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骸骨等と変人等2

お待たせしております


(攻撃が何も通らないな……)


ムルトは、憤怒と怠惰を同時に発動させ、攻撃と防御を上げている。紫色に変わったムルトの身体を見て、リクはまたしても歓喜の表情を浮かべるが、身体は歪にも巨大化している。

人のものとは思えない巨大な腕と身体と脚。リクの頭だけが、そのままの大きさですっぽりと首回りにハマっている。


「ねぇ!他にはどんなことができるの!?」


「くっ!」


振り上げられる右腕を避け、薙ぎ払われた左腕を跳ぶ。余裕でリクの攻撃を避け続けるムルトだが、それもそのはず。リクは本気を出していない。ムルトの持つチート能力を見たいがために、適度に攻撃を仕掛けているだけなのだ。


「ふっ!」


ムルトは諦めずに攻撃を仕掛けるが、今のところ何一つ効いていない。


「もしかしてもう終わり?もったいぶってたら、すぐに殺しちゃうよ?」


リクの背中から、新たな腕が4本生えてくる。


「ほ~らほら!」


新たに生えた6本の腕で、さらに猛攻されるが、それでもムルトにはまだ余裕がある。


(いや、持たされていると言うべきか)


ムルトも他のモンスター、冒険者と比べても相当な実力を持っている。こんなに手加減されなくとも、攻撃をいなすことも、避けることも容易だ。

リクの攻撃を華麗に捌ききると、ムルトは立ち止まり、またしても身体の色を変化させていく。紫色の骨は赤く染まり、骨にこびりついていた黒い斑点が、徐々に広がっていく。


「あれ?もしかして奥の手?も~!やっぱり隠してるんじゃないか!」


年相応の屈託のない笑顔でそう言い放つリク。歪な身体は、さらに鱗や革、剛毛で包まれていく。


「サービスだよ?もう一回だけ攻撃させてあげる!」


「アぁ……一回。一回ダケ、だ……」


ムルトが新たに手に入れた力。だがそれは、諸刃の剣にもなりえるものだ。以前のラビリスでの暴走。皆を傷つけてしまったという事実が、この力を使いたくないと思わせている。


(一回ダケ、一瞬ダケ、ならバ……)


「さぁ!来なよ!」


「ウオオォォ!!!死ネェェ!!」


全身を赤黒く染め上げたムルトが、普段では言わない言葉を口にしながら、斬りかかった。


「……そ、そんな」


リクは驚愕の表情を浮かべ、斬りつけられた首元を押さえた。


「ハぁ、はぁ、くっ……」


ムルトの身体は徐々に元の白い色に戻っていき、大戦斧は元の月光剣へ戻っている。


「ま、まさか、これで終わり?」


リクの首元からは血が出ておらず、傷すらついていない。落胆した姿を見せるリクに、ムルトは悔しがるが、その瞬間巨大な拳を叩き込まれた。


「お前、もう死んでいいよ」


瞬間的な最高火力を出すために、身体に無理をさせたムルト。その攻撃を避けることが出来ず、地面に埋め込まれてしまう。

6本の腕から規則正しく打ち込まれるムルト。城の床が陥没しても、一発一発同じ箇所に拳を叩き込む。だが、手応えがない。


「へぇ……君も防御には自信があるみたいだね」


自分が殴り掘った穴の最奥から、息を切らした骸骨を拾い上げた。さっきの赤色とは全く逆。青色へさらに黒を足して濃くした紺色になっている。


(反動が大きすぎる……身体が動かない)


功を奏したのは、魔力だけは操ることができたこと。力に特化した憤怒の大罪ではなく、防御に特化した怠惰の大罪で防御力を極限まで高めた。

リクの攻撃が全く効かないわけではなかったが、それでも余裕をもって耐えられていた。


落胆していたリクは、一瞬だけ期待の表情を浮かべたが、それもすぐに冷徹な表情へ変わっていく。


「ねぇ、本当に奥の手は終わり?まだあるなら、死ぬ前に出してね」


拾い上げたムルトの頭を鷲掴み、徐々に力を入れていく。ミシミシと、頭蓋が粉砕されそうな音は聞こえなかったが、力が強まるほどにリクの腕はさらに歪になっていく。ムルトの、最硬の頭蓋を砕くまで。


(これでは不味いな……)


指をピクリとだけ動かせるようになったムルト。身体が自由になるのはすぐだろうが、自由になったところで、リクの手から逃れる術が存在していない。冷静に考えを巡らせるが、答えは出てこない。


(だが、死ぬわけにはいかないっ!!)


