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骸骨は胸踊る


「さぁ、話がしたい。席へ座りなさい」


「はい…」


少女の眼に少しばかり光が戻ったようだった。奴隷として共にいるとしても、俺は奴隷として彼女を扱うことはない。命は等しく、また、行動も自由なのだ。

俺は彼女が席につくのを見守り、席につくと水を勧めたが、水には手をつけなかった


「ふむ。とりあえず、いつまでもお前、というのも悪い。名前を聞かせてはくれないか?」


「奴隷の名前は、ご主人様がつけるものです」


きっぱりとした顔でそう言われた。奴隷の扱いについては知識程度しかないので、どう接していいかもわからない。だが、主人だから上とか奴隷だから下ではなく、俺は対等に話をしたい


「俺が名前をつける。ということでいいのか?名は大切な人につけてもらったものや、この人につけてほしい。というものがあるのではないか?」


「ですが、ご主人様が奴隷の名前をつけるのは普通のことですので…」


「俺とお前に上も下もない。大切な名はないのか?どうしてもと言うなら私がつけるが」


「…ハルカ」


少女は少し寂しそうな、思い出すようにその名前を口にした。


「ハルカ…ハルカか。良い名だ。改めて私の名はムルトと言う。気軽にムルト、と呼んでくれ」


「そんなことはできません。ご主人様はご主人様ですから」


「ふむ…そう呼ばれるのはむず痒い…と、料理がきたな」


シンが料理を一つ運んでくる。それを手でハルカの元へ置くように指示し、ハルカの目の前にその料理は置かれた。お粥と暖かいスープ。サラダと少しの肉が盛られた、素朴なものだ


「さぁ、食べるといい。お腹が減っているとは思うが、あまり刺激的ではないものを注文したぞ」


「え…」


ハルカは困惑して料理と俺を見る。体は微かにだが震えている。悲しみの目だ


「これを…私が?」


「あぁ。私は見ての通り骨だからな。食事は不要なのだ。魔族は違うのだろう?食べるといい」


「食べても…いいのですか?」


「あぁ。もちろんだ。ハルカのために作ってもらったのだから」


俺は厨房からチラリと顔を出す女将に親指をグッと立てる。それを見たシンが変な顔をしていたが、悪意の感じるような顔ではなかった。からかっているような…


「さぁ、どうした。是非食べてくれ。私とハルカの出会いの記念だ」


ハルカは体をさらに大きく揺らし、目からは涙が溜まっていた。


「ど、どうしたっ?!」


俺は思わず席から立ち上がり心配してしまう。傷がまだ治っていないのだろうか…とても辛そうだ


「傷が痛むか?」


「い、いいえ…で、でも。私…産まれてこんなに優しくされたこと…なくてっ…」


「泣いては飯が不味くなってしまうだろう?飯というのは笑いながら食べるものだろう?」


「私…私…」


俺はどうすれば良いかわからずその場で立ち尽くしてしまう


(ど、どうすれはいいのだ…)


女将へ助けを求めようとするが、女将はすでに厨房へ戻っていた。配膳しているシンをチラリと見ると、笑いを我慢していた


(ど、どうすれば…)


それからハルカは10分ほど泣いた後、静かに飯を食べ、深々と俺に頭を下げお礼を言った





「落ち着いたか?」


「はい。ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「いや。いいんだ。それと、その敬語もやめよう」


「ですがご主人、」


「ご主人様もやめてくれ。すまない」


食事を終え部屋に戻り、俺は椅子に、ハルカにはベッドの上に座るよう促したが、そのまま地べたへ座ってしまった


「そ、それでは…ムルト…様と」


「ふむ…仕方がない。それでいいだろう」


「も、申し訳ありません。ムルト様」


「あぁ。大丈夫だ。とりあえず、ベッドにでも座ってくれ」


「それは出来ません!ここには私とムルト様以外居られないのですから、私は奴隷としてムルト様と同じ高さに腰を下ろすことはありません!」


普通、人がいないところでは自由にするんじゃないか?とも思ったが、これが普通なのだろうか…奴隷事情については全くわからない…


「ハルカがそれでいいなら…よし。それでは改めて話を始めよう」


「はい。」


ハルカは短く返事をし、俺へ向き直る。

食事を終え、部屋に戻るころには既に日が沈み始めていた。ハルカの服や小物でも買おうと思ったのだが、外にいるときに月が出始めては、ゆったりとそれを見ることが叶わぬと思い、今日はとりあえずゆっくりと互いの話をしようと思った


