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憤怒の罪1/3

憤怒の罪、前任者のお話です。

活字ばかりですみません。続きます



追記

総合評価1万超えました。

ありがとぅ……ありがとぅございます……!

1人、森の中を歩く牛面に、筋骨隆々の人の身を持つモンスター。ミノタウロス

手には無骨な斧を持ち、今日も餌を探している


今日も1匹の猪を狩ることができた。

彼は仲間もおらず、産まれたこの森を出ることなく、細々と生きている

天賦の才というのか、彼は産まれながらにして、ミノタウロスの中では希少な、赤い皮膚を持っていた。人間からは畏怖の念を込め、血塗れの暴牛(コープスメイクバイソン)と呼ばれている。

が、当の彼は未だ人を見たことも、襲ったこともない


ミノタウロスにしては少食の彼は、その猪1匹を自分の住処へと持って帰る。

住処と言っても、狭い洞窟の中が彼の住処だ。洞窟の最奥に行っても、入り口から入る光が微かに中を照らしている。

今日は早めの晩飯だった。猪の首を切り、血を飲み、肉を食いちぎり、腹の中へと収める。実に野性味のある食事だが、ミノタウロスにとってはこれが普通の食事だ


狩りも終え、生きるための食事も摂った。

今日の彼のやることはこれで終わりだった。

暇を持て余した彼は、誰に言われるでもなく、ただ鍛錬をこなしていた。産まれた頃から1人の彼は、日々自分を鍛え、生存率を少しでもあげていた。天賦の才を持つ彼は、自然と何をすれば強くなるかを理解していた。それを愚直な一生懸命やってきた成果が今の彼の強さだった。


日課の鍛錬をしていると、奥の茂みから気配がする。彼は鍛錬を中断し、相棒の斧をとり、警戒する

ガサガサと茂みをわけながら出てきたのは、小さな女の子だった。どうやら怪我をしているようだ。転んで擦りむいたのだろう。体の様々なところに擦り傷や、枝で切ったと思われる切り傷が見える。

手には小さな籠を持ち、中にはきのみがたくさん入っていた


彼は初めて見る人間に少し喜んだ。自分と似たような体を持ち、違う顔をしている。

心優しい彼は、その少女を助けてやろうと近づいた。だが、切羽詰まっている彼女は、前も見ずにこちらへ走ってくる。彼のお腹へと突進してしまった


「キャッ!」


高く綺麗な声が彼女の口から漏れる。

彼女は尻餅をついてしまった。恐る恐る顔を上げると、凛々しい顔をしたミノタウロスが一頭、悲鳴をあげるなという方が無理な話である


「キャァァァァア!!!」


足と顔以外しか人間と言える部位はなく、かといってその体も、人間から見れば同じものとは言えぬような筋肉に、しっかりと生えている剛毛。少女は絶望した顔のまま気絶してしまった


「ブモォォ……」


彼は悲しそうな声をあげ、少女を片手で摘まみ上げる。すると、茂みの中から、また客が来たようだ。

灰色の毛に、鋭い牙と、鋭く立っている耳を持つモンスター。シルバーウルフ


どうやら彼女を追いかけていたのは彼らのようだった。獲物をいたぶりながら殺す彼らは、彼女をわざと逃がし、恐怖心を与えながら追い立てていたようだ。


ミノタウロスが手に持っている彼女を見て、3匹シルバーウルフ達は、低いうなり声をあげていた。それは俺たちの獲物だと、そう言っているようだ


「ブルウァァァ……」


ミノタウロスも低い声をあげ言っていた。

これは俺がもう手に入れた。俺の獲物だ。と

そんなことで退くようなシルバーウルフ達ではない。すぐにミノタウロスに飛びかかり、少女のついでにミノタウロスも獲物として狩るつもりのようだ。


ミノタウロスは少女を片手に持ったまま、斧を振り回す。シルバーウルフの動きはしなやかで、いとも簡単にそれを避けていた。が、ただ1匹、ミノタウロスの動きが遅いと思い、深追いをしたシルバーウルフがいた。そのシルバーウルフは、ミノタウロスの斧の背に触れしまい、人が蚊を潰したかのように、頭が粉々に吹き飛んでしまった。


それを見た仲間たちは、一瞬にして固まる。

だが、その一瞬が命取りとなった。


本来のミノタウロスの動くスピードは、筋肉をしっかりと鍛えた衛兵並みのスピードだ。彼らシルバーウルフから見れば、それは遅すぎる。だが、このミノタウロスは違う。天賦の才のみではなく、日々鍛錬を積み、自分の短所を補えるだけのものを手に入れた。


鍛えるだけに留まらず、それを長所として手に入れたのだ。同じミノタウロスとは比べ物にならないパワーと、シルバーウルフをも越えるスピード。そのスピードはパワーと重なり合い、さらなる破壊力を生み出す。


