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骸骨と半月

街道を歩き続け、5日。

たくさんの馬車とすれ違いなら、やっと洞窟に辿り着いた。


「着きましたね」


「あぁ。順調だ」


洞窟の入り口ついたのは、昼を回って2時頃、洞窟の入り口には多数の冒険者と思われる者達が列をなしていた。

その隣に馬車が止まっていることから、この者たちは機械都市行きの馬車に乗って来たもの達なのだろう。

先頭の者が職員らしき者と話しているので、俺たちもその列に並ぶ


「入国検査みたいなものでしょうか?」


「わからないが、身分確認といったところだろうか」


先頭の者は懐から冒険者カードを取り出し、それを職員に見せ、一言二言言葉を交わしていた。

やっと俺たちの番が来た


「お二人はパーティ?」


「あぁ」


「冒険者カードを」


俺とハルカは冒険者カードを取り出し、職員へと渡す


「2人ともDランクか。行く先は?機械都市か?」


「あぁ」


「目的は?」


「観光と、武器を購入しようかと思っています!」


「その通りだ」


「なぜ徒歩で来た?」


職員の眼光がキラリと光った気がした。が、俺たちは正直に述べる


「私たちは旅が目的だ。徒歩で景色を堪能しながら、のんびりと歩いていた」


「ふむ。そうか……」


職員は紙にメモを取り、通ってよし、と言われた


「あのぉ、この審査はなんですか?」


「あぁ、あんたらは初めてか?んじゃ、軽く説明しといてやるよ。カルー!」


男が大声で名前を呼ぶと、入り口の脇から休憩中だと思われる男性職員が走ってくる。

目の前の男は、その男に審査を引き継いでもらい、少し早めの休憩をとるようだ


「時間は大丈夫か?」


「あぁ」


「じゃ、ついてきてくれ」


俺たちは職員の男に言われるがまま、その後をついて行く。洞窟の中に入り、少し歩くと、カフェのようなところに通された。男はエールを頼み、ハルカはリンゴジュースを、俺は水だ


「んじゃ、まず、なぜ審査をしているか、だがな」


男は指を一本立て、説明を始める


「この洞窟を抜けるには、馬車で5日かかる。つまり、それだけ長い、ということだ。

例えば審査もせずに人が自由に出入りしてたとしよう。

洞窟のど真ん中で盗賊が道を占拠してたらヤバイだろ?まぁ、そういう悪いことを考えてるやつがいないかどうかの審査だな。身分の確認、それと、この目ではっきりと見分けるんだ。あんた、人を殺したことあるだろう?」


唐突に男が俺へと言葉を投げてきた。

俺はセルシアンを殺していたのだ。


「あぁ、いや、別にあんたが犯罪者だとは思ってねぇ。盗賊か、それかいざこざがあったか、あんたの目から悪意は感じられねぇ。だから通したのさ」


「ふむ。仮に盗賊がいたとしても、モンスターによって殺されるのではないのか?」


「実は、それができないから俺たちがいる。

最初の頃は間引きをしていたらしいんだが、今は聖国のほうに依頼して、魔除けの魔法を洞窟全体にかけてもらってるんだ。それでもはぐれが洞窟内に沸いてることはあるが、倒せないレベルじゃない。それを間引きするのも俺たちの仕事のうちだ」


