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骸骨は堪能される

「ムルトさん…本当に申し訳ありません…」


ビットが丁寧に腰を曲げ俺に頭を下げる


「は、ははは、別に気にしていない。楽にしてくれ」


今俺は村の中央にて椅子を用意してもらってそこに鎮座している。そして俺の目の前には村人、この集落に住む全ての人狼族が列を成している


「それでは、次の方は前へ進んでください」


列を整理し、着々と人々を前へ前へと進ませるニーナ。前へ進んだ人物は俺の前へ来て膝をおり、両手を前へ掲げる。


「ムルト様、よろしくお願いします。」


「あ、あぁ。」


俺は自分の肋骨を取り目の前の人物へ手渡す。手渡された人は嬉々としてそれをしゃぶったり頬ずりをしたりと、多種多様だ。


そう。今俺の目の前には、俺の骨をしゃぶりたいという、人狼族、いや、村の人々が長蛇の列を作っていた


(なぜこんなことに…)


それを説明するには、少し時間を遡ることになる…





「父さん!私が一番にムルトのことを好きにする権利があると思うんだけど?!」


「確かにムルトさんと最初に会ったのはお前だ。だが、ここへ迎え入れ、宴の準備も迅速に行うことができたのは誰のおかげかな?」


「だったら俺だって!」


「兄はもうムルトの骨しゃぶったでしょ!もう兄は終わりよ!」


「そ、そんなぁ!そ、そうだ!ムルトさんに金を渡せば別にしゃぶってもいいだろ?!」


「そんな賄賂のようなこと、失礼であろう!」


井戸に向かいながらそんな会話をするビット達、その会話を聞きつけ集まってくる村人


「金を払えばムルトさんの骨を好きにしていいのか!」


「私もムルト様の骨は一度しゃぶってみたかったのぉ〜!」


「ムルトさんの骨…あれは極上…いや、天にも登れるような輝きを放っていた!」


「かたさ、しなやかさ、そして何より美しさ…ムルト殿の骨は本当に素晴らしい」


あれよ、あれよと話が進み、ビット達3人だけではなく、村人全てがムルトの骨を自由にしたいという話で持ちきりだった。

頼めばしゃぶらせてもらえるだの、物々交換すればいいだの、金を払えばいいだの、話があっちこっち


ビット達が家に戻る頃には、行列がすでにできていた


「ムルトさん、その…お話が…」


ムルトもその長蛇の列に驚きつつ、ビットにことの結末を教えられた。

ムルトはこの村に世話になったからと、喧嘩したり奪いあったりせず、みな平和に並ぶなら無償で良い、と答え、すぐに列整理を開始して、順調に順番を回せ、冒頭のようになった。





「ありがとうございました!ムルトさん!」


「あぁ。喜んでもらえて何よりだ」


今の俺には肋骨が1本もない。左右合わせて20本、全てを切り離し、一列に一本を手渡している。

俺の骨を堪能した人は次の整理係になり、骨をどんどんと丁寧に手渡していく。

その数20列


(家事や狩りなどしなくて良いのだろうか…)


そんなことを心配しつつ、昼休憩は各々が取りつつ、朝から晩まで、この行列は続いた。


陽が傾き、あたりが夕陽に染まってきた頃に、ビットが大きな声で


「もうすぐ陽が沈む!各々家事や狩りなど、空いた時間でしたかもしれないが、ムルト様はずっとここに残り、丁寧に対応してくれ、快く骨を貸し出してくれた。自分の時間を割いてまで我らに尽くしてくれたのだ!

