骸骨達と乱闘
★は場面転換のようなものです。
CM明けのシーン転換だと思ってください。
しばらくは群像劇っぽく話が展開すると思います。読みにくいかもしれませんが、楽しんでください。
「よし。俺たちは美徳を相手する。お前はそれ以外を殺せ」
ゴーグはムルトと組み合ったまま、ワイトキングに命令をした。
「私に、命令をするな」
ワイトキングはゴンのメイスを受け止めたまま、ゴーグへ向け手を向ける。
「お前らがやれ。そいつらは私1人で相手をしよう」
ワイトキングの手に魔力が集中し、魔力弾が発射される。
ゴーグはそれが炸裂する瞬間、鎧から漏れている黒い煙の形を変え、ムルトの体を搦め捕り、蹴り飛ばし、魔力弾を上に弾く。魔力弾で天井が崩れ始める中、ワイトキングの頭を掴み、そのまま地面へと叩きつけた。
「その言葉、そっくりそのままお前に返す。俺に命令をするな。Sランク風情が。お前は俺たちの誰にでも劣っている」
「ぐ、ぐぐぐ」
「わかったらさっさと働け」
ゴーグはワイトキングの頭から手を放し、蹴飛ばしたムルトへと向きなおる。
「貴様ら、覚えていろ……」
ワイトキングの言葉など聞こえていないかのようにゴーグはそれを無視した。
「ティングゥゥウゥウ!!」
ゴンは、叫びながらメイスをワイトキングへと振り下ろした。が、それはまたもや軽々と受け止められた。
「騒がしい」
ワイトキングはゴンの頭を掴もうとするが、ゴンはすぐにメイスを手放し、後ろへ飛び距離をとった。
「癪だが、まずはお前らだ。
不死者達の兵隊達。殺戮の時間だ」
観客席にも沸いて出たアンデッド達の体が、黄土色へと変色していく。
★
「さぁ!こちらも始めよう!お前らも、いけ!」
ゴーグが高らかにそう言うと、ゴーマはハルカに、ゴーパはミナミに、蟲に覆われた男はティアへ向かっていく。その動きと連動するように周りのアンデッドも、観客席のアンデッドも暴れ出した。
「くそっ!何が狙いだ!」
「はっはっは!そんなの、お前らの命以外にねぇだろうがよ!!」
ゴーグは黒い煙を腕に纏わせ、鋭利な刃物に変形させる。刃の背には人の苦しむ顔のようなものが浮かび上がっている。
「はっはっは!文字通り、百人力だぜっ!と!」
ムルトはそれを月光剣で受け止めたが、数メートル押し出された。
「中々強くなってんじゃねぇか」
不敵に笑うゴーグに、声がかかる。
「ゴーグ、器は殺すな、という命令だ」
「ゴーグ。陛下。命令、絶対」
「ったく、わかってるわかってる……」
交戦中にも関わらず、3人は余裕を持って話をしている。
「よそ見をするな!火聖一閃!」
「『堅い』」
ミナミは、ゴーパがゴーグの方を向いて話しかけた隙を突き、距離を詰め、居合を放った。ゴーパは両腕を目の前で扉のように閉め、言葉を発する。
「えっ……」
ミナミの火聖一閃。炎を纏った愛刀ー紫桜ーに、聖天の魔力を纏わせ放つ居合いの太刀。
アンデッドであるならば、聖天魔法は弱点のはず。だが、目の前のゴーパはそれを両腕で防いでいた。
「きかない。『速く』」
ゴーパがそう言葉を紡ぐと、ゴーパのうごきがブレるほど速くなった。合わせていたはずの両腕は、既に拳を固めており、それでミナミを襲った。
「うっ、ぐっ!」
ミナミは殴りつけられ、そのまま吹き飛んでいく。ゴーパ続けて言葉を紡いだ。
「『堅い、速く』」
姿勢を正し、吹き飛んでいったミナミにタックルをしようとしていた。
(避けられない……!)
未知のモンスターとの遭遇から、自分が負けるまで、早すぎた。
ゴーパの突進が早すぎて、逆にゆっくりに見える。いや、走馬灯のようにゆっくりと時間の流れを感じているのだろうか。
(せめて一矢……!)
ミナミは紫桜の柄を腹に当て、刀身をゴーパに向ける。
先ほど防がれた刀でも、相手の突進力を考えれば貫けるだろうと、例え貫けるたとしても、その衝撃に耐えきれず、自分の腹に柄が突き刺さり、致命的なダメージは負ってしまう。いや、突進で即死かもしれない。
だが、一矢だけでも、相手に深手を負わせられれば。
そんな考えが頭を巡る中、ゴーパが目前に迫っていた。
目の前が真っ黒になり、景色が変わる。
★
「い、生きてる……?」
ミナミは壁に激突し、少しダメージを負ったが、命は保っていた。目の前には飛んでいくゴーパ。
(さっきの黒いのはなんだったの?)
荒い息を整えつつ、そんなことを考える。
「勇者ってのは!そんなに簡単に負けていいのかよ?」
大きな声が、頭の上から聞こえた。
「ジュ、ジュウベエさん!」
ミナミのその声に、ジュウベエはニヤっと笑ったが、すぐ険しい顔になった。
「っにしても……中々きいたぜこりゃあ……」
よく見ると、大剣を握るジュウベエの手は微かに震えていた。
つまり、ジュウベエは大剣の腹を使い、突進してきたゴーパを打ち付け、そのままフルスイングしたのだ。
ゴーパ遠くに墜落した。
「ミナミ、十傑が聞いて呆れるぞ」
「ロンドさん……」
ジュウベエの横から姿を表したのはロンドだった。控え室にいたであろう2人は、少し遅れてきたようだ。
「避難経路にいたモンスター共を片付けてからきた。あっちは残りの冒険者でなんとかなるだろう」
「黄土色のワイト達はどうしたのですか?」
「だから、そいつらも殺してきた。観客の中には腕利きの冒険者も多い。心配はない。問題は……あの3体だろう」
ロンドが見据えるのは、ゴーグ、ゴーパ、ゴーマの3体。ゴーグとゴーマは、それぞれの相手と戦っている。ティアは蟲男と。ゴン、サキはワイトキングと戦っている。
「ティアと言ったあの娘は、攻めあぐねているようだな」
ジュウベエは蟲男と戦っているティアを見てそう言った。
「ミナミ、手助けは必要か?」
ロンドはハルカを見ながら、ミナミにそう問いかけた。
「必要ありません。私一人で十分です。2人は他の人の手助けを」
ミナミはスッと立ち上がり、刀を鞘におさめる。
「それでこそ十傑にして勇者殿!ミナミ様だな!」
「やめてください……恥ずかしいです」
豪快に笑うジュウベエだが、すっと表情を変える。
「それでは」
「健闘を」
「祈ります!」
ジュウベエはティアの下へ。ロンドはハルカの下へ駆けていく。
ミナミは鞘に手をかけ、目の前の敵、ゴーパのみに集中する。




