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ミチタカVSブラド1


色々な出来事が交差する中、喧嘩祭り、今日最後の試合が始まろうとしていた。


「初めましてじゃ。ミチタカと申す者じゃ。今日はよろしく頼む」


「む?あぁ!我の対戦相手か!!我の対戦相手はこんなお爺さんとは……手加減したほうがよろしいか?」


ブラドに挑発する気は全くなく。ただただ目の前の老人の体を労ろうと思っていた。

予選を勝ち抜いてきた猛者であろうと、老人は老人。ブラドはどう戦おうか考えていた。


「ほっほっほ。そんなことを言われるとはのぉ。手加減無用。全力で相手をしてほしい」


ミチタカは、ブラドの挑発ともとれる発言を聞いたが、それを挑発ではなく、本当に自分のことを心配しているように聞えた。

そのため、和やかな顔でそう答えた。


「ふむ……まぁ、互いに良い戦いをしよう!」


「そうじゃのぉ。儂もそれが良い」


2人が軽く雑談をしている頃、試合開始のカウントダウンが始まる。


「まぁ、我は最初の1分間は手を抜こう。その後はすぐに試合を終わらそう」


「ほっほっほ。舐められたものじゃわい」


「だが、力量の差は、わかってるだろう?」


ブラドが鋭い目つきでミチタカにそう投げかけると、ミチタカはなんと言おうか悩みつつ、頰をかきながら答えた。


「そうじゃの。図星じゃ。が……」


『それではぁぁぁぁぁ!!!喧嘩祭り第4回戦!!はぁぁぁじめえぇぇええ!!』


カウントダウンが終わり、実況が大声を張り上げ、試合開始のゴングが鳴り響く。

観客の歓声もピークに達し、戦いが始まる。


「負ける気は一切ないがのっ!」


試合のゴングが聞こえるやいなや、ミチタカはすぐに駆け出した。姿が追えないほどのスピードで、既にブラドの懐へ入り込んでいた。


当然ブラドはそれを目で追えていたのだが、防御の体勢をとることもなく、腕を組んだまま、自分の懐に入り込んでいるミチタカを見ている。


「貫手、雀蜂」


中指以外を折りたたみ、真っ直ぐ伸ばした中指で、ブラドの心臓を貫こうとするが、それはできなかった。


「はっ!」


ミチタカは怯むことなく、左手も同じ形にし、両手で絶え間なくブラドの心臓のある一点を集中して攻撃し続ける。


ブラドは反撃することなくそれを受けているが、ミチタカが数分間その攻撃を続けた後、やっと口を開いた。


「寸分の狂いもなく、一点を攻撃できているのは認めよう。いくら堅くとも一点を攻撃すればヒビが入り、いつか壊れると、そう思っているのだろう?」


ブラドは、気合いの声を出しながら、今でも攻撃を繰り返すミチタカを見据えて、続ける。


「だが、一切の傷がつくことがなければ、ヒビが入ることもない。その攻撃は、我にヒビを入れることはおろか、少しの傷すらも残せていない」


ミチタカはその声を聞き、微かに笑みを浮かべながら挑発するように言った。


「虚勢かのぉ?」


「事実だ」


ミチタカの繰り出した腕を掴み、ブラドは遠くへ投げた。ミチタカは空中で体勢を整え、何のことなく着地をする。


「その技しか持っていないわけではないだろう?もっと我を滾らせてくれ。でなければ、この祭りに参加した意味がない」


「ほっほっほ。そうじゃのお……」


「ご老人の体には酷なことだとは思うがな」


ブラドの言葉に、ミチタカは動きを止めた。


「そう言えば、先程から老人、老人と。儂の喋り方のせいでもあるが、お主は気づいておらんのか?」


「気づく?何にだ?」


「儂はお主の正体について勘付いてはおったのじゃが……」


ミチタカは、考えるように自分の顎髭を撫でると、ブラドにこう聞いた。


「お主、儂がいくつに見える?」


「はん?70〜いや、80歳ってところか?」


「そうじゃよなぁ……じゃが、儂の歳は数え年で24(・・)じゃ」


「はっ!バカ言うんじゃねぇ!!その見た目で……ん?いや、そうだ!流水拳!ご老人は流水拳の使い手。それも、本家(・・)だな?」


「ほぉ……本家を知っているとは、やはり知識がおありのようじゃな」


「あぁ!本家ともやりあったことがあるが、ご老人のように歳をとっており、もはや碌にその力を使えてはいなかったがな!」


「ほっほっほ。儂も寿命が近い(・・)、と思っているようじゃが……それは間違いじゃ」


「流水拳、またの名を、流()拳……か。残りの寿命で、どこまで我に爪を立てられる?」


「ほっほっほ。そう、お主の言う通り、流水拳とは命を糧に真価を発揮する」


流水拳。またの名を、流命拳。

ミチタカが収めているこの流派は、とても希少である。というのも、これを伝える者、伝えられる者も長生きをしないからである。


流命拳とは、自分の寿命を縮めることで、その分の力を授かれる。そしてその寿命は、まるで水のように流れ、浪費されることから、流水拳とも言われている。

そのようなことは永く(・・)生きているブラドも知っていた。


「だが見た所、使える寿命は残り数年といったところだろう?」


「ほっほっほ。お主、儂が何族(・・)に見えておるのじゃ?」


「人族……と言いたいところだが!だったらそんなこと聞くわけないものなぁ!何族だぁ?」


「ほっほっほ。聞いたら驚くじゃろうなぁ。儂の種族は、ハイエルフ(・・・・・)じゃよ」


「なに?」


それを聞き、ブラドは僅かに眉を上げた。

見た所、耳は短く、ハイエルフ特有の膨大な魔力といったものを感じることができない。


「お主の思うておることはわかっておるよ。魔力を感じず、耳も短いと……耳に関しては、ほれ」


ミチタカは長い白髪をかきあげ、耳を見せる。ミチタカの耳は歪な形をしていた。耳の上部が、不可思議な形をしているのだ。それはまるで、真っ直ぐに切られたものを、手で伸ばしたかのように丸くされているのだ。


「勘当、か?」


「その通り……魔力を全く持たず、余所者に教えを請いていた儂は、国をおわれた」


「なるほどなぁ。ははっ!だが、そんなことどうでもいいんだろう?!」


「その通り。こんな話全く興味ないじゃろうな。じゃが、儂の恐ろしさがわかったじゃろう?

……流水拳、命を流そう。ー500年ー」


「なっ!!」


ブラドはミチタカのそれを聞き、思わず距離をとってしまった。

それは、驚いたからではない。離れなければ、今の一瞬で大怪我を負わされる危険があったからだ。


「儂の見た目がじじいなのは、寿命が短いからではない……流水拳の真髄、それを5年で叩き込まれたからじゃ、よ!」


ミチタカが、ブラドの懐へ飛び込んだ。

先程の速さなど、赤子の歩みに見えてしまうほどの加速。そんなもの、ブラドにとっては変わらず、しっかりと見えている。


「掌底ー心臓破りー」


乾いた音が響き渡る。

ミチタカは微かに笑い、目の前の男を見上げる。


「初めて、儂の攻撃を防いだな?」


「ふんっ」


ミチタカの掌を、何倍にもしたような掌が、それを受け止めていた。


「認めよう。我の力を見せつけるに値する。と、

彼の地の混じり者(・・・・)よ」


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