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《第6話 奇妙な2人》

  アムットの目線の先には、この優雅な船には似合わない二人組の後ろ姿があった。


  通常ならば乗船は拒否するのたが、この二人を今海に放り出すわけにはいかないのだ。


  安全な航海をするためにも……。


 奇妙な二人は人間の少年と褐色の女性エルフだ。

  しかし知らない人が見ればその関係性は不明で、夫婦や恋人には見えない


 短く切り揃えた黒髪を持つ少年の方は、降り注ぐ眩しい陽射しから身を守るように黒いマントを羽織っている。

  フードの隙間から覗く白い肌は瑞々しく美しい。


  もう一人のとんがり耳の女性エルフは、赤い髪を無造作に後ろでまとめ男物の着物に袴を着用し、白くて長い物干し竿のようなものを右肩に掛けて、ドッカリと胡座をかいている。


  アムットはそのまま素通りしようとしたが、あるものを見て考えが変わる。エルフが左手に細長い金属の筒のようなものを持っているのが見えたからだ。


「そこの貴女!」


  アムットの声に二人が同時に振り向く。


  少年は緑の瞳で、エルフは右眼の金色(こんじき)の瞳――左眼は髪で覆い隠されている――で、やってきた小さな船長に視線を送る。


「ん? ああ、船長さんかい。オレ達に何か用かい?」

 

  答えたのは女性エルフの方だ。彼女は格好もそうだが口調もとても男っぽい。


  「貴女に用があるの! それを早く消しなさいよ! この船は火気厳禁! 」


  アムットが指差したのは女性エルフの持つキセルだった。


「オレは火事を起こすような、そんなヘマなんかしねえよ」


  そういってエルフはキセルを口に加えると、火皿に新しい葉を詰めてから、細い棒の先端に小さい火の魔法を閉じ込めた魔宝石――マッチ――を使って着火する。


「ちょっと、聞いてるの?」


「フ〜。聞いてるよ。心配すんな。これぐらいの事なら女神達(あいつら)も怒りはしないさ。なあ、シルト?」


  シルトと呼ばれた少年が顎に手を当てながら口を開く。


「そうじゃな。女神も他の事で忙しかろう。それぐらいなら見逃してくれるだろうて」


  少年シルトは、年相応に愛らしい声であったが、意外な事に口調は老人のそれだった。


「それよりも右冴姫(ウサギ)よ。吸うのは構わんが煙がこっちに来ておるぞ。臭いが箱につくじゃろうに」


  よほど大事なのだろう。シルトは首から鎖を下げた箱を護るように手で覆いながら、風上に移動する。


「すまねえ。けどよ。煙の道筋は風まかせ、お前が風下にいたのがいけないんじゃないか? 嫌なら部屋に戻ってろよ。この場はオレ一人でもなんとかなるぜ」


  右冴姫は勝ち誇ったように口元に笑みを浮かべる。


「何を言っておる。戦闘能力はお主の方が上じゃが、感知能力はワシの方が上じゃ。

  お主が気づかないうちに首を撥ねられんよう気をつけてやってるんじゃぞ。少しは感謝してほしいくらいじゃ」


  今度はシルトが微笑む。


「ちょっと貴方達。私を無視して話を進めないでよ」


  アムットの叫びに睨み合っていた二人が目をそらす。

 何事かと遠巻きにこちらを見ていた貴族の夫婦に頭を下げてから、改めて目の前の二人に向き直る。


  アムットにとって、こんな変な二人組など普通なら乗せるはずもない。しかしどうしても乗せなければならない理由がある。


  何とシルトと右冴姫の二人は、《優雅に泳ぐ人魚号》が雇った護衛だ。


  実はこの海域には、数ヶ月前から船が何度も襲撃されていた。 いや、襲撃されていたと分かったのも、ほんのひと月前のことで、それまでは原因すら分からなかった。


  何故なら生還してきた船が一隻もいなかったから。


 しかし一ヶ月前のある日。貨物船の護衛をしていた軍船が命からがらに港に戻った。

  そこで起きたことを語った事で事態は発覚する。


  それは嵐と共に現れる海賊船だった。にわかには信じられない話だったが、逃げてきた船の乗組員は皆口を揃えて、同じことを繰り返されては信じる他なかった。


  海賊船の手口はこうだ。襲われた船は金品物資を全て奪われ、乗組員は船ごと沈められるというとても残忍な手口だ。


  その為、そこを航行する船は全て運航を停止する事になり、《優雅に泳ぐ人魚号》も例外ではなかった。


  何度か海岸による討伐隊が組まれたが、海に出たっきり、港に戻って来た船は一隻もない。


  その問題を自分たちなら解決できると言って現れたのが、シルトと右冴姫の二人であった。

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