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骸骨は手を握る


窓から差し込んだ朝陽が、なんとなくハルカの頬を撫でた。


「ん……んぅ……」


気持ちのよいほどに暖かい陽射しだったが、やはり寝起きには眩しいようで、ハルカはその陽の光から逃げるように寝返りを打った。


「ん……?」


ハルカは、寝返りをすんなりとできたのだが、そのせいで違和感を覚えてしまう。眠気眼を擦りながら、ハルカは眼を開け、隣にいるはずのものの名を呼ぶ。


「ムルト……様?」


昨晩、夜を共にした相手がいなかったのだ。体を起こして部屋の中を見渡すが、どこにもムルトはいなかった。読みかけの本は閉じられ、ティーカップなどもそのままだ。

ハルカはボーっとした頭でベッドから這い出ると、今自分が裸であることを思い出し、服を拾い上げて羽織った。すると、それに合わせたかのように部屋の扉が開けられた。

入ってきたのは、半身が赤と青の斑模様に覆われ、体の中心が黒く染まっている骸骨だ。はっきり言って禍々しいという言葉が似合うが、ハルカやその仲間たちはそんなこと考えたことはない。


「あ、あぁ、おはようハルカ。よく、眠れたか?」


「はい!おはようございます!ムルト様!」


ハルカは満面の笑みを浮かべ、ムルトに元気な挨拶をした。ムルトも、そんなハルカの頭を撫で、ローブを羽織った。


「さぁ、食堂で皆が待っている。行くとしよう」


「はい!」


ムルト達は軽く身支度をし、皆が待つ食堂へと向かった。

そこにはすでにダン達がおり、談笑をしている。ハンゾウやコットン、カグヤもおり、ムルト達と食事を摂るのを楽しみにしているようだった。


「すまない、待たせたな」


「おぉムルト!全然待ってないぜ!ささ、座って座って」


ムルトとハルカは、ダンに勧められ隣同士に座っていく。それを見てコットンはメイドに朝ごはんを持ってくるように頼んだ。すぐに全員分の料理が運ばれ、改めて楽しい食事の時間がやってきた。


「と、とりあえず、出発の日までどうするかだけど……」


「バ、バリオ殿は好きにこの国を観光しろと言ったのだろう?ならばそうすればいいのではないか?」


「そ、そうね、そうしましょうか。荷物の準備とかもしてくれるって話だったし、私たちは観光を楽しめるってわけね!」


「しかも観光のための金も出してくれるんだろ?至れり尽くせりだぜ!」


昨日、ムルト達がバリオからされた話はダン達にも共有されている。これから三日間は自由に過ごしていいという話なのだが、初めて訪れる国、どのような文化でないがあるかはよくわかっていない。レヴィアやダン達は、なぜかぎこちない喋り方で国の観光をしようという話をしている。


「国の観光、いいですね、ムルト様」


「あぁ。月の教会にも行きたい。美味しいものや景色も見たいな」


「はい!私もそうしたいです!だったらやっぱり……」


ハルカは隣のムルトと今日どこに行きたいかという話をするが、やはり土地勘を持っている人物と共に行動するのがいいだろう。ハルカは少し遠い席に座るコットンを見て声をかけた。


「コットンさん、よろしければ今日はイカロス王国を案内してもらえませんか?」


ムルトとハルカが出会った頃に少しばかり共に旅をし、ピンチの時にを助けてもらったこと、この国の十傑として活動し、何よりムルトとは積もる話もあるだろうと、ハルカはコットンにイカロス王国の案内を申し出た。コットンなら快く引き受けてくれると思ったのだが、返ってきたのは意外な返答だった。


「あ、あぁ、すまない。今日はキートンや他の仲間に昨日の話をしなくてはならなくてな……」


断られてしまった。


「それならば仕方ないですよね……ミナミちゃん」


「アー、ゴメンナイ、私もやることがあってー」


なぜかカタコト、さらに食い気味にミナミが断る。


「ムルト、私はムルト」


ティアが何やら喋ろうとするのをレヴィアが止め、話し出した。


「……私達もパスよ。こっちはこっちでキアラと観光するから」


「私達もミナミちゃんとやることがあってね~」


「ムルトよ、私もゴンとミチタカで見て回りたい場所がある」


「非常に残念だが、俺もガロウスさんと訓練しなきゃならなくて……」


次々と誘いを断られてしまった。どうやら今日はハルカとムルトの二人きりで観光をしなければならないようだ。


「わっはっは!!貴様らは愛い愛い!」


「ちょ、ガロウスさん」


ガロウスは何かを耐えきれなかったようで、大笑いをしてそんなことを言い始めた。ダンはガロウスを止めるように肩を叩き、ガロウスは首を振りながらこう言った。


「いや、我は何も言うまい。好きにしろ。だがダン、訓練から逃げ出すことは許さぬぞ……?」


「ひゃ、ひゃい……」


ダンが墓穴を掘ってしまったようで、意気消沈しているが、それも仕方のないことだ。


「じゃ、じゃあムルト様、今日は二人きりなんですね……」


「あぁ。そうなる」


ハルカは密かに嬉しいという気持ちをグッと堪えようとしたが、思わず顔が綻んでしまった。


食事を終え、話した通り各々が別々に行動を始める。メイドが支給金を持ってきたが、ムルトを含めた全員がそれを断っていた。誰も金には困っていなければ、楽しむためにここへ来たわけではないのだ。ダンだけは断るのを少しだけ渋っていたが……。


「ムルト様……二人きりになるのは久しぶりな気がします」


「あぁ。そうだな。皆と過ごすのも楽しいが、二人でゆっくりするのもいいものだ」


「はい!」


「では、行こう」


ムルトは優しくハルカの手を握り、ハルカもその手を握り返す。

ムルトとハルカが二人きりで行動するということは別段珍しくないのだが、最近はその機会もなくなっていた。二人ともそれは気にしていないが、改めて二人きりになるのも嬉しく思っている。


昨日の晩のように、二人は誰にも邪魔されることなく、賑やかな城下町へと繰り出していった。

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