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10月

「学ランなんか着るの、中学以来だよ俺」

「えへへー、僕もだよ」


 俺とゲンは、既に懐かしい思い出に変わった学ランに袖を通しながら、感慨にふけっていた。

 阿佐北はブレザーなので、久しぶりに学ランを着ると、上半身がとても窮屈に感じる。


 俺達は体育祭の応援団に立候補した。

 各クラスから二名ずつ、団員を募集していたので、元々競技には参加できない俺は、せめて応援でならみんなと一緒に戦えるかもしれないと思い、即座に手を挙げた。

 そんな俺を見て、ゲンも後に続いてくれた。

 大分右足の感覚もマシになり、普通に歩けるようにはなってきたが、演舞に参加するのは難しいと言わざるを得ない。

 そこで俺は、大太鼓係を任せてもらうことになった。

 これなら足はあまり使わないし、腕の筋肉はテニスで長年鍛えてきたので、過酷な応援の練習も、何とか乗り越えることができた。


 そして体育祭本番の今日。

 支給された学ランを身に纏い、俺達は出陣していった。


 最初の種目の百メートル走が始まると同時に、応援合戦の火蓋が切られた。

 俺達紅組の応援団長は、薫子先輩だ。

 学ランに身を包んだ薫子先輩が中央に立っただけで、紅組はもちろんのこと、白組の女子達からも黄色い声援が上がった。

 薫子先輩率いる紅組応援団の、雄々しい演舞が披露されると、女子の中には失神するものまで現れた。本来なら脇役なはずの応援団が、完全に競技者(しゅやく)を喰ってしまっていた。




 競技も後半に差し掛かった頃、借り物競争の出場者の中に、江藤の姿が見えた。

 江藤は運動はあまり得意ではないと言っていたが、借り物競争なら運次第では十分上位も狙えるだろう。

 俺は今まで以上に声を張り上げ、精一杯江藤のことを応援した。


 江藤の番が回ってきた。

 俺はなるべく簡単なお題が来いと強く念じたが、お題の紙を確認した江藤の顔が、一瞬で青ざめたのを見て、あっヤバいやつ引いちゃったな、と察した。

 それでも立ち止まっていてはビリになってしまう。

 俺は江藤に「何でもいいからとりあえず動け!」と、大声で叫んだ。

 江藤は俺の声が聞こえたのか、少しだけ逡巡の表情を浮かべた後、意を決したように俺のところへ走ってきた。

 ん?何で俺のとこに来るんだ?まさか大太鼓がお題なんてことはないよな?


「戸川君!」

「江藤!お題は何なんだ?」

「えっと……とりあえずゆっくりでいいから、一緒に来てくれない?」

「はっ?俺が?お題には何て書いてあったんだ?」

「あ、後で言うから!」

「お、おう」


 『友達』とでも書いてあったのかな?

 まあ今はゴールするのが先決だ。

 俺達は八人中、三位でゴールした。まずまず上出来と言っていいだろう。

 ただお題を確認する係の女子が、やたらニヤニヤしていたのが気になった。


「なあ江藤、結局お題は何だったんだ?」

「……笑わないで聞いてくれる?」

「いや、今回ばかりは内容次第じゃ約束はできないな」

「……これ」


 江藤は震える手で、お題の紙を差し出してきた。

 俺はドキドキしながらその紙を開いた。

 紙にはこう書かれていた。


『無人島に一つだけ持っていくなら何?』


 何でお題が質問形式なんだよ!


「……江藤は俺のこと、サバイバルナイフ的なものだと思ってたのか?」

「へっ!?…………もう!知らない!」

「えっ!?ちょ、江藤!?」


 何故か江藤は怒って行ってしまった。

 俺なんか気に障ること言ったかな……。




 体育祭はいよいよ、最終種目の騎馬戦を残すのみとなった。

 今のところ紅組と白組の点数は、552点、対、541点と、ほぼ差はない。

 が、先程騎馬戦に勝利した組には5000兆点が加算される旨のアナウンスがあり、昭和のバラエティ番組を彷彿させる、失笑ものの展開となった。

 まあ、要はこの騎馬戦で勝った方が優勝なわけだ。

 ある意味わかりやすい。


 騎馬戦は四人一組の騎馬が二十組、()()()()()自由に参加できることになっていたが、当然参加者は男子ばかりだった。

 薫子先輩の騎馬を除いては。

 ですよね。先輩がこういうのに参加しないわけないですよね。

 しかも薫子先輩を支える女子は、自称、薔薇十字団(ローゼンクロイツ)と名乗っている、薫子ファンクラブ最高幹部の三人だった。

 何て厨二くさいネーミングなんだ。


一美(ひとみ)二子(にこ)三久(みく)、私に力を貸してくれ!」

「「「ハイ、薫子お姉様!我らが命、御身のために!!」」」


 この人達なら本当に自分の命さえ投げ出しそうだ。

 ここまでくると、最早宗教の様にさえ見える。

 ただ、いくら忠誠心がカンストしているとはいえ、男女の体格差は埋まらないのではないだろうか。

 何にせよ、ショー・マスト・ゴー・オンだ。

 法螺貝の音と共に、最終決戦の幕は切って落とされた。


 凄まじい地響きと砂埃を上げながら、屈強な男達(と一部の淑女達)が、ぶつかり合った。

 だが運悪く、ラグビー部員と相撲部員とレスリング部員が、全員白組だったため(どんな確率だよ!)、たちまち紅組は劣勢に立たされた。

 あっという間に紅組に残っている騎馬は、薫子先輩擁する薔薇十字団だけになってしまった。

 白組の騎馬は、十組以上残っている。

 万事休すだ!

 その時だった。

 一人、また一人と、紅組の薫子ファンクラブ員が、歌を歌い始めた。

 その歌は、白組のファンクラブ員にまで波及し、学校中に響き渡る程の大合唱となった。

 すると、薫子先輩と薔薇十字団の髪の色が、黒から金色に変わって、全身からオーラの様なものが溢れ出てきた。

 ファッ!?

 急に作風変わったけど!?!?

 スーパー薫子人の四人は、十組以上いた騎馬を瞬殺し、見事紅組の優勝が決まったのだった。

 えぇ……(困惑)。




 ちなみにこれは余談だが、月末に開催された文化祭では、薫子先輩のクラスは、演劇でベルばらを上演し、阿佐北創立以来の最高来場者数を記録した。



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