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高校一年生  作者: 間咲正樹


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エピローグ

「じゃあな戸川。明日発売するジュラハンの新作は、絶対買えよ。また一緒にやろうぜ」

「先生は十年前と、趣味趣向が変わってないですね」

「それが俺の良いところだからな」

「ところで戸川、そろそろ曼珠沙華家に婿に来る気にはなったよな?」

「なってません。申し訳ありませんが、何度言ってもらっても俺の気はかわりませんよ」

「そうか、もう結納の準備は済んでるんだがな。これで138回目のプロポーズ失敗か」

「俺に無断で、結納の準備を進めないでくださいよ」


 俺は十年ぶりに訪れた阿佐北の正門前で、琥太狼先生と薫子先輩と向かい合っていた。今は、薫子先生と言った方が、適切かもしれないが。

 薫子先輩はソフトテニス部の顧問をしており、去年は遂に、教え子がインターハイで優勝したそうだ。

 噂では、薫子先輩目当てで、阿佐北の女子生徒の志望者数が、年々増加しているとか。

 曼珠沙華家からは、早く家を継げと言われているらしいが、婿を見付けたら帰るの一点張りで、そのたびに俺にプレッシャーが降り掛かってくる。


「しっかし、あの小森がプロとはなあ」

「そうですね」


 ゲンは今や、日本を代表するプロテニスプレイヤーになっていた。

 メディアからは、最もグランドスラムに近い男と評されており、その甘いルックスも相まって、日夜CMに引っ張りダコだ。


「じゃあ俺はそろそろ行きます。また連絡しますね」

「オウ、またな」

「戸川、次のプロポーズはいつがいい?」

「いつでもよくないです」

「フフフ、戸川はツンデレだな」

「ツンデレではありません」


 俺は二人に背を向けたが、不意に琥太狼先生に呼び止められた。


「ああ、待ってくれ戸川。最後にちくわの顔を、もう一度見せてくれ」

「え、まあ、いいですけど」


 俺が猫用のバッグの中に入っているちくわを、琥太狼先生に見せると、先生は普段の目付きの悪さと真逆の、デレデレした顔でちくわのことを「キャワイイ~」と愛でていた。

 先生がこんなにも猫好きだったとは意外だった。

 十年前に知っていれば、もっと猫の話題で盛り上がれたかもしれない。

 今度こそ二人に別れを告げると、俺は当てもなく歩き始めた。


 あれから俺は、北海道で障害者用の補装具を、製造販売する会社に、システムエンジニアとして就職した。

 元々ゲームは好きだったし、俺みたいな人達の役に、少しでも立てればと思い、入った会社だった。

 が、子供の遊びとプロの仕事は、天と地程の差があり、未だに四苦八苦しているが、そこそこ充実した日々を送っている。

 そんな折、千葉県にある支店への、転勤希望者の募集があった。

 俺は一も二もなく手を挙げ、十年ぶりにこの阿佐田の地に降り立った。


 あれ以来、江藤とは一度も会っていない。

 ここに来たのは、もちろん江藤に会えるかもしれないという、期待があったからだが、今でもこの土地に住んでいるとは限らないし、ひょっとしたらもう結婚しているかもしれない。

 フウッと一つ、ため息を零すと、突然ちくわが暴れ出し、バッグから跳び出して走り去ってしまった。


「おい!ちくわ!」


 今ではすっかりおじいちゃんになって、大人しくなったちくわが、どうしたというのだろう?

 ちくわを追って、曲がり角を右に曲がると、そこには十年前と変わらず、中村動物病院の看板が掛かっていた。

 ちくわはその前で、白衣を着た背の低い女性に頭を撫でられていた。


「可愛い猫ちゃんね。あれ?あなたもしかしてちくわ?」


 その女性が顔を上げると、俺と目が合った。


「……戸川君」

「よう、久しぶり」

「久しぶり。すっかり大人っぽくなったね戸川君」

「そっちもな」


 どうしよう。

 全然言葉が出てこない。

 とりあえず俺は、世間話から始めることにした。


「そう言えば、明日発売するジュラハンの新作、買う?」

「ふふ、もちろん」




 完



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― 新着の感想 ―
[一言] 一気に読ませて頂きました。 こう、なんといいますか、正樹さんの心の奥底を覗かせてもらったような、不思議な気分です。 変な話ですが、これを書いていた頃の正樹さんを想像して、うるっとくる私。 あ…
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