意を決してリクの腕を掴んだ瞬間、玉座の間の壁が大きな音を立てて破壊された。


「なんだ?」


リクがそちらへ顔を向けると、土煙の中から大きな骸骨と、黒ずくめの男が姿を見せた。


「何をすればいい!」


「動きを止めろ!!!」


その姿が見えた瞬間、ムルトとロンドは叫び合い、リクはロンド達の狙いに気づき、ムルトを投げ捨てて走り出した。





「さて、この辺りなら聞かれることはないか?」


ティングは、ロンドにそう語りかけた。

2人は、ムルトとリクのいる玉座の間から離れ、人気のない別の部屋にやってきた。玉座の間とはかなりの距離があるが、この2人ならば元の場所に戻るまでそう時間もかからない。

ロンドは、自分が今城のどこにいるか、セバスとリクがどこにいるかを考え、冷静にティングを見つめていた。


「どこまで知っている?」


先ほどの雰囲気とは一変し、敵意が完全に消えている。

ティングも戦闘する気は元からないようで、構えてすらいない。


「そうだな、リクという少年はムルト達と同じ大罪を持ち、セバスという男と共に国民を殺した。水晶の女性が美徳スキルを持っている。ロンドは何らかの弱みを握られている……くらいか」


「ああ。それで間違いない。が、かあさ……水晶の女性が美徳スキルを持っているというのは?」


「私にはわからなかったが、ムルト達が不快感を感じたと言っていた。私の中にも大罪の因子は残っているが……確証はない」


「そうか……いや、ムルト達が加勢してくれれば……」


ロンドは小さな声でそう呟きながら、自分の計画を実行するためにどうすればいいのかを考える。


「次はそちらの番だ。どんな弱みを握られている?私達はどうすればいい?」


ティングからの、含みも疑いもない、ロンドを仲間として認めているからこそ、手放しで協力をしようとする姿勢にロンドは自分が今までしてきたことを思い出し、心が締め付けられた。


「……俺の目的は、第一に水晶の女性を助け出すこと。第二に奴ら2人をこの国から追い出す、または殺害」


「女性を水晶から取り出す方法はあるのか?」


「方法はある。これだ」


ロンドは、懐から瓶を取り出して見せた。


「それは……喧嘩祭りの、聖龍の雫か」


ムルト達3人がここへ派遣されることになった原因。ラビリスでの裏切り、窃盗行為。その時のことを考えると、ティングは微塵も記憶にないが、話だけは聞いている。


「これがあれば、水晶は壊せる……はずだ」


「確証はあるのか?」


「ない。が、やるしかない」


瓶を握りしめながら、ロンドは自嘲した。


「ラビリスでは仲間を裏切り窃盗、自国では敵に尻尾を振り、また水晶を奪う……これでは十傑ではなく、ただの盗賊だな」


「……確かに。仲間を見捨てて、優勝賞品を持ち逃げしたこと、恥ずべき行為だな」


ティングは厳しくロンドを見つめ、叱るようにそう言った。


「だが、それほどまでに取り戻したい(・・・・・・)ものなのだろう?」


ロンドには、ティングが優しく微笑んだように見えた。


「ラビリスの時も、私達に相談をすれば、共に打開策を考えただろうに……」


「それは……もう遅い」


「ああ。それはもう遅い。だが、今はまだ間に合う」


ティングは右手を差し出した。


「今は頼れ。お前には私達がついている。イカロスに戻った時、謝ろう。私も、一緒に謝ってやってもいいぞ?」


ロンドはその言葉に、心を揺らされた。差し出された手を握り返し、照れ隠しするように笑った。


「謝るのは俺だけだ。お前らには……感謝しよう」


「ああ!」


ロンドは、ティング達がこんなにも簡単に手を貸してくれることに、感謝した。セバスを相手しているレヴィア達、リクを足止めしているムルト。

国民の避難も、ムルト達が協力して動いていることを、知っている。そして、彼らの戦力も。


「お前らが協力してくれるのであれば、俺達の勝利は揺るがない。手筈はあちらに戻りながら説明する。行くぞ」


「任せろ」


ティングとロンドの密談は無事終わり、2人はムルトとリクが死闘を広げる玉座の間へと戻るのであった。

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