「それでは、聞きたいことがあるのだが…転生者、という称号はなんだ?鑑定眼を持っているなら自分のステータスも見れるだろう?」


それでは俺が転生者、という言葉を出したとき、ハルカの体が大きく跳ね上がった。明らかに動揺している。ちなみにハルカのステータスだが


名前:ハルカ

種族:魔人族(奴隷)


レベル:1/100

HP360/360

MP600/600


固有スキル

鑑定眼

氷獄の姫(アイス・プリンセス)

魔力操作

アイテムボックス



スキル

経験値UPLv10

火魔法Lv1

光魔法Lv1

氷雪魔法Lv1

闇魔法Lv1


称号

転生者、転生神の加護、忌子


おかしなものが多すぎる。レベル1にしてはMPが高いし、魔法も4属性、経験値UPというスキルも初めて見る


「そ、それは…その…」


暗い顔をしている。そして困っている。別に転生者が何だろうが気にはしないが、ここまで動揺されると逆に不安だ


「なんだ、言えないのか?」


「ち、違います!!」


突然大きな声をあげる。我ながらびっくりしてしまった。だが、ハルカの顔はすごく悲しそうで、今にも捨てられるのではないか、という顔だ


「別に転生者というのが何だろうが気にしない。話せるか?」


「は、はい…」


ハルカは小さな声で話し始めた。

転生者、というのは、この世界ではない別世界で死んだ者が、特殊な技能を持ってこちらへその記憶を引き継いで新たな生命として産み落とされるらしい。今の勇者は転生ではなく、転移、というもので、別世界から生きたまま特殊な技能を持ちこちらへ召喚されるらしい。氷獄の姫というのがハルカの技能なのだろう

経験値UPというのも勇者や自分、異世界から来た者が持つ者だという。


「ほう。別の世界から…それはとても面白い話だな」


「信じてくれるのですか?」


「あぁ。当然だ。その別世界にはどんなものがあるのだ?」


ハルカが話してくれる話はとても面白かった。ハルカがいた世界には、空を飛ぶ鉄の塊や、そこら中に鉄で出来た塔が立っているのだという。

外国、と呼ばれる場所では、オーロラという、色々な色が美しい波のようなものが浮かび上がったり、一面が塩でできた湖があり、空が全て湖に反射する場所などもあるという

ハルカが住んでいた場所では、年中山のてっぺんに雪が積もっており、下は緑、上は白という山があったそう。それが周りの湖に映り込み、それを逆さ富士と呼んでいたらしい


(俺が前に見た月は逆さ月、ということか…)


自分の世界の話をする時のハルカはとても良い顔をしていた。会って1日目だが、これほどの笑顔を見せる少女が、過酷なこの世界へ来てしまったのはなぜなのか…

ハルカという名も、その世界の母がつけてくれたものだとか。


「ほぉ…なんとも美しいのだろうな…見て見たいものだ」


「天の川でしたらこの世界でも見れると思います」


「天の川というのは?」


「日本では7月に見れたのですが、こちらもそろそろ7月に入ると思うので、もしかしたら見れます。」


「是非見て見たいな。お、ハルカ、月が見えるぞ」


気づけば既に月が高々も空に浮かび上がっていた。2時ごろだろうか


「そういえば、私と違いハルカは睡眠を必要とするのであったな。寝るといい」


「はい。ありがとうございます。それでは」


ハルカはそう言うと、地べたへ横になる


「ベッドを使っていいぞ」


「いえ、ムルト様がお使いになるのですから、私はここで」


「いや、私はベッドを使わない。というか睡眠をとらない。是非ベッドで寝てくれ」


「いえ、私は」


また、押し問答になったが、俺が頼みこむと、ハルカは渋々、といった様子でベッドへ潜っていった。

疲れていたのだろう。ハルカが横になるとすぐに寝息が聞こえてきた

とても安らかな、幸せそうな顔だった


(これだけで…戦った価値があったというものだ…)


俺は優しく俺を見つめる月を見上げ、心の中で小さく感謝をする


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