骸骨と人狼
(この目は…歓喜の目っ!)
「骨だー!」
例えるならば、目がハートになっている。というものだろか、若い人狼族が俺の腕に飛びかかりガジガジとしている
「コラ!客人に失礼ではないか!」
俺を取り囲む人狼族の1人がそう言っているが、その者の目も、今俺の腕をペロペロしている者と同じ目をしていた。すぐに飛びかからないだけ理性があるほうだ
「ちょっとちょっと!兄も父様も気が早いです!私が一番最初に見つけたんですから!私が一番じゃないんですか!?」
「ニーナ、そうは言ってもな、まずは客人との会話が先だろう。ジット!離れなさい!」
理性のある人狼族がそう言うと、俺の腕にしがみついてた、ジットと呼ばれた男が悲しそうに離れていく
「まずは客人よ、せがれの無礼を謝罪する。そしてこのような大勢で来てしまったことも、ただ、敵対する意思を持っていないことだけは理解してくれ、して、娘のニーナから聞いたが、言葉を話せるとか」
「あぁ。言葉を話せる。種族はスケルトン。
先ほどの謝罪だが、攻撃する意図がなければ別に構わない」
「ふむ、感謝する。こんなところで立ち話もなんだ、我が集落へ案内しよう」
「いいのか?俺はモンスターだが」
「構わんよ。わしらも人狼族と言ってな、亜人ではあるが、獣人族と違ってモンスター寄りなんだ」
★
その後俺はすぐに集落へと案内された。
集落に向かう道すがら、常に人狼族は俺の腕や腹、足などの骨に夢中になっていた。
グルル、とよだれのようなものを出しながら見られるのは、それはそれで変な気持ちにはなったが、その都度父様と呼ばれた人狼が注意し、移動してる間、骨を食むことはされなかった
「さぁ、狭いところですがどうぞ」
通されたのは大広間のような場所、座布団のようなものを勧められ、俺はその上に座った
「まずは初めまして、私はこの集落の族長をやっております、ビットと言います。横のは息子のジット、その隣は娘のニーナです」
ジットとニーナはビットの前だからか、綺麗にお辞儀をしてくる
「私の名前はムルトという。旅をしているスケルトンだ。よろしく頼む」
「よろしくお願いします。ムルトさん。して、娘から聞きましたが、何かお話しがあるとか?」
「大して大事というわけではないのだが、道を、聞きたくてな…」
川に沿って海を目指したものの、今はなぜか離れて集落に来てしまっている。こんな寄り道も悪くはない
「道ですか。ここいら変でいいますと、魔都レヴィアへ?」
「レヴィア…とは?」
「魔王リラーナが統治している魔族の国ですよ」
俺は気づかないうちに魔族領へ足を踏み入れていたようだ
「そうなのか」
「ムルトさんはポップしたモンスターですか?それとも産まれてきた…?」
「ここから遠く離れたダンジョンでポップした」
「そうですか、なら魔王のことは知りませんよね。勇者のことは?」
「話では聞いたことがある。見目麗しいと」
「私も見たことがないので、見目麗しいかはわかりませんが、魔族の敵、人間の救世主と言われている存在です」
「魔族と人間は争っているのか?」
「いえ、互いに不可侵ということになっていますが、人間側の聖国は人間至上主義でしてね。魔族やモンスター、エルフをも根絶やしにしているそうですよ」
「ふむ。それではそちらへ向かうのはやめたほうが良いだろうな」
「旅をしているんでしたね。それで今はレヴィアに向かっていると」
「本当は川沿いに海へと向かっていたのだが…その魔都というのは気になる。そちらへ向かいたいと思う。」
「そうですか。ここからレヴィアへは走って3日。普通に歩いたら5日と言ったところでしょうかね…」
「ふむ。私はアンデッドだから睡眠などはとらなくてもいいんだ。今からでも向かおうと思う。情報、感謝する。」
「もうすぐ日が落ちしまうので一泊…いや、しばらく滞在してはいかがですか?」
「それは悪い、あくまでも部外者、ましてやスケルトンだ。すぐに発とうと思う。」
「いえいえ!スケルトン!素晴らしいじゃありませんか!」
「そうだぜ!スケルトン!最高だ!」
「スケルトン!骨!好き!」
ビット、ジット、ニーナが身を乗り出して激しく言い始める。その目はさっき見たハート、先ほどかっこよく止めていたビットも今では飛びつかんと言わんばかりにこちらを凝視する。見ているのは腕だ
「その…こんなことを言うのもお恥ずかしいのですが、我ら人狼は骨に目がなく…ムルトさんのその強靭で美しい骨に…我らの一族は…その…なんといいますか…」
「飛びかかりたい?」
「お恥ずかしい…」
俺のことを食おうとしているわけではないし、道も教えてくれた。恩には報いるべきだろう
「道を教えてくれたお礼に、しばらくこの集落へ滞在しようと思う…が、他の方々は大丈夫か?」
「それにつきましては嫌という人狼はいますまい。安心してください」
「ありがとうございます」
その後、集落の皆を集めた前で自己紹介をさせられ、無事、人狼族の集落の皆に歓迎をしてもらえた。
(みんな俺を見る目が…おかしい)
みんな例を漏らさずハートの目をしている。中には舌を垂らしてはぁはぁ言っているものもいる。嫌ではないのだが、こちらが恥ずかしい気持ちになってしまう
そしてビットは先ほどもう遅いと言っていたが、日はまだまだ落ちる様子がないようだ。
(ふふふ、退屈は、しなそうだな…)
友好的な人狼族、初めての魔族、久しぶりの良い出会いを、大切にしようと、人狼族の笑顔を見て思った
(ニーナ…みんなの前で腕をかじるのはやめてくれ)