
あっけらかんと言いやがる。
「お前が濃すぎるんだよ」
俺はあくまで朝が弱いっていう日本国民共通の特徴を体現してるだけで、いわば日本代表だ。美紗緒が異常なだけ。
「うちが濃いって…うちんとこの醤油も薄口やし、化粧も薄め、それを捕まえてなにが濃いッちゅうねん!」
「その突っ込みが濃いんだよ、もはや」
は〜あ。朝から疲れる…。
「澄香〜、あんたからもゆうたって」
「う〜ん。朝ってもう少し静かだよね」
「ほらな。澄香は俺の味方だ」
「あぁ…所詮親友ってこんなんやったんか」
分かりやすいほどにガックリとうなだれる。
「どうせ澄香と和弘は契りを交わした仲やし、そんなんやろとは思とったけどな」
こいつ!
「アホ! それを往来で言うな! みんなは知らねえんだぞ! てかそれちげーし!」
しかも、別に澄香とはなんかやましいことがあるわけじゃない。これからは…どうか知らないが。
「そやった。いや〜頭から忘れてたわ。」
白々しく視線を合わさない美紗緒。こいつ知ってて言ったな。
「美紗緒も和くんをこれ以上いじめちゃだめだよ」
澄香が優しく嗜めようとするが、そんな甘っちょろい手段で黙るタマじゃない。
「美紗緒にはな…これくらいでちょうどいいんだ」
と拳に息を吹きかける。
しかし、澄香は…
「ダメでしょ。暴力は一番よくない手段なんだから」
ガンジー並みの非暴力主義。こいつの両親は暴力とまったく無縁な人生送ってきたからな…。そのDNAはしっかり受け継がれてるんだろう。
「しかし、時にはならず者国家に制裁を…」
屁理屈で対抗するが、意味を成すことはない。
「暴力がダメなら別の手段が必要になるね…」
澄香は決心したように鞄からなにやら取り出そうとする。
「ん?」
まさか…それは!?
「なんなん?」
「澄香!俺が悪かった!」
美紗緒の興味が膨らむ前に早々と謝罪する。あれがバレたら俺の高校性活は終わってしまう!
「分かってくれればいいんだよ」
にっこりと微笑むが…。その笑顔が恐ろしい。
「なんやねん、一体!」
キーンコーン…カーンコーン…。
「あかん! ここで漫才しとったから予鈴鳴ってしもうたがな!」
「ほんとだ。急がないと」
基本、足の遅い澄香は先に走り出した。が、そんなのは小学生のかけっこ以下だ。
俺も急がないと…。
「では教室で。また会おう!」
気付いた頃には女二人の遠吠えが聞こえたような気がしたが、そんなの知ったこっちゃない。
ゼエゼエゼエ…
「ま、にあったの…」
し、かし、疲れた…。
とりあえず席に着くか…。
「ひどいよ、和くん」
…? なにぃ?!
振り返るとそこにはいないはずの澄香が。
「お前は誰だ!」
すると澄香は澄ました顔して、
「許嫁の澄香です」
だからそれは禁句、じゃなくて!
「なんでここにいるんだよ!」
「サブさんに送ってもらったの」
焼き場担当のサブさんは今、市場でセリに参加してるんじゃないのか?
「ちょうどセリが終わって帰ってくるときだったんだって」
ひどい話だ…。なら次期オーナーの御曹司なはずの俺を乗せるのが普通だろう! 従業員の風上にも置けない人だ!
「次期女将さんを置いてく薄情者は置いてきましょう、て言ってたよ」
なんたるオーナー一家の権威…。
親父も板場では結構おもちゃだからなぁ。
「ま、情けは人のためならず。て言うしな、もうちょい和弘も澄香に優しくしたり」
くそぉ。言いたいこと言いやがって……。
ガラガラ〜〜
「席につけよー。お、生野。B組にFAしたのか?」
「いえ、そんなんちゃいますから…」
「なら戻れよ。よこの北条先生も心配してるだろ?」
「ほんなら、澄香。おおきにな」
「なにが『おおきに』なんだよ。なんかしたのか?」
「あいつ流の挨拶なんだろ。気にしてたら老けるぞ?」
「だから…二人ともしずかにすれっつってるだろ!」
そんなんで今日も始まった。
やっぱおかしいですね、美紗緒の関西弁。
彼女は兵庫から移住してきたわけですが、そんな問題ではないですか。まぁ標準語にも慣れてきたが、なんだかんだと地が出る…これでもおかしいですよね。
関西の方、生暖かい目で見守ってくれると幸いです。
あとですね、前にちらっと本文で触れましたが、主人公である和弘の家業は料亭です。
といっても、ささやいて全国的に有名になった女将んとこみたいなのではなく、敷居の低い、田舎の高級料理屋みたいなイメージです。一見さんお断りなんてあろうはずがありません。
もうちょっとしたら、従業員も出す予定です。
次回更新は、明日にでも…遅くとも週末までにはUPする予定です。
では、感想お待ちしております。