立ち止まったスピードウルフの一体を、渾身の力を込めて叩き潰す。

残った一体は既に逃亡を図ろうとし、背を向け走っていた。

背を向けたのがいけなかった。

ミノタウロスは、その手に持つ斧を力一杯投擲し、逃げているシルバーウルフを真っ二つにした。


殺戮は終わり、シルバーウルフの肉と血を余すことなく食する。

少女は洞窟の脇に寝かせ、回復を待った。

少し時間が過ぎた後、少女は目を覚ます


「キャァァ!」


よく考えると、ミノタウロスは彼女の悲鳴しか聞いていない。キャ以外の言葉を喋れないのかもしれない。自分も大して変わらないのだが。


彼女は自分の体を確認し、辺りを見渡す。

そこには、体の大きな、赤い皮膚を持つミノタウロスが、大きな岩に腰を下ろしていた


「ブモォォ」


挨拶がわりに、鳴く


「ひっ……」


初めて悲鳴以外のものを聞いた。が、それは言葉と言えるのだろうか。初めて人間を見る彼は、その短い言葉が何を意味しているのかわからなかった


「ブモォ」


彼は隣に置いてある斧を拾い、それを遠くへ投げ捨てた。襲うつもりはない。と彼は伝えたかったのだ


「え、えぇと……あ、あなたはだぁれ?」


小さく首を傾げる彼女。言葉はわからないが、仕草は理解できる。何か疑問を持っているということだ


彼は地面に絵を描いた。シルバーウルフのような形をしたモノが3体。それを牛がトントンと叩き、バッテンをする。お世辞にも上手いとは言えない絵だったが、少女は理解できたようだ


彼女はその絵に自分を足し、牛に丸をした


「私を助けてくれたのね!ありがとう!」


彼女はきのみを籠から取り出し、ミノタウロスへと手渡した


「これはお礼よ!ありがとう!」


どうやら礼を言っているらしい。ミノタウロスはそれが理解できた。小さなきのみを受け取り、それを口へと運ぶ。微かな甘みを持つきのみは、優しい味がした。このきのみが実っているところを自分は知っている。明日はこれを取りに行こう


「じゃ、私は村に帰るわね。助けてくれてありがとう!」


彼女はそれだけを言うと、手を振って森の中へ消えていった。その行動を、ミノタウロスは理解した。住処に帰ったのだろう。と

だが、脆弱な人間のことだ、また危険があるだろう。彼は投げ捨てた斧を拾い、彼女の後を追う。


しばらく彼女を追っていると、驚いたように彼女が振り向いた


「来ちゃダメよ!きっとみんなが驚いちゃう!」


自然と表情を見て、理解はしていた。

彼女は自分を心配しているのだと、だが彼は強い。心配してもらうのは嬉しいが、彼女の身の安全を優先したかった。

彼は森の中に天敵と呼べるモンスターは存在していなかった。自分のそばにいるのが、一番安全だと彼は思っているのだ


彼は少女をつまみ上げ、自分の肩に乗せ、前進する。


「村まで連れていってくれるの?」


「ブモォォ」


日が既に沈み始めていた。夜の森は危険だ。素早いモンスターが、闇夜に紛れながら獲物を狩る。少女など一瞬にして奴らの餌になってしまう。


少女が指差す通りに森を歩くと、木でできた柵が見える。ここが少女の暮らす村らしい。

ミノタウロスはそれを確認し、優しく少女を地面へと下ろし、しゃがんだ。

大人に見られると厄介だということを、本能で察したのだ。ミノタウロスは村を指差し、少女に帰るよう指示を出す


「ここまで本当にありがとう!心優しいモンスターさん!」


ミノタウロスは鳴きもせず頷いた。

少女は村の門の前で振り向き一度手を振り、村の中へと入っていく。それを見届けたミノタウロスは踵を返し、自分の住む洞窟へと帰っていった。

次の日、今日食べたきのみを取りに行くことを考えながら





ミノタウロスはきのみをとっていた。

雑食の彼は、肉でもきのみでも、食べられればなんでもいいのだが、やはり量が必要だ。

今日は熊を一頭狩り、食後の楽しみとしてきのみを取りに来ていた。


昨日もらったきのみを摘み、口へ運ぶ。

昨日のような味はしなかった。

少女が持っていたきのみが特別美味しかったのかもしれない。

きのみを何個か食べたが、どれも美味しいとは言えなかった。

疑問を抱きながらきのみを採集していると、昨日であった少女が、森の奥から顔を出した


「キャァ!!って、昨日のお牛さん?」


少女は悲鳴を一瞬あげたが、すぐに声を潜めた。


「ブモォォ」


彼は短く挨拶をした


「あなたもこのきのみが好きなのね!私も大好きなの!」


彼女は笑顔できのみを採っていた。

彼は食べても美味しくないきのみを一応たくさん採っていた。彼女はこのきのみが好きらしいと思い、手に持っているきのみを差し出す


「くれるの?ありがとう!」


彼女はミノタウロスからきのみを受け取り、それを小さな籠の中へ入れる。

彼女は籠の中からきのみを取り出し、彼に渡した


「はい!どーぞ!」


美味しくないきのみだが、差し出されたのだ。彼はそれを口へと運ぶ。

すると、昨日と同じような味がした。とても美味しい。先ほどまでのきのみなど、泥に等しいような、そんな味がする。

近くに落ちているきのみを拾い、食べる。これも美味しかった


「あら、お牛さんもこのきのみが大好きなのね!もらったきのみ、返すわ」


少女はそう言って、彼の大きな手のひらに、もらったきのみを全部出したが、彼はそれを半分籠に戻した。半分こにしたのだ。

その後は、きのみを一緒に拾いながら、彼女の他愛もない話を聞く彼だったが、何を言っているか、何1つわかっていなかった。わかるのは表情のみで、ずっと笑顔で話している。今日も村へと送り届け、お別れをする。門を潜る時の彼女は、どこか寂しそうだった。


彼も洞窟へと戻り、今晩の食事を摂る。

帰りに狩った鹿だ。その鹿を食した後、彼女とともに拾ったきのみをつまみ、それを頬張る。


そのきのみは、味がしなかった


七つの大罪全部の前任者の話書きたいなって思ってます

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