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骸骨と目無


「じゃあ私たちはお風呂に行ってくるわね」


「あぁ」


「留守番は任せたわよ」


「あぁ」


「…じゃ、行ってくるわ」


ハルカとレヴィが部屋から出て行く

俺は一人、部屋で荷物番として残っていた。

頭をよぎるのは昼間の少女のことだ

モンスターであることが気づかれた。

別にあの少女が何をするということもないのだが、なぜか自分がモンスターだということを再認識し、意気消沈をしていた

賑わう街の中に、人の真似事をした化け物が一体、考えれば考えるほど、何をしたいかわからなくなってしまう


(俺は…何を目指しているのだろうな)


宿の窓から月の登っていない空を見上げ、一人浸る。買った本を開き、俺は静かに一人の時間を噛み締めた





「ふむ、もうこんな時間か」


窓の外には、すでに夕焼けが見え始めていた

思いの外、フォルの大冒険は読み応えがあった。美しい場所の絵のようなものが描かれ、そこに行くためのヒントのようなものが散りばめられており、それを読み解こうとするのもそうだが、ただただ話が面白かったからだ。

沼に住む大蛇を、フォルや周りの人物が手助けや機転を利かせて倒したり、ドラゴンに襲われた時には、フォルが一番大切にしていた綺麗な石ころを渡し、和解をしたりなど、ボリュームのある内容だったのだ


気づけば長い時間が経っており、そろそろレヴィたちの湯浴みも終わった頃だろうか。

俺は荷物を軽く整え、部屋に鍵をし浴場へと向かう


「あ、ムルト様ー!」


ハルカがこちらに向かって手を振っていた。

風呂から上がったばかりなのだろうか、髪が微かに濡れ、肌もピンク色に染まっている


「悪い、待たせたか?」


「いえ!今上がったところですよ!」


俺は空を見上げあたりを見渡す


「何が上がったのだ?」


「違いますよ!お風呂から出ることを、あがるって言うんです!」


「ん?なぜ?」


「ん?なんででしょう?」


ハルカは腕を組み、頭の上にハテナマークを出しながらくねくねした


「あとはカロンを待つだけね」


「あぁ。そうだな」


「ちゃんとつけてきたんでしょうね」


「あぁ。初めてだからな。練習もしなければならない」


「そう。わかってるのならいいのだけど」


「あぁ。大丈夫だ」


レヴィが俺にそう確認をし、軽い雑談をしていると、向こうからカロンが姿を現した。

昼のような作業服のようなものではなく、質素だがちゃんとした服を着ている。風呂にでも入ったのか、綺麗になっている


「いやぁ〜すんません!お待たせしてしまいましたかい?」


「大丈夫だ。そこまで待っていない」


「ムルト様、こういう時は、今来たところ。って言うんですよ」


「ふむ。今来たところだ」


「ははは。旦那、もう遅いですよ」


「ぬ?そうか、悪いな」


「いえいえ。それでは早速行きましょうか。ついて来てください」


俺達はカロンに案内され、海の近くへと向かって行く。カロンに案内された店は、一階で魚や肉、漬け物などを売っており、二階の部分では食事処として開いている場所だった


「さぁ!ここがあっしのオススメのお店でさぁ。個室を予約しておいたので任せてください」


「あぁ。頼んだ」


カロンは意気揚々と階段を上がり、店に入ると、店員と一言二言交わし、店の奥へと入って行く。廊下を進んで曲がると、靴を脱ぐ場所があり、各々そこで靴を脱いだ。俺は足袋の下にさらに靴下を履いているので、足袋を脱いだところでまだバレない


そこをあがると、畳、というものが敷き詰められた部屋で、座布団というものが4つ置かれていた。部屋の中は広く、部屋の真ん中に横長のテーブルが置かれ、そこには皿と食器が並べられている。

入って正面の壁は窓になっているのか、厚手のカーテンがかかっている


「さぁ、見てください。これがあっしのオススメの一つです」


カロンはそう言って、そのカーテンをあける。そこには、夕焼けが、今、まさに海の中に沈み込もうとしている瞬間だった。

青く、広い海を、夕焼けが一人で真っ赤に染め上げ、なんとも言えない絶景を作り出していた


「ほぉ…美しい」


「ムルトの旦那はこういうのが好きだって聞いたんで!この光景だけじゃなく、料理も絶品なんで楽しんでください!勝手ながらコース料理を頼んでいるので、すぐに運び込まれてくると思いやすよ」


俺たちはカロンに促され、座布団に着く。俺の横にカロン、前には女性陣二人だ。

カロンやレヴィ達と絶景の話を少しすると、閉まっていたスライド式の扉から、店員が料理を持って入ってくる


「シザーロブスターの酒蒸し、ビッグタイの塩釜焼きになります」


店員がそういい、一人一人の目の前に料理をを並べていく


「シザーロブスターは本当に美味しいんですよ!さぁ、どうぞ召し上がってくだされ!」


俺はフォークを使いロブスターの身を殻から取り外す。そのさい、ロブスターの身がぷるぷるっと跳ね、旨味と思われるものが飛んだ


俺はそれを小さく切り分け、口の中へ運びこむと…


(うむ…わからない…)