「ふむ」


「それに、敵はモンスターだけじゃない。人間も魔が差すときがあるからな。気をつけろよ。は〜、人とゆっくりするのは久しぶりだ。他に何か質問はあるか?」


エールを飲み干しながら男はそういった


「そうだな。洞窟のことじゃなくてもいいか?」


「あぁいいぜ?彼女はいるかどうかとかか?残念ながら俺はいるんだ。嬢ちゃん!ごめんな!」


早くも酔いが回っているらしい。顔を赤くしながら、ハルカを見て喋っている


「いや、金の美酒について知っているか?」


「金の美酒?あぁ。ドワーフが知っているという泉だな。話だけは知っているが、詳しい場所は知らないな」


「話、というのは?」


「機械都市の近くの鉱山にあるらしい。だが、泉の場所はいつも変わっていて、見つけるのは容易じゃない。まず、辿り着くまでが鬼門だって話だ」


「強いモンスターがいるのか?」


「あぁ。ランクAのモンスターがゴロゴロしているらしい」


「ふむ」


「しかも、鉱山内では剣と火魔法が使えない。ガスが溜まっていて、火花に引火するかもしれないからだ。空気を入れ替えればなんとかなるかもしんねぇけど、そんな穴開けるわけにはいかねぇしな」


「ふむ。そうか、ありがたい」


「他にはないのか?」


「そう、だな、それならば……」


俺たちはその男から子供の頃に聞いた物語や、出身地の伝説などを話してもらった。

最後の方は彼女の自慢になっていたが、俺はそれを聞き流していた。

途中からハルカが熱心に話を聞き、付き合うコツや、どちらが先に想いを告げたのかという話になっていた。

男がハルカを見た後に俺を見て、「はは〜ん」と言い、ハルカが赤くなっていたが、俺の何がそうされるのかはわからなかった


思った以上に話し込んでしまい、時刻は既に5時だった。夕暮れ時で、洞窟の入り口に戻った時には、空が赤く染まっていた


「んじゃ、俺は夜番だからよ、ちょっと寝てくるわ」


「あぁ」


男を見送り、俺たちは話を進める


「ムルト様、どうしますか?」


「洞窟の中に入ってしまえば、月が見れなくなる。今日の月を目に焼き付けてから中を抜けたい」


「はい!わかりました!」


俺たちは洞窟の横あたりに陣取り、焚き木などを積み重ね、火を起こす。

俺たちの他にも、ちらほらと野営をしている冒険者達がいる。

武器の手入れや、装備の確認を行っている。明日、洞窟内で何が起きてもいいように、だろうか。

洞窟の中は暗いらしく、松明のまとめ売りなどがされていたが、俺たちは魔法が使えるので、必要がない


「できました!一緒に食べましょ!ムルト様!」


料理を手に持って笑顔で近くへ来るが、俺は当然食べない。一緒に食べる。というのは、俺の近くで食べる。ということだ。

俺は何気なくハルカの頭を撫でる


「な、なんですかっ」


「いや、愛い、と思ってな」


「そ、そうなんですか……え、えへへ」


その後、ハルカは幸せそうにパンを頬張った。おかずは猪の肉と野菜スープだが、その食事風景はなんとも幸せそうに見える


「何かついてますか?」


ハルカを眺めていると、そんなことを言われてしまった


「いや、なんでもないぞ」


「そうですかっ」


笑顔で残りの食事を頬張る。


俺たちも装備の確認をしながら、明日から見れなくなってしまう月を目に焼き付けていた


「ムルト様は、なぜそんなに月がお好きなんですか?」


「む?なぜだろうな。気づけば好きになっていたのだ」


「気づけば、ですか?」


「自我を持つ前にも見ていた気がする」


「お好きなんですね」


「好き……というのか、よくわからない」


「うふふ」


今日の月は半月、というものらしい。月は月だと思っていたが、形によってそれぞれ呼び名が違うとハルカが言っていた。

月の満ち欠け、というものがあるらしい。

今の半月は、欠けているらしい。今の姿が徐々に小さくなり、三日月、というものになるらしい。俺の仮面に描かれているのは、その三日月、というものだ


俺は月欠を鞘から引き抜き、月に照らす。

透き通った刀身から、夜空に浮かぶ半月が見える。丸みを帯びた姿は、とても綺麗で愛らしく見える


俺は木を背にして座り、月欠を抱きかかえながら、ハルカの寝息を聞いて月を一晩中見上げた


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