頃合いも良き頃かと思う。誠に勝手だと思うが、これにて【骨、堪能会】を終了したいと思う!」


(変な名前がついていたようだが、別に皆が楽しんでいるのならそれで良いのだろう…)


ビットが声をかけると、骨はすぐに俺の元に集まり、肋骨を戻していく。急な終了にも、誰1人文句を言う者はいなかった。


「それでは最後に!この会を快く承諾してくれたムルト様より終了のお言葉をもらいたいと思う!ムルトさん、よろしくお願いします。」


ビットが皆にそう説明し、俺に小声で頼んできた。皆の視線が俺に集まり、なんとも言えぬ恥ずかしい気持ちになったが、静かに立ち上がり人々を見渡して言葉を紡いだ


「あー、この度は、私の骨の堪能会に参加してもらい、誠に感謝する。私はこの人狼族に感謝をしています。そして、その皆様が私の骨で楽しんでくれている。そんな姿も見れて、私も大変満足しています。本日はこのような催し事に参加してくれ、重ねて、お礼を申し上げる」


溢れんばかりの拍手がそこら中から沸き起こり、自然と表情が緩んでしまう。

その後はビット達の指示で少しずつ解散していった。皆その場解散ではなく、列の先頭から少しずつ解散していく。大人数での解散で混乱や事故を招かぬように、というものだろう。見事に統率が取れ、譲り合いができている。


「ムルトさん、お疲れでしょう。先に家で休んでてください。」


「あぁ。感謝する」


特に疲労は感じていないのだが、ビットは俺のために頑張ってくれている。

恐らく俺がこの場にいつまでもいれば皆名残惜しく、解散しないものがいるかもしれないからだという。


(皆統率のとれた動きで解散していて、そんなことはないと思っているのだが)


とりあえず俺はそのままビット宅へ戻り、今でゆっくりさせてもらっていた。





数時間後、ビット達3人が小袋を二つ持って今に帰ってきた


「いやぁ。ムルトさん、皆、ムルトさんには感謝しております。とりあえず今は私が代表してムルトさんに感謝を伝えさせていただきます。本当に、ありがとうございました」


「いやいや、皆が喜んでくれているのなら、私もとても嬉しい」


「そう仰っていただけ、我ら一同、感無量でございます。して、こちら」


ビットが小袋を俺の前に出し説明をする


「ムルト様は無償、と言っておりましたが、今回の堪能会で頂いたお金です。銀貨23枚と金貨31枚です」


「なにっ、私は無償と言ったから、その金は持ち主に返してやってはくれないか?」


「いえいえ、そういうわけにはいかないのです。このお金はですね、村のみんなが、自分から渡したい。と言ってきたのですよ。その圧に私たちも負け、いや、私たちも何かお礼をしたいと思っていたので。お布施のような形で値段を指定せずに集めさせていただきました。無償でも可能と言いましたが、払わなかった人はいませんでした。皆快くお金を払ってくれました」


「む、そうなのか、それならば嫌とは言えない…か?」


「はい。ムルトさんはレヴィアへ行かれるのですよね?」


「あぁ。そのつもりだ」


「それでしたらお金は必要でしょう。あって困ることはありませんからね。ということで、是非お受け取りください」


ビットが小袋を俺の前に出し、頭を下げてくる。本当にここは良いところだと、改めて思った


(これが、嬉しい誤算、というものか…)


「ふむ、有り難く頂戴する。この恩は一生忘れない」


「私たちも一生忘れませんよ。」


「ところで、ムルトはいつレヴィアに行くの?」


「考えてはいなかったが、早ければ早いほど、か?」


「そうですか、でしたら明日、レヴィアからの仕入れの商人がこちらへ来るので、その帰りの馬車に乗せてもらったらどうでしょう?」


「明日か、急だな」


「善は急げといいますからね」


「ふむ。この村のこと絶対に忘れない。さっそく明日、この村を発つことにしよう」


「名残惜しいですが、それがムルトさんのためですからね。見送りますよ」


この村へいたのはたったの2日だけだったが、とても濃かった。優しく、雄々しく、それでいて繊細、また一つ、美しい物を知れた。

次へ向かう場所は魔都レヴィア

一体どんなものが見れるのだろうか

その晩、ビットと最後の月見酒をしながら夜は更けていく




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