表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

12月

 12月22日、金曜日。

 今年は日曜日がクリスマスイブということもあって、彼氏彼女がいるリア充どもは、一様に浮足立っていた。

 まあ、俺には関係ねーけど。

 放課後、ゲンが教室に忘れ物をしたというので、一人でテニス部の部室に向かっていると、後ろから江藤に声を掛けられた。


「あの、戸川君!」

「お、おう江藤。どした?」

「あの……明後日は、何か用事ある?」

「えっ……別にないけど」

「あっ、そうなんだ!じゃ、じゃあさ、よかったら、一緒にどこか遊びに行かない?」

「えっ!?俺と?」

「う、うん。……ダメかな?」

「いや、全然いいけど!ホントに俺なんかでいいのか?」

「もちろん!じゃあ12時くらいに、駅前で待ち合わせでいいかな?」

「ああいいぜ。じゃあゲンと薫子先輩にも声掛けとくよ」

「えっ!?ちょ、ちょっと戸川君!?」

「じゃあまた明後日な!」

「う……うん」


 一人で寂しいクリスマスイブかと思ったら、江藤から誘ってもらえるなんてラッキーだぜ!

 俺はウキウキ顔で、部活終わりにゲンと薫子先輩にこのことを話した。


「え……それ僕も行っていいの?」

「んっ?何で?そりゃいいだろ?」

「う、う~ん」

「何でそんな微妙な顔してんだよゲン。あれ?薫子先輩、どうしました?」

「す、すまん戸川……お誘いは大変嬉しいのだが、その日は親族一同が集まってのパーティーが催されることになっていてな……」

「あ、そうなんですか。じゃあしょうがないですね」

「無念だ!戸川、この埋め合わせは必ずするぞ!」

「あはは、そんな気にしないでくださいよ。じゃあゲンは12時に駅前でな」

「え……うん」


 何だかゲンの様子がおかしかったが、気にしないことにした。




 そして迎えた、クリスマスイブ当日。

 12時の5分前くらいに駅前に着くと、既に江藤は着いて待っていた。


「ごめん江藤!待ったか?」

「ううん、私も今来たとこ。あれ?小森君と薫子先輩は?」

「薫子先輩は親族のパーティーがあって来れないんだってさ。ゲンはもうすぐ来ると思うけど」

「あ、そうなんだ」


 その時、俺のスマホからピロンという電子音がした。レインの通知音だ。

 見るとゲンからで、こう書いてあった。


『ごめん閃ちゃん。僕風邪引いちゃったみたいだから、今日は二人で楽しんできてね』


「……マジかよ」

「えっ?どうしたの?」

「ゲン、風邪引いて、来れないってさ」

「あ……そう」

「参ったな。じゃあ日を改めて――」

「あの!戸川君!」

「お!?おう、何だ」

「よ、よかったら、今日は私と二人で遊ばない?」


 江藤は耳を真っ赤にしながら、俯き顔でそう言った。


「え……俺はいいけど、江藤は俺なんかと二人で遊んで楽しいのか?」

「楽しいよ!楽しいよ!だから、ね?」

「あ、ああ、じゃあせっかくだからパーッと遊ぶか」

「うん!」


 江藤は満面の笑みを浮かべた。

 優しいやつだな江藤は。

 きっとここで解散にしたら、俺が傷付くと思って気を遣ってくれたんだな。

 とはいえ、こんな田舎じゃ遊ぶようなところもあまりないので、俺達は高校生らしく、近くのカラオケボックスに行くことにした。

 正直俺は、最近の曲はアニソンくらいしか知らなかったので、終始アニソンばかり歌っていたが、江藤は引くこともなく、知っている曲は一緒に歌ってくれたりもした。

 江藤は意外にも、演歌が好きで(お父さんの影響らしい)、普段の可愛らしい声からは想像もつかない程、コブシを効かせて熱唱していた。

 俺達は大いに盛り上がり、カラオケは延長に次ぐ延長で、外に出た頃には、辺りはすっかり暗くなっていた。


