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セルシアンという男4


セルシアンは次々と武勲を上げていた。

Sランクに昇格してから、次々と依頼をこなしていく。それは、FランクからSランクまで、様々な難易度の討伐依頼をこなした。


Sランクに上がるまでの、しなやかで美しい戦い方とは打って変わり、卑怯で残忍になった。砂で目潰しをしたり、番のモンスターであれば雌を人質にたり、ひたすら突撃しては、敵を嬲り殺すという荒々しい戦いになっていた。


疾風の蜂と呼ばれていた頃の面影はなく、ひたすら命を燃やして敵を殺す様から、戦車と呼ばれていた。

刺突戦車のセルシアン。と


「手続きを頼む」


「か、かしこまりました」


最近では、ギルドの職員も萎縮してしまうほどに、セルシアンの活躍は知れ渡っている。

朝早くに依頼を受け、返り血を全身に浴びてギルドに戻り、また討伐依頼を受ける。

鎖から解き放たれた獣のように、血を求めている。


「お、お言葉ですがセルシアン様、ここ3ヶ月ほど、朝から晩まで毎日高難易度の討伐依頼を受けておりますが、たまには休むことも大事なのでは?」


「休むも休まないも俺の勝手だろうが。さっさと手続きしてくれ」


「ですがセルシアン様」


「俺は何ランクだ」


セルシアンの体を心配した職員がそう言おうとすると、セルシアンは職員に顔を近づけ、低い声で凄んだ。

職員は声を震わせながら、答えた。


「S、ランクです」


「だったら俺は危険な依頼を受けることができる。お前らはそれを受理してさっさと俺を見送りゃいいんだよ。簡単な仕事だろ?」


「で、ですが、ひぃ!」


それでもなおセルシアンを心配する職員に、セルシアンは腰の細剣を抜き、その職員の首に突きつけた。


「今死ぬか、俺を送り出すか、選べ」


否応も言えない恐怖に、職員は動けないでいた。そこに、大きな男が現れる。


「チッ、グランドマスター、何か用ですか?」


セルシアンの後ろにいたのは、王都の冒険者ギルドのマスターであり、各地の冒険者ギルドの頂点にいる、グランドギルドマスター、拳神バリオだった。微塵も隠す気の無い殺気が、周りの冒険者達をも襲っている。


「ふむ。セルシアンよ。少々やりすぎだぞ。血気盛んなのは悪いことではないが、体を酷使しすぎて、いざという時に動きが鈍るかもしれんぞ」


「休みなんぞ必要ない。ここで試してみます?」


セルシアンは二本の細剣を抜きはなち、突風で加速をつけてバリオに突っ込んでいく。

バリオはその動きを、腕を組んだままさらりとかわし、セルシアンの頭を掴み、地面に叩きつけた。その衝撃で、大理石でできているギルドの床は粉々になった。


「まだS1ランクにもあがっていないひよっこが。威勢だけでは、この先生き残れないぞ」


バリオの目玉を抉るように、細剣が放たれた。それをバリオは人差し指の腹で受け止め、手刀を打つ。


「少し休め」


セルシアンの意識は途切れた。





セルシアンは夢を見た。夢というよりは、脳内にこびりついた映像。

両親目の前でぐちゃぐちゃにされ、仇は目の前で自ら命を絶った。


モンスターに対する憎悪が、膨らんでいっていた。それでもセルシアンの心の中には、変わらないものがある。


『確かに危険もいっぱいあるけど、俺がやらなきゃ、人々に危険が迫る。その危険を退けて1人でも多く救って、その笑顔を見て、俺は戦ってよかったな。って思えるんだ』


あの日、セルシアンが初めて憧れた冒険者の言葉。両親が死んだ日も、多くの人々を救い、感謝された。


危険な依頼を毎日こなすのも、危険に晒されている人たちを少しでも多く、少しでも早く安心させたいがためだった。


セルシアンは目を覚まし、辺りを見渡す。

自分がいつも使っている宿屋の一室だということがわかる。


体を起こすと、机の上に1枚の紙が置いてある。


『お前がなぜそこまでするか、そこまで変わったのかは知っている。だからといって、そんな戦い方を毎日続けていたら、助けられる者達も助けられなくなるぞ。体を休め、心を休めろ。 バリオ 』