「身は締まってて噛み応えがあるのに、その実ぷりぷりっとしていておいひー!酒蒸しの苦味がロブスター本来の甘味を引き出しててすごくマッチしてるー!」


「おぉ!ハルカちゃん、わかりますねぇー!酒蒸しは本当に美味さが際立ってていいんですよねー!ムルトの旦那はどうですか?」


「あ、あぁ。身がぷりぷりしていて、酒蒸しの苦味がロブスターの甘味を見事に引き出していてすごく相性がいい」


「ムルト、ハルカと言ってること一緒」


レヴィが黙々と食事をとりながらジトーっとした目で俺を見る


(やってしまった)


とりあえず、その後も次々と料理が運び込まれてくる


マグロと鮭、と言われる魚の刺身、これはロブスターやタイと違い、特に味付けもしないで、素材そのままの味らしい。舌触りがよく、簡単に歯で噛みきれ、食べやすく、身に乗った油がほどよく美味い


鮭の身を使ったサラダ。オイルという体にもいいものが使われ、一緒になっている。野菜のシャキシャキ感と鮭のしっとり感、そしてオイルの香りも相まってとても美味い


さらに、その鮭の卵を米と海苔、というもので作ったもの、ハルカ曰く、軍艦巻き、というらしい。醤油がないのが悔やまれる。と言っていた。宝石のように光る卵は美しかった。当然、美味い


ちなみに、ここまでの味の感想は全てハルカだ。レヴィは黙々と食べていたが、度々表情を綻ばせていた。大変気に入ってくれたようだ


「これでコース料理は全てとなりやす!」


「ふむ。大変美味で素晴らしかった。私たち全員からの感謝を。支払いは私がしておこう。いくらだった?」


「いやぁ〜それには及びませんよ!支払いはもうとっくに済ませやした!」


「なにっ?!この食事は私達がカロンにお礼をと…」


「いやぁ。あっしが旦那達のことを気に入っちまいましてね!ここはかっこつけさせてくださいよ」


「ぐ…だが…」


「いいんですって!気にしないでくださいよ!あっしと旦那の仲です!」


「ぐぬぅ…時にカロン、お前はヤマト行きの船には乗るのか?」


「はい!次の便には乗組員として同乗しやすよ!」


「ふむ。そうか。それでは、何かしてほしいことを一つ考えてくれ。船の掃除でも、仕事の手伝いでも、なんでもやろう」


「いやぁ、お客様にそんなことさせられやせんよ〜」


「いや、お礼がしたいんだ。なんでも言ってくれ」


「ん〜考えておきやす」


「頼んだ」


俺たちはとても有意義な時間を過ごし、カロンは俺たちを宿まで送ってくれることになった。宿に向かって歩いていると、聞き覚えのある歌声が聞こえてくる


「…これは…」


「?この歌でやんすか?この歌声は、【無目有耳】やんすかね?」


「なんだそれは」


「目が見えない代わりに、耳がものすごくいいんでやんすよ。心臓の音だけで男か女、足音で何人でどんな体型、性別がどうの、とか当てちまうんです」


「有名なのか?」


「いやぁ。ただの物乞いですぜ。歌が上手いです」


俺は昼間の少女を思い出す。目が無く、耳がよかった、青髪の少女を


「ちょっと聞いていきやすか!」


「いいですね。とても良い歌声ですし」


「別に良いわよ。ムルトも行くでしょ?」


「ん?あ、あぁ」


歌声のする方へみんなで歩いていく。

場所を移してはいるが、下にひいた藁に、缶のようなものを置いている。そして目のところには、昼に巻いてあげた青色のスカーフだ


「やぁ目無しちゃん」


カロンが意気揚々と声をかける


「よくいらしてくだいました。お客様」


鈴の音のような声が心地よく耳に届く。

カロンは唇に指を当て、静かにするようにと合図をする


「目無しちゃん、いつもの客当てやってくれよ」


「うふふ。いいですよ。そうですねぇ…」


その少女は腕を組み、考えるように首を傾ける


「目無しちゃんは今、耳で心臓の音や息遣いを聞いて、性別や人数を当てるんですぜ。あっしが見た中では外したことはありやせん」


カロンが囁くように俺たちに語りかける。この囁きも聞こえているのだろうが、カロンはすでに話しかけているので関係ないのであろう


「そうですねぇ…お客様を合わせて、女性二人に、男性一人。どうです?あってますか?」


カロンは目を見開き俺たちを見てくる


「ひゃ〜目無しちゃんが外したの、初めて見ましたよ」


「えっ!本当ですか!そんな。ははは。私もまだまだですね」


「あっしが男性の一人だとしたら、気づかれなかったのはムルトの旦那ですね」


「あら、ムルト様、申し訳ありませんでした」


その少女は見えていないのだろうが、頭を下げてくる

俺は少し考え、口を開いた


「…気にするな」


「…その声は…昼間の、スカーフの人?」


「あぁ…」

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