「いやー久しぶりにあんなに歌ったな。俺喉ガラガラだよ。さて、これからどうすっか?カラオケでいろいろ摘まんでたから、腹も減ってないしな」

「……ねえ戸川君、私実は行きたいところがあるんだけど」

「おっ、そうなのか。いいぜ、付き合うよ」

「ありがとう」


 江藤が行きたかった場所は、駅前のショッピングモールの中庭にある、大きなクリスマスツリーだった。

 イルミネーションがキラキラと、とても綺麗で、なるほど江藤が見たかったのも納得だ。

 しかしイブだけあって、周りはカップルだらけだった。


「あのーすいません」

「あ、はい?」

「これで写真撮ってもらってもいいですか?」

「ああ、いいですよ」


 高校生と思われるカップルから、クリスマスツリーをバックに、写真を撮ってくれるように頼まれた。

 正直、こういうのはセンスがないので苦手だが、そうも言っていられない。

 俺は、江藤からアドバイスをもらいながらも、何とか二人の記念を写真に収めた。


「ありがとうございます。あなた達もよかったら撮りますよ」

「えっ、あ、いや、俺達は……」

「ねえ戸川君、せっかくだから撮ってもらわない?」

「えっ、でも……」

「……ダメ?」

「いや!もちろんいいけど……」


 何だろう。今日の江藤は随分と積極的な気がする。

 でも俺達はカメラを持っていなかったし、江藤はスマホも持っていないので、俺のスマホで撮ってもらうことにした。

 写真を撮られる瞬間、江藤が俺と手を繋ごうとした様に見えたが、気のせいだろう。

 写真に写っていた俺と江藤は、明らかに緊張しており、顔がガチガチだったが、これはこれで良い思い出だな。


「そのうち、江藤がスマホ買ったら、この写真転送するからさ」

「うん!その時はお願いね。……戸川君、よかったらこれ、受け取ってくれる?」

「えっ!?これは……」

「まあ、クリスマスプレゼントの様なものです……」

「マジで!?ありがとう!開けてもいいか?」

「う、うん……でも、変でも笑わないでね」

「笑わないよ」


 ドキドキしながら包みを開けると、それはとても温かそうな手袋だった。

 息を吞む程、精巧に作られており、とても高級そうに見えた。

 でも、何でこれで笑われると思ったんだろう?

 ……まさか。


「江藤、もしかしてこれって……」

「あ、うん……一応手編みなんだけど、要らなかったら捨ててくれていいから!」

「いや!捨てるわけないだろ!マジありがとう。一生大事にするよ。しかし、流石獣医の卵だな。編み物もプロ級じゃん」

「いや、そんなことないよ。ここまでするのに、何十回も失敗したし……」

「ハックション!あ、ごめん聞こえなかった。ここまでするのに……何?」

「ううん!何でもない!気にしないで」

「そっか、でもこんなに良いものもらった後じゃ、出し辛いな。大したもんじゃないけど、よかったらこれ、もらってくれるか」

「えっ……ありがとう。開けてもいい?」

「ああ、笑わないでくれよ」

「ふふ、笑わないよ……わあ!これ」


 俺が江藤に贈ったのは、動物図鑑だった。


「江藤なら、もう持ってるかもとは思ったんだけど」

「ううん!私の家、貧乏だから、こういうのはいつも図書館で眺めるだけだったから、本当にうれしい!ありがとう戸川君。一生大切にするね」

「喜んでもらえたなら、何よりだよ」


 天使の様な江藤の笑顔が、クリスマスイブの夜に溶けていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
応援バナー
(バナー作:「シンG」様)

バナー
(バナー作:「石河 翠」様)
(女の子はPicrewの「ゆる女子メーカー」でつくられております)
https://picrew.me/image_maker/41113
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