「……チッ」


セルシアンは短く舌打ちをし、ベッドに横になる。

不服そうな顔をして、セルシアンは3日間、鍛錬はしても、依頼は受けなかった。





「これを受ける」


「かしこまりました。集団暴走の予兆の調査ですね……」


その日セルシアンが出したのは討伐依頼ではなく、モンスターの集団暴走の調査依頼。


集団暴走の危険があると判断されている場所を見にいってくるというものだ。調査場所のあたりはE〜Bランクのモンスターが生息しており、集団暴走が起こっても、セルシアン1人でも対処できるだろうという難易度。


手続きは簡単に終了し、セルシアンはギルドを後にした。


「あまり無理はなさらないように」


職員の心配の声をセルシアンは背中で聞き、背中を向け歩いたまま、手を振って答えた。





「っと。集団暴走ってよりかは、何種族かの縄張り争いって感じだな」


森の奥深く。リザードマンやオーガ、ゴブリンやワイルドホーンなど、多種多様なモンスターが一同に介していた。

険悪な感じから、強さや種族は違えど、皆ここを縄張りとして睨み合っているのがわかる。


「集団暴走じゃないが、こんなにいるなら一網打尽でいいか」


セルシアンは魔法を発動した。

風がモンスター達の中心に飛来し、大きな爆発を起こした。


巻き込まれたモンスター達は、ズタズタになった仲間達を見て、困惑する。


そこへ、細剣を構えたセルシアンが、降り立ち、次々と虐殺する。


(手応えはねぇが、この近くには村があったはずだ。さっさと片付けねぇと)


そう考えたセルシアンだったが、数が数。さすがに時間はかかる。

多種多様なモンスターを殺し続け、その返り血を全身に浴びていた。

仲間達が、争っていたはずの種族達が。次々とセルシアンに殺され、モンスター達はそれに恐怖し、パニックになり、逃げ出した。


睨み合っていたモンスター達と同じように、セルシアンがいる方向とは逆に走っていく。


「めんどくせぇな……」


逃げ出したモンスターは一旦見逃し、今目の前にいるモンスターを殺し尽くした。

そしてセルシアンは、モンスター達が逃げていった方向へと、ゆっくりと歩いていく。





「ブモォォォォ!!!!」


「ん?」


少し歩くと、ミノタウロスのものと思われる雄叫びが聞こえる。先ほどの集団にはいなかった種族。

セルシアンは少し足早になると、その光景が飛び込んできた。観察するように、ゆっくりと歩いた。


赤い皮膚を持つミノタウロスが、セルシアンから逃げ出したモンスターを次々と狩っているのだ。


「なんだぁ?仲間割れか?」


セルシアンがそう声に出すと、モンスターが振り返り、セルシアンを見た。パニックになっているモンスターはミノタウロスの脇を走り抜けようとし、それをミノタウロスに阻まれていた。だが、そのうちの1匹がミノタウロスを避けるのに成功し、村の中に入っていった。


(まずい)


セルシアンは自分に風魔法をかけ、スピードを底上げする。風のようにその場を走り抜け、少女に迫っていたリザードマンの頭を貫いた。


「ふぅ。これで終わりだな。っと、まだ1匹いるか」


粗方のモンスターを殺し尽くし、残ったのは目の前の赤い皮膚を持ったミノタウロス一体。


そのミノタウロスが、一歩足を踏み出す。

セルシアンはそれに反応し、ミノタウロスの目玉を抉ろうと細剣を突き出した。


「ブモッ!」


ミノタウロスはそれを間一髪で交わした。


「ミノタウロスにしてはいい動きじゃねぇか……返り血だと思ったが、お前、血濡れの暴牛(コープスメイクバイソン)か?」


それは、ミノタウロスのユニーク種。

セルシアンにとってユニーク種は、一種のトラウマになっていた。


(ユニーク、か)


セルシアンはそれだけ言うと、静かに構えた。ミノタウロスも身構え、睨み合う。

そんな中、明るい少女の声が、割り込んだ。


恐らく次で最後です

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