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7/4(水)その2:依子現る

 そして昼休み。

 母さんの作った弁当を食べようと、薄っぺらい学習カバンから弁当箱を取り出すところに、購買でパンを買ってきた浩之が現れた。

「おまっとさ〜ん! ささ、飯にしよっか」

「やけに早いな」

 明らかにスピードがおかしい。本来ならあと5分は普通にかかるぞ?

「ま、蛇の道はなんとやら。あの購買のオバちゃん、実はうちの喫茶店によく来てさぁ、俺のナポリタンを食ってくんだよね」

 たしかに浩之んの家業は喫茶店だ。そのナポリタン、旨いことは旨いんだけど…値段がな。一皿800円て、モッテリアならバーガーいくつ食えるんだ?

「で? そん時にか?」

「俺のリクエストの奴を取っといてもらえるわけ」

「すごい話だな。うちじゃぜってーありえねぇ」

「でもトータルで見たら、和弘んちのほうが得してるだろ? なんてったって老舗の料亭だもんな〜。ごっつい有名人たくさん来るんだろ?」

 たしかにうちでやってる料亭は創業200年を越える、この近隣では一番の老舗店だ。親父に料理の才能は無い為、板場を仕切ってるのは、物静かで表情から「私、不器用ですから」と言いたげな高桑さんだが、その人の作るものは芸術と呼んで差し支えない。

「でもな、脂ぎったおっさんばっかだし、別に小遣いくれるわけでもないしよ。それよっかアンニュイな雰囲気でコーヒーを飲んでるお姉さまのほうが数段いいだろ…」

「確かに」

 そんな他愛も無い会話をしていたとき。

 ドタドタドタ〜〜〜〜〜!!

 廊下からいかにもな走ってくる音がする。

 その音を聞いて、浩之は頭を抱えた。

「悪い。俺はしばらく身を隠すことにする。うるさいメガネしたのが来たら適当に追い返してくれ」

 そう浩之が言い残そうとしたとき、そのうるさいメガネが参上した。

「そうは行きませんよ! いいえ、世間が許してもこの生徒会が許しませんよ!」

 世間が許してたらいいじゃん。ていうかこのちんまいのは誰?

「チッ、遅かったか」

 浩之がうな垂れる。

「どうしてそう三上先輩はあたしを嫌うんですかぁ? 私の何がいけないんですか?」

 涙目になりながらこっちに近づいてくる。これじゃまるでストーカーではないか。

 しかし、割り込むようで悪いが、こっちはまるで話が分からない。

「おい、そのちんまいの誰だ?」

「一年の中島依子(なかしまよりこ)。ちょっと今つき回されててな」

「お前は下級生の人気高いもんな…」

「ちょっと〜〜! あたしの知らないところで何やってるんですか?」

 コソコソ話に堪えかねたのだろうか、中島が乱入してくる。

「親愛なる読者様への事情説明だ」

「意味が分かりません!」

 そりゃそうだ。

「それは置いといてだな、今日は何しに来たんだ?」

 切り替えの早い浩之が、機転の効いた反応で話を進める。

「決まってるじゃないですか、三上先輩を我が生徒会にスカウトするためです!」

 びしっと言い放つ。…が。

「断る」

 相棒ったら、にべもない。

「俺はそういう委員長みたいのは性に合わないし、大体、そんなので学校祭期間をつぶす気は毛頭無い。よってそのスカウトには応じない」

 NOと言える桜樹市民、その筆頭だな。

「委員長じゃありません! そんな堅っ苦しい肩書きなんかと一緒にしないでください!」

 てったって、委員長のクラスチェンジが生徒会でないの? 魔法使いから賢者みたいなもんだろ。

「生徒会ってのは、みんなが楽しい学校生活を送れるようにいろんな企画をして実行するとこです! ですからそんな規則の番人みたいなのとは存在意義が違うのです」

「さよか」

「きぃ〜〜い! ホントに三上先輩って人は真面目に聞かないで! そこの人も何とか言ってくださいよぉ…よよよ」

 感情が高ぶってきたのだろうか、まん前にいる後輩は涙目になってきて。

「おい、浩之」

「ん?」

「中島さんが泣いてるぞ」

「ひっく、ひっく…」

 結構本格的だな。

「ったく、しょうがねーな」

 浩之が心底めんどくさそうに中島を慰めにかかる。

「まぁ、今の返事は悪かった。とりあえず泣き止んでくれよ、な?」

「ぐすん…なら生徒会に入ってください」

「それは断る」

 またも、にべも無い。名刀も真っ青な切れ味。

「泣いてるかと思えば…意外に中島ってしたたかなのな」

「そーですよ! 三上先輩を生徒会にひっぱってくなら、なんだってしちゃいますよ?!」

 なんだって、か…。

 なぜか真っ赤なボンテージに身を包んだ目の前のメガネのイメージが。全然様になってないけども。

「わー!! エッチな妄想禁止! そこの先輩! 肖像権の侵害ですよ!? なに考えてんですか!?」

「いや、読者サービスを…」

「ここはX指定じゃありません!」


 ひとしきり押し問答を繰り返したところで、浩之が時計を見ながら口を挟んだ。

「あれ、30分から生徒会の連絡会じゃなかったのか?」 

 時計を見ると、すでに12時32分。

「あぁぁ〜〜! もう、先輩のおかげでぇ! 遅刻遅刻!」 

 出て行こうとする中島は、何かを思い出したようで浩之のほうに振り返った。

「じゃあ、また先輩、明日も来ますからね! いい返事期待してますよ?」

 そう言い残し、中島は行きと同じように駆けてった。

「台風のような後輩だな」

「確かに災害だよ。俺はもう来ないのを期待してる」

 二人でため息。

 次は体育だってのに、今から食っても消化する時間も無いっぽかった。


ハイテンションガール、依子さん登場しました。

よく創作世界では「生徒会」を諸悪の権化みたいに扱うことが多々見られます。

私の出身校ではそんなに悪くなかった…というか生徒会自体にやる気がなかったため、影が薄かったんですね。

よってここでは、別に生徒会長が財閥の一人娘だったり副会長が眼鏡のガリベン男子だったりはしません。というか、依子は一年なために選挙で選ばれた役員ではありません。部活動…に近いサークルのようなものと捉えてください。無論、役員選挙はありますが。


では、感想お待ちしております。

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