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「異世界はイ〇ンじゃねえ!!」



 ☆



「まいど! またきてくれよな! おじょうちゃんの宝石を売るときは、ぜったいウチにたのむよ旦那!」


 しばらく粘る道具屋の主人とのやりとりがあったのだが「……これは売れない」という、プラスちゃんの固い意志を尊重して、とりあえず売れるものだけ売って道具屋をでた。


 ちなみにオレの所持品はぜんぶで84テラスになった。日本円で3万ちょい。

 ……この端数の4テラスに、オレのタフなネゴシエーターっぷりが詰まっていることを、理解していただけるはずだ。


 そんでプラスちゃんの「これなら売ってもいいけど……」という、ハートをあしらったデザインのブレスレットは800テラス。プラスちゃんの身につけているピンクの宝石が、魔力を増幅させる効果があるということらしくて、この世界ではめっさ高価らしい。

 ブレスレットにも小粒だがその宝石がついていた。なので、これだけで32万……。オレの元いた世界での貯金総額を易々と上回ったので、格差しね。


 それにしても、プラスちゃんどこいったのかな? すこし目を離した隙にいなくなったんだけど……。


「あ、ごめんごめん。カイト待たせたね」


「どこいってたの? って それなに?」


「かわいいでしょ? 90テラスだったんだ」


 プラスちゃんは、クマとウサギをたしたような動物のぬいぐるみを抱いている。


「90テラス……オレの現全財産以上……」格差しね。


「あのさ。ちょっと自由時間にしようよカイト。あっちに可愛い服屋とかがあったから、ゆっくりみたいんだ」


 でた。女子の買い物スイッチ。


 予想外に高く所持品が売れたので、プラスちゃんは、気持ちが大きくなっている。

 ……これはいけない。釘をささないと。


「ダメダメダメ! そんな無駄なものに、()()()の、だいじなお金を使っちゃ!!」オレ達、という部分を強調する。


「え? ()()()って何? だってこれはボクのお金でしょ? だから、どう使おうとボクの自由じゃん。カイトのは84テラス。必死に4テラスも上乗せした潤沢なお金があるじゃない――ぷっ」


 超上から目線のプラスちゃん。


 ……きた。予想通り。ここからが大事だ。

 オレは自分の表情を意識して真顔にし、声のトーンもやや落とす。


「……いいかいプラスちゃん。だいじな話をするから、よく聞いて」


「な、……なに? 急に……」


「冒険者パーティっていうのは、財布を共同管理するものなんだよ」


「ええっ? そうなの?」


「そうなの。異世界モノの冒険者というのはそれが常識。なぜなら、パーティはひとつの家族だから」


「えー。底辺カイトと家族だなんて、ボクは嫌だな……」


 ――キッ。オレは真顔のままプラスちゃんを睨む「茶化さないでくれ」


「う……睨まないでよ。で、でも……お金。ボクのほうがはるかに多かったし……。そうだ! ボクらは、財布ぐらいは別々に管理しようよ。そうしようよ!」



「だまらっしゃい!!!!」



 ――ズビシ! と、プラスちゃんを指さすオレ。


「!?(ビクッ)」」


「……そのような愚かな個人主義が、パーティ全体を危機におちいらせる。オレは数多の異世界モノで、そうやって破滅するパーティをみてきた(みていない)1人がパーティのために……パーティが1人のために。つまり『団結』こそ最大の宝にして武器。それがあるべき冒険者パーティの姿。そうオレは確信している。そうでなくては我ら冒険者という弱き存在が、魔王という強大な敵に抗えるはずが、ないではないか……」


「……ううっ」


「プラスちゃん!」


「は……ひゃい!」


「君は何をしにここへきたんだい? 服を買いにきたの?」


「えっと……その」



「異世界はイ〇ンじゃねえ!! 異世界を舐めんな!! 」



「!? うあ……ごめんなさいっ!」


「魔王を倒すんじゃなかったの? 当初の目標はどうしたの? 君の(こころざし)は?」


「……う」


「魔王を倒すという大目的があったんじゃないの? それとも何? プラスちゃんは女神界にもどりたくないんですか? ……だったらいいよ、ここでパーティは解散だ。オレはべつに魔王討伐なんて興味ないからさ……エルフ嫁を探して、異世界ですきに暮らさせてもらう」


 ……もちろんブラフ。


 来い。来い、プラスちゃん。乗っかって来い……。


 ここで「うん解散オッケー」とやられたら、オレは全力で、名を捨てて実を取る。鼻水でも涙でもながしてプラスちゃん(希望)に追いすがるつもり。そこまで計算にいれての交渉術よ……。どうだプラスちゃん。どうでる?


「…………。そ、それは困るんですけど! ボクがまちがっていました!」


 よし……おちた。


「じゃあこの共同お財布にお金を入れてね」


 オレはすばやく『団結』と書かれた、布袋の口を広げる。「……。わかったよカイト、はい」そうやって、プラスちゃんの残金710テラスを回収する。


「ありがとうプラスちゃん。これはみんなの為だからね……」


 そう伝えて、共同財布をオレの懐にねじこんだ。



 ……おっし、ちょろいのう子供は。


 女神といえども所詮は子供。鎧袖一触とは、まさにこのことか。

 おっさんを舐めるなよ。これが人生経験の差よ。

 気分はすっかり、お年玉を巻き上げる保護者……いや、売れっ子の子役タレントからギャラを巻き上げる保護者の気分?


 それにしても、道具屋の主人とこっそり話したのだが……。プラスちゃんのもっているステッキも、なんちゃらドライバーにも例の宝石は使われていて、胸飾り同様の価値があるとのことだった。


 つまりは日本円換算で数千万円が服着て歩いているわけだ。


 ……さすがは女神。常人とは装備からしてグレードが違うということか。プラスちゃんを異世界につれてきて、ほんとうによかった。可愛いうえに大金もついてくるなんて……。


 これって立派なチートだよな。



 ☆



 そんなこともあり、順風満帆すぎるオレ達の異世界がはじまった。


 本音のところでは、今日はもう酒場でパーッと『大人の麦ジュース』なんぞ飲んで、異世界生活の前祝いといきたかったんだが……。


 プラスちゃんにああいった手前、軽く食事を済ませてバッタ退治に出ることにした。戦うフリをして2~3匹適当に討伐して、酒場へGOだな!


 いちおうオレは武器屋で剣を、防具屋で軽い皮鎧と盾なんぞを仕込んで装備した。


 プラスちゃんは皮の防具類は「臭いから嫌だ」と嫌がって、そのまんま。たしかに新品の皮装備。ツンとした匂いすんだよな。動物の皮だもんな。使っているウチになじむだろうけど。


「バッタでしょ。よゆーよゆー」


 綿アメみたいなの食べながら、オレの横をてくてく歩くプラスちゃん。その背中には、さっき買ったおおきなぬいぐるみを背負っている。


 ……うん、これから初の冒険クエストを請け負おうという緊張ゼロ。


 プラスちゃん……。クマウサギのぬいぐるみしか装備してないけど。それってステータス補正のないユニークアイテムでしかないよね……。ほんとうに大丈夫かな……。


 そんなことを気にしながら、街の近くにある、とある畑に向かった。

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