骸骨と黒い男
私は鳥の鳴き声が聞こえて、目を覚ます
心地よい朝日が窓から室内を照らしている。
(ムルト様、またカーテン開けっ放しだ)
私にとってはいつものことだ。
ムルト様と共に月を眺め、一緒に床につくのだけれど、ムルト様は月の光が部屋に入ってくるのが好きらしい。だから寝るときもカーテンは開けっ放しなのだ。
朝の気持ち良い太陽が部屋を照らしてくれ、すぐに起きることができるのだからいいのだけれど
(うふふ。ムルト様、また口が開きっぱなし)
眠っている時のムルト様は、はっきり言ってただの白骨死体だ。いつも青い炎が目に灯っているが、目を閉じるとそれが消える。
光のなくなった目に、空いた顎骨
他の人に見られれば、私が人殺しをして、その死体を愛でていると捉えられてしまうかもしれない。
死体を愛でているのは否定しないけど
(今日もムルト様のために頑張ろう)
街によるたびに、ムルト様が気になりそうな店を選んですすめている。
結局私が楽しんでしまうのだけれど、ムルト様も楽しんでいると嬉しいな
(昨日の浴衣姿似合ってたなぁ……)
1人でそんなことを考えながら、そろそろいい時間かと思い、ムルト様を揺すって起こす
「ムルト様、朝ですよ」
すると、すぐに光の失われた目の中に、力強い青い炎が燃え上がる。目を覚ましたのだ
「あぁ。おはよう。いつもすまないな」
「いえいえ」
ムルト様はなかなか自分では起きれないらしく、いつも私が起こしている。
たまに1人で起きることもあるのだが、そういう時はなぜか夢を見るらしい。
どんな夢を見たかはうまく思い出せないらしい
「朝風呂に入ったら、飯にしよう」
「はい!」
変わらない、変えたい一日が今日も始まる
★
俺たちは冒険者ギルドにいた。
地図を見るのと、次の街で達成するためのクエストを受けにだ
「機械都市に向かうのですか?」
「あぁ」
「それなら、山にある洞窟から行ったほうがいいかもしれませんね」
「知人から山を迂回したほうがいいと言われたのだが」
「それは山を横断するなら、ってことじゃないですか?洞窟のルートは3年ほど前に完成してから、それが主流になりましたね」
「ふむ」
龍神の情報は間違っていないが、古いということだな。
いつもはあの山に引きこもっているし、移動は空を飛んでいる。知らなくても当然だ
「ならば、その道を行くことにしよう」
「道も整備されていますし、警備の冒険者達もいるので安心だと思いますよ」
「あぁ。感謝する」
「クエストはここらへんですかね」
マウンテンウルフ×3の討伐
スケルトンの間引き
ブレードディアの討伐、素材納品
マウンテンウルフは、強さ的にも数的にも十分に達成できそうな依頼だったが、人狼族との関わりがあり、モンスターといえども積極的に狩ろうとは思っていなかった。襲われた場合は別だが。
スケルトンも同じ理由で断った。
あるとすれば、ブレードディアだろうか
角が剣のように鋭いが、しなやかで加工しやすく、その皮は、生存競争や番いの取り合いに負けぬよう、同種のみならず、あらゆる刃物を通しにくいという。
警戒心と逃げ足が早く、中々狩れないモンスターではあるものの、需要は余りある
「これを受けようか」
「かしこまりました。可能であれば複数匹狩ってほしいとのことなので、よろしくお願いします」
「あぁ。わかった」
依頼を受ける時に、EランクからDランクへ上げられた。
どうやら、討伐モンスターのレベルを見て、上げても良いと判断されたのだろう。
Bランクに届きそうなぐらい強いと言われ、早めにランク昇格試験を受けてほしいとも言われた
「試験、受ければいいんじゃないですか?」
「今日この街を発つからな、次の街でもいいだろう」
「それもそうですね。私も一緒にランク昇格試験受けますよ!」
「あぁ。それは頼もしいな」
セルシアンのおかげで金銭面に余裕のある俺たちは、そのまま門から街を出た。
整備された道を進むと、洞窟が見えるらしいのだが、それが中々遠い。
馬車で向かって3日の場所に洞窟があり、さらに洞窟を抜けるのに5日、機械都市まで3日だ。
中々遠い道のりで、機械都市行きの馬車は出ているのだが、俺たちは徒歩で向かうことにした。
レベル上げもしたかったし、何より大勢と寝食をともにすれば、それだけスケルトンであることがバレてしまうかもしれない。
無用なリスクは避けたいところであった
「いい天気ですね」
「あぁ。いい天気だ」
太陽が爛々と輝く中、整備された道の端を歩き、微かに出来ている木陰の下を歩く
「そろそろ休憩しよう」
「はい」
俺は別段疲れることはないのだが、休みたいという欲求があった。
ハルカは俺と違いちゃんと体力があるので、休みは必要不可欠なのだ。3時間ほど歩き、30分は休憩をとるということを、昨日の晩に決めていた。大きな木陰にハルカを座らせ、俺は対面の木に背中を預け、辺りを警戒する
「ムルト様、喉渇いてませんか?」
水筒を俺に渡してくるハルカ
「そうだな。もらおうか」
ハルカは木の杖と水筒を片手に、俺へと水筒を手渡した少しばかり右に傾けられている。俺はそれを確認し、小さく頷く。
ハルカは木の杖を短く持ち、窓の木陰へ戻って立っていた
そして俺は首を右の方向へ傾け、大きな声を出す
「俺たちの後をつけていたのは気づいている!姿を表せ!」
すると、何もなかったはずの場所から、人影が現れる。文字通りの、真っ黒な人の影が、木の影の中から現れた
「……驚くと思ったが、そうでもないのだな」
「ギルドからずっとつけていたことはわかっていた。何の用だ」
ギルドからずっと誰かに見られていた感覚はあった。それは街を抜けた後も続き、ハルカもそれに気づいていた。すぐには攻撃してくることもなく、俺たちは街から十分に離れたところで対峙しようと決めていた
「まずは自己紹介をしよう。ロンドという。冒険者ランクはS2だ」
黒いコートを羽織っているが、それ以外はわからない得体の知れない男
「我が名はムルト、冒険者ランクはDだ」
「そうか。モンスターとしてのランクは、今いくつだ?俺はランクS1、真祖吸血鬼のロンドだ」
「……私はランクB、月の骸のムルトだ」
「とりあえず争う気はない。まずは話をしよう」
俺は武器に手をかけたまま、その言葉を聞いた。ロンドと名乗った男は、特に構えるでもなく、警戒する様子もない
「無言は肯定として捉えて構わないな?セルシアンという男を知っているだろう」
「あぁ」
「その男とは戦ったのか?」
「あぁ」
「お前が生きている。ということは、奴を殺した、ということになるが」
「そうなるな」
その問答をした時、初めてその男の表情が動いた。眼が赤みを帯び、殺気が溢れ出る
「これが最後の質問だ」
ガチャン、と、ロンドは両手の袖から武器のようなものをだす。鎌のようだ
俺とハルカは身構える。いつでも武器を放てるように、鞘から少し刃を出しながら