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嫉龍王等と堅龍王1/3


ムルトたちが、ロンドとその弱みが何かを突き止めるまで、レヴィアとキアラはセバスの足止めをしなければならない。いくらセバスもリクと同じほどの強者だとしても、大罪の力を完全に使いこなせるレヴィアとキアラが苦戦するなど誰も予想していなかった。


「キアラッ!」


「はいっ!」


レヴィアが叫ぶと、キアラはその攻撃を見定めながら横に飛び避けた。自分が先ほどまでいたはずの地面は、完全に原型を失い、陥没してしまっている。


「はぁっ!」


死角から放たれたレヴィアの回し蹴りが、首筋に直撃する。だが、その男は微動だにせず、ダメージを与えられたのかも怪しい。


「ちっ……あんた、何者なのよ」


レヴィアが男に声をかけると、にっこりと微笑み、こう言った。


「セバス、ですよ」


先ほどまでの上品な老齢の男などではなく、両腕が胴体ほどに膨れ上がり、その足も禍々しく変形している。


「あんた、人間じゃないでしょ」


「見ればわかるでしょう?」


「何族なわけ?」


「……見れば、わかるでしょう」


地面が爆ぜる音が聞こえた瞬間、セバスがレヴィアの目の前まで迫っていた。間一髪、巨大な拳を受け止めることに成功したレヴィアだったが、勢いそのままに殴り飛ばされていく。翼と尻尾を使い空中で体勢を整えるが、既に翼の生えたセバスが目の前に戻ってきている。


「っふ。なんとも素早い。さすがは、元速龍王と言ったところでしょうか?レヴィル様」


身体を紫色の染め上げ、眼にも止まらぬ早さで攻撃を避けたレヴィアに、セバスはそう声をかけた。レヴィアはそれで何かを思い出したのか、セバスの見た目や口調、何とも言えぬ不快感の正体がわかった。


「あ~あ。あんた、思い出したわ元堅龍王、クルドベルクね。邪龍として追い出されたって風のうわさで聞いたけど?」


セバスの肥大した手足や翼には、瓦のように鈍く光る鱗が生えており、先ほどからレヴィアの攻撃が全く通用しなかった理由がよくわかる。セバスはレヴィアに邪龍と呼ばれ、眉が少しだけ動いたが、すぐに不気味な微笑みに戻り、言い返すようにレヴィアを挑発した。


「あなたも邪龍として里を追い出されたではないですか」


「そうね。あんたの甘言虚言に惑わされ、結果里を出ていった。で?あんたはその虚言、行動がバレて叩きだされたんでしょ?私と一緒にしないでほしいわね」


「……あれが、レヴィちゃんが里から出ていくことになった原因の人ですか?」


「ええ。私は奴の虚言を信じて……親友に嫉妬をした。それで暴走しちゃって、里を荒らして、暴走は抑えることができたけど、その後さとを出ることにしたの」


「まぁまぁ、レヴィル様、当時のことなど忘れて、今を生きましょうよ」


「ええそうね。でも……」


レヴィアはローブを脱ぎ捨て、仮面とタイツ一枚の姿になる。背中と腰からは真紫に染まった翼と尻尾。手足や顔を覆う鱗も紫色に染まり、レヴィアの姿がその場から消えた。


「あんたを殺すことに変わりはないわ!」


突如目の前に現れたレヴィアは、セバスが反応するよりも先に眉間に爪を立てた。


「っ!」


「かゆいかゆい」


セバスは痛がることも、血が流れることもなく、そのまま立っている。レヴィアが眼にも止まらぬ速さで繰り出した攻撃が、鉄や岩だけではなく、鋼すらも両断してしまう爪が、龍人化して鱗も出ていないはずのセバスの額を突き破れなかったことが、レヴィアには不思議でたまらなかった。


「……どういうこと?」


身の危険を感じ、すぐにセバスと距離をとるレヴィア。セバスは自分に何かを感じたレヴィアがおかしくてたまらないのか、大きな笑い声をあげながら、自分の身体を完全に龍人化させる。だが、それはレヴィアやガロウス、普通の龍がしている龍の特性を残した人ではなく、人の手足を持った龍になっている。


「……レヴィル様、私はね、もう堅龍王ではないんですよ」


「ふふ、邪龍王かしら?」


「違いますよ」


セバスは食い気味にそれを否定し、両手を空に広げながら、声高々に言い切った。


「レヴィル様!私はね!世界龍バハムートになったのです!この世界の頂点!龍王や龍神などとは一線を画す、龍!バハムートに!」


「世界龍はこの世で一匹、初代龍神だけよ。それ以降その名を冠する龍は一匹たりとも現れていない」


「それがね、いるんですよ。ここに」


「あっはっは!さすが虚龍王ね!邪龍の言う自称世界龍なんて誰が」


「その身を以て、信じなさい」


セバスは、レヴィアと同等。いや、レヴィア以上の速さで動いた。眼にも留めることができなかったレヴィアは、横薙ぎに振るわれた剛腕を避けることができず、受け入れることしかできない。


「っが!」


「レヴィちゃん!」


ミシミシと音をたてながら折れていく右腕に気づきながら、吹き飛んでいく。レヴィアは激痛に耐えながらすぐに起き上がり、動いた。

腕が使えなくとも、足がある。尻尾がある。セバスもレヴィアの動きを眼で捉えられているわけではないようで、無防備にその攻撃を受け続けるが、不幸にもその攻撃は何一つ効いているようには思えない。


(嫉妬の大罪を使っての攻撃が効かないなんて……打つ手ないじゃない……)


「キアラ!」


「はい!」


レヴィアの呼び声と共に、キアラが目を瞑った。すると、キアラの姿までもが跡形もなく消えてしまう。


「ふふふ、正直、鬼ごっこに付き合うつもりはないのですがね」


セバスは、眼の端でしか捉えられない紫色の影に向かって、そう言った。どうやら、レヴィアはキアラが攻撃されぬよう、キアラを抱えて飛び続けているようだ。常人には風が強すぎて身体が切れてしまうが、キアラは大罪持ち。そんな心配はいらず、ただ眼が乾燥して使えなくならぬよう、目を瞑っている。


「キアラ、私の攻撃であいつを倒せるか正直わからない」


「……はい」


「でも、ここであいつを野放しにはできない。それは、私たちの作戦失敗だし、ムルトとか国民が危険にさらされる」


「はい」


「鬼ごっこをするのであれば、私は当初の目的通り、吸血鬼どもを殺しに行くとするよ」


セバスがレヴィアたちを無視し、動いた瞬間、腹部に衝撃が走る。だが、それはセバスにダメージを与えることも、体勢を崩すこともできなかった。セバスは目の前に現れたレヴィアを捕まえようとしたが、すぐに目の前から消えた。


「……なぜ右腕が直っている?」


腹部に当たっていたのは、確かに先ほど砕いたはずの右腕。回復魔法を使ったようにも、使えるようにも見えない。すると、動き続けていたレヴィアとキアラが目の前に立った。やはりレヴィアの右腕は直っており、傷もない。鱗に付着している血がまだ乾いていないことから、何らかの方法で腕を直したことは明らかだ。


「キアラ!全力で行くわよ!」


「お任せください」


レヴィアは全身の鱗の量が増え、厚みも増し、色もどんどん濃くなっていく。キアラも服を完全に脱ぎ去ると、下着というか、大事なところしか隠れていない布を纏っており、身体中に色々な文様が浮かんでいる。


「ふふふ、すぐにあなたたちも龍神様の下へ送って差し上げますよ」


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