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セルシアンという男5/6


「待って!この子は私達の味方なの!」


その少女は、今セルシアンがリザードマンから助けた少女だった。


「ん?テイマーか?まさか、お前がこいつの主人とは言わねぇよなぁ?」


「モブちゃんはペットじゃなくて、友達なの!」


少女は、目の前の危険なユニークモンスターを友達と言った。モンスターはどこまでいってもモンスターなのだ。結局は人に害を為す。


「友達だぁ?モンスターと?はっ、笑わせるなぁ。友達ってんなら、言うことを聞くだろう?ちゃんと手懐けてあるなら、指示を出してみろ。従ったならば危険がないと判断する」


だがセルシアンはチャンスを上げた。この少女がモンスターを友達と言うのであれば、自分が今まで出会っていたモンスターと違うのだと証明してくれれば、少しだけ、そんな期待を抱いたのだ。


「わ、わかったわ!モブちゃん!回って!」


少女はモンスターへそう声をかけるが、モンスターは意味を理解していないのか、動きはしない。


(ほらな。モンスターと人間が分かり合うなんて……)


「ん〜と……あっ!モブちゃん!とってきて!」


少女はそれでも懸命にモンスターへ命令を出してはいるが、理解できていないのか、動くことはない。

セルシアンは目の前のモンスターがいきなり襲ってきてもいいよう、常にプレッシャーを放っている。


「そ、そんなぁ……」


「モンスターは危険なんだ。わかったらどけ」


「ダメ!モブちゃんは友達なの!殺しちゃダメなの!」


「アイラ!」


少女の親子だと思われる人間が飛び出し、娘をきつく抱きしめ、セルシアンを見上げて言った。


「冒険者様、Sランクとお見受けします。ここは見逃して頂けませんか?この子は私達の家族と言っても過言ではないのです。よく働いてくれますし、子供達の相手もしてくれます」


(モンスターが家族?働く?今までモンスターがどれだけの人間を、家族を殺してきたと思ってるんだ……)


それはセルシアンが行く先々で見てきた。自分の家族だってモンスターに殺されてしまった。

テイムされず、使役もできないモンスターを仲間など、家族など、到底考えることなどできない。


「ん〜そうだなぁ……そりゃ無理って話だな。モンスターは殺す。邪魔立てするなら、お前らも、この村の住人も、殺しちまうぞ」


低く冷たい声を放ったが、それは優しさだった。脅しでもなんでも、住民を助けることが自分が冒険者をやっている理由なのだから。問題は、それでも邪魔をする場合だ。


「お兄ちゃん!お願い!見逃して!」


少女は両親の手を離れ、セルシアンの目の前に進み、懇願した。


「……はぁ。そうだなぁ……」


セルシアンはしゃがみ、少女と目線を合わせる。


(万を救うために、十を殺す……)


それは、セルシアンが自分に課した使命だ。2人の家族ではなく、1万人以上が住んでいる街を救うべきなのだと、セルシアンは考えてしまったのだ。

セルシアンは作った笑顔でアイラの首を絞め上げ、立ち上がる。


「もう遅い!お前も、お前らもここで殺す!」


最後の手段だった。たとえSランク冒険者であれども、ここまでの横暴は許されない。だが、このモンスターをここで野放しのしてしまえば、必ず数万、数百万という人間を殺すだろう。それほどの強さをこのモンスターは持っている。少し手荒になってしまうが、これがセルシアンの出せる最善の策だ。


「どうだ?お前が自分の命を差し出すなら、この娘は助けてやろう。もっとも、言葉は通じないと思うけどな」


セルシアンは少しだけ期待をして、声をかけた。


「ア、ビ、ブモ、ウ」


「あん?」


「ア、リ、ブ、トウ」


それは徐々に聞き取りやすくなっていく。


「アイ、ラ、トモダチ、アリガ、トウ」


目の前のモンスターは言葉を紡いだのだ。確かに言葉を喋ったのだ。意味を理解しているのかはわからないが、言葉(・・)を発したのだ。


「……気が変わった」


ザシュ


セルシアンは、人の体を抉る気持ち悪い感触を感じながら、覚悟をした。自分が負けてしまうかもしれないほど強者。見てわかる強さだけではなく、言葉を理解し、発するという知能まで持っている。

ここで殺さねば、確実に被害が拡大してしまうと思ったのだ。


「ブォォォォォォオオォォ!!」


目の前のモンスターが雄叫びを上げた。セルシアンはすぐに構えをとった。



「っ!ここは、ど、くそ!」


セルシアンは空を飛んでいた。自分の魔法でも、何かに乗っているわけでもない。

先ほどまで戦っていたモンスターに、殴り飛ばされたのだ。

さらにセルシアンは気を失ってしまっていた。


「ちっ」


セルシアンは風魔法を使い、空中で動きを止めた。


「どれくらいトバされてたんだ……」


どれくらい気を失っていたのかはわからないが、セルシアンは自分が飛ばされてきた方向へ全速力で向かった。


あれだけの強さを持つモンスターが、暴走を起こしたのだ。村人が無事であるはずがない。

セルシアンが全速力で戻って数十分。やっと村が見えてきた。


(あれほどのパワー、危険すぎる)


セルシアンは顔面から血をとめどなく流しながら、村へ降り立った。


「なんだよ……これ……」


目の前には、鮮血の泉ができていた。

首のないモンスターの目の前に、命を絶ったと思われる村人達が何十人もいた。

その誰もが首筋に切り傷がある。



「なんでだよ……」


村人の中に、このモンスターを倒せるほどの者がいたとは思えない。

このモンスターが自分から命を絶ち、村人がその後を追った。


セルシアンは膝をつき、自分の未熟を噛み締めた。





セルシアンは、王都のギルドに戻っていた。窓口に血濡れの暴牛コープスメイクバイソンの首を置いた。



受付嬢は驚きつつも、ギルドマスターを呼び、セルシアンは別室へと通された。


「……セルシアン、集団暴走の調査に向かっていたはずだが、このユニークモンスターの首は?」


「集団暴走の予兆有。そのまま集団暴走を起こしたから対処した。その首は、近くの村を根城にしていたモンスターの首だ」


「なるほど。集団暴走はその村へ向かっており、それを対処していたらユニークモンスターに遭遇したと」



「あぁ」


「その村の住人は?」


「……殺した」


「何?」


俺が(・・)、殺した」


淡々と話していたセルシアンが、震えだした。今までの高飛車なセルシアンからは想像もできないほどの震え。それは快楽や楽しかったなどではなく、後悔。自分で殺したと言うには、深すぎる後悔からくる震えに見えた。


「……そうか。わかった」


バリオは頷き、セルシアンの肩に手を置いた。




それからもセルシアンは数々の武勲を上げた。

セルシアンが倒したのではないが、血濡れの暴牛コープスメイクバイソンを討伐したということもあり、S1ランクへ昇格をした。


その一件からセルシアンは大人しくなり、誰かに噛みつくことも少なくなり、休みもとるようになった。

だが、ユニークモンスターという言葉を聞くたびにトラウマを、自らの過ちを思い出してしまう。


そして時が経ち、セルシアンはスケルトンのユニークモンスターの話を聞き、単独討伐へ向かい命を落としてしまう。


やっと、やっとこの地獄から解き放たれるのだと喜んだが、地獄の日々が始まったのは、それからだった。

お待たせしました。

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