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骸骨達と乱闘5


セルシアンは、ゴーグに命令され止まることなく実況席へ突撃する。

セルシアンの背中には、蟲のような羽根が生えており、それを音を立てながら振動させ、地面を蹴った。


そのひと蹴りで実況席まで跳躍し、実況者へと襲いかかる。


「ひ、ひぃぃ!」


実況者は聖龍の雫を庇うように抱えていた。

周りにいた冒険者のパーティは、ワイトキングの出したモンスターに足止めをされており、実況者を助けに行ける状態ではなかった。


「お前に恨みはないが、すまない」


セルシアンは、右腕の針を実況者の喉めがけて突き出した。それと同時に、黒い何かが横から飛び出し、セルシアンの右腕を掴んだ。


「セル、シアン?」


黒いコートような影を身に纏った男が、蛆の沸いたセルシアンの顔を見て、呟いた。


「よぉ、ロンド」


弾き出されたように互いに距離を取り、言葉を交わした。


「お前は確かに死んだはず」


「あぁ。俺もそう思っていた。さ!!」


だがセルシアンに出された命令は、聖龍の雫の破壊、又は奪取だ。話している余裕などはなく、聖龍の雫を抱える実況者になおも攻撃を繰り出そうとする。


「いや、その見た目から、生きているとは言い難いようだが」


ロンドがその間に入り、セルシアンの攻撃を止める。


「見ての通り、アンデッドだ」


2人は互いに攻撃を繰り出しながらも、話を続けた。ロンドの黒い拳が、セルシアンの顔をかする。


「アンデッドっつっても、頭蓋骨を粉々にするだけじゃ止まらねぇ。今の俺の種族は、蝕人食蟲(パラサイト・イーム)。体のどこかにいる芋虫を殺すしか、俺を止める手段はねぇ」


セルシアンの針が、ロンドの体を貫通する。

だがそれはロンドの影で、ロンド自身へのダメージにはならなかった。


「その芋虫はどこにいる?」


「わからねぇ。常に俺の体の中を移動してる」


「感覚でわからないか?」


「今の俺には何の感覚もねぇんだ。よ!!」


セルシアンは足払いをした。ロンドはそれを飛んで避け、コートを広げた。


「影刺!!」


コートの中から無数の針が飛び出し、セルシアンに集中する。


「バースト!!」


セルシアンは自分の目の前に暴風を出し、自分を後方へと飛ばし、それを避けた。


「追いついた!!ぞ!!」


その後方から、2人には聞き馴染みのある声が聞こえる。ジュウベエだ。


「っぐ!!」


それに気づいたセルシアンは、体を捻り、腕を重ね、ジュウベエの大剣を受け応えたが、そのまま後ろへと吹き飛ばされてしまう。


瓦礫に埋もれたセルシアンが立ち上がり、笑いながら言った。


「モンスターを狩ってた俺が、モンスターになるなんて、笑える話だよなぁ!」


歪んだ顔が、更に歪んだ。

その顔は、今にも泣きそうになるのを、我慢している顔だった。


「俺はみんなのために、モンスターを殺してきた。人間にいるように、モンスターにもいい奴悪い奴はいる。俺はそのどちらも殺してきた。みんなのために。それが今じゃ俺が悪者だ。拒むことなんてできない。俺はやるしかないんだ。だからぁ……」


ボロボロとセルシアンの目から、肉が零れた。


「俺を!!殺じでぐれぇ!!」


涙と呼ぶには分厚い肉だったが、その苦しみの声は、2人に届いている。


「確かに、今のお前はモンスターになった。だが、変わらないものもあるだろう。それは、お前が確かな戦士だということ」


ロンドは懐から、二本のレイピアをセルシアンに向かって投げた。


「これは、俺の……なんでお前が?」


「あそこの骸骨からもらったんだよ」


ロンドに指さされた方向を、セルシアンは見た。自分の上官であるゴーグが戦っていたのは、セルシアンにも見覚えのある仮面をつけた者。


「異色の、スケルトン」


「あぁ。あいつに返したもらったんだ。お前の遺品をな」


「……」


命令で動いていたはずのセルシアンは、自分に向かって投げられたレイピアを、自分の意思で拾った。


「3対1か……最期にしては、贅沢すぎねぇか?」


いつの間にかティアも加わっており、セルシアンの目の前には3人が立ち塞がっている。

セルシアンはそんな3人を目に据え、身を低くし、レイピアを十字に重ね、前に出す。


「……刺突戦車(・・・・)、セルシアン、狡猾で残忍に、お前達を突き殺す」


「さぁ、来い!」


「負けない」


「セルシアン、後のことは任せろ」


目の前で生きているはずの仲間のための弔い合戦。決して仲が良いとは言えなかったが、同じ戦場を潜り抜けてきたかつての戦友を、今日、完全に葬り去る。

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