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骸骨とひと時


第3試合が終わり、ティングはムルトの控え室へと向かっていた。


「具合はどうだ?」


ティングが部屋に入ると、白骨死体がベッドに横たわっている。その眼窩には青い炎が灯っていた。


「おぉ、ティング。先ほど目が覚めたばかりでな。まだ体が思うように動かない」


そう言って手を握ったり開いたりして見せるが、その動きはどこかぎごちなかった。

ティングは、そんな友の姿を見て少しだけ悲しくなったが、気になることがあった。


「ところで、なぜ服を身につけていないのだ?」


「む?あぁ。今日はもう戦うことはないし、ミナミのおかげで俺もお前も骨人族ということになっている。身につけていたものは全てハルカのアイテムボックスに入れてもらった」


「ほう」


部屋の中にはハルカとティアがいる。

ハルカはティングの視線に気づき、軽くお辞儀をする。ティアはムルトの骨格を遠い場所から凝視している。


「ふふ。やはりそれらは手放さないのだな」


「それはそうだ」


ムルトはローブや短剣、手袋にブーツと、身につけていたものをほとんど脱いでいる。

だが、首には青い月のネックレス。傍らには月光剣と仮面。側頭部には髑髏の耳飾りをしている。


「これらはとても大事なものだ。当然、皆からもらった短剣やブーツ、ローブもそうだが、特にこの2品はな……」


ベッドから手を伸ばし、立て掛けている月光剣に手を伸ばす。


「ティング、最後の方だけだったが、試合を見ていたぞ。実に良い試合だったと思う」


「おぉ。見ていてくれたか。ふふ、私も負けてしまうかもしれないとひやひやしていたよ」


「む?ロンドを押し出していたところを見るに、圧勝のようだったが?」


「いやいや。あそこでロンドが冷静であったならば負けていたかもしれない。影を捨て、私の手から逃れていたのならば、わからなかった。がしゃどくろを使っている時のわたしは動きが鈍くなってしまってな」


「そんな弱点があるのか」


「あぁ。無数の魂と心を通わせ、動かすのだ。意思を伝えるのが難しくてな、まだまだだ」


「そうか……」


ティングが簡単に自分の切り札の弱点をムルトに話すのは、それだけムルトを信頼している。ということだった。


「む?私に何か?」


ティングが横を見ると、いつの間にかティアが立っていた。


「……あなたも、モンスター?」


「あぁ。その通りだ。ワイトキングのティングだ」


ティングが太陽の仮面を外し、ティアにそう言う。


「……素敵な骨格。でもムルトには敵わない」


「はっはっは!そうだろうそうだろう!私はムルトに何1つ敵わぬよ!我が友にして最強のスケルトンだ!」


「よしてくれ。恥ずかしい」


大笑いするティングを横目に、ムルトは動きの鈍くなった体で恥ずかしそうに頬骨をかいた。


「あっ!第4回戦始まりますよ!」


モニターを見ていたハルカが声をかける。


「謎の男ブラドと、流水拳ミチタカか」


「俺も気になるな。何より、この2人には学ぶものが多そうだ」


「私もそう思うな」


「うむ。ハルカもティアも、学ばせてもらおう」


「はい!」


「……うん」


モニターの前に女子2人が集まり、ティングはムルトのベッドの横の椅子に腰を下ろし、ムルトは首を傾ける。


(ゴンがここにいないのが、少々寂しいな)


ティングはここまで旅を共にしたもう1人の友を思い出しながら、このゆったりとした優しい雰囲気を堪能した。





「……ロンド殿か。いかがなされた?」


ミチタカが入場口へ向かう途中、ロンドがそこにいた。壁に背中を預け、俯いている。


「……最後の頼みの綱はお前だ。ミチタカ」


「そうじゃなぁ。ジュウベエ殿も負けてしもうたし、ロンド殿も負けてしまったからのぉ。ほっほっほ」


ミチタカが茶化すようにそう言うと、ロンドは顔を上げ、鋭い目つきでミチタカを睨みつける。真っ赤に染まった目には怒りの炎が灯っているように見える。


「おぉ怖い怖い。そんな殺気を向けんでも」


「俺が負けようがどうでもいい。【聖龍の雫】が手に入るのならばな」


「ふむ……そうじゃのお。儂も金が手に入るのであれば、ロンド殿の負けも、ジュウベエ殿の負けも関係がないのぉ……じゃが」


ミチタカは飄々とした態度をとったが、ロンドの怒りはそんなことでは収まらないようだ。ミチタカはそんなロンドを尻目に入場口へと向かいながら、低く厳しい声でロンドへ言葉をかけた。


「相手に舐めてかかり、勝てる試合で負けておいて、頭が高すぎる気がするがのぉまだまだ青い小僧め」


「……貴様より数百年も年上だがな」


「ほっほっほ。生きている年数(・・)ではな。実質儂のほうが何千年も年上じゃぞ」


「……ちっ」


「まぁ任せておれ。相手が何者だかは薄々わかっている。流水拳で散ってゆこう」


「……本当に任せたぞ」


「ほっほっほ。大船に乗ったつもりで応援しておくれ」


ミチタカは、軽く手を振りながら入場口を抜けていった。




ミチタカとは逆の入場口。そこにはブラドと、ピンク色を基調とした装備に身を包む1人の女性がいた。


「お父さん、本当恥ずかしいんだからやめてよね」


「むっはっは!仕方あるまい!眠いものは眠いのだから!」


「もう。それで前回の喧嘩祭り参加できなかったの覚えてるでしょ?!」


ブラドはその女性の頭を何気ないように乱暴に撫でた。

女性はブラドのことをお父さんと呼び、ブラドもその女性への対応は娘を愛する父のように見える。


「むっはっは!!そうだったか?覚えとらん!!」


「もう……」


その女性はブラドが控え室で爆睡をしているという話を観客席で聞いていた。

自分の尊敬する父が公衆の面前でそんな姿を晒したのだから、顔を真っ赤にして怒るのも無理はない。


「それよりも我が娘よ!予選敗退とは参ったものだなぁ!」


大きな体に似合う大きな笑い声をあげながらブラドはそう言った。

女性は反論しようと体を前に傾けるが、すぐに冷静になり、腕を組み不満気に言葉を重ねる。


「……い、言い訳はしたくないけど、お父さん、私が氷魔法に弱いってこと、知ってるでしょ?」


「あぁ!我が娘の苦手なことならばなんでも知っている!そう!例えば好きな男性のタイプ」


「あぁもう!恥ずかしいからやめて!こんな調子で大丈夫かしら……」


仲睦まじく会話をする2人だが、急にブラドの顔が険しくなり、ある方角を見据え、女性へ注意した。


「むっはっは!!……それよりチェコよ、ここに向かっている群れのことだが……」


「えぇ。わかってるわ。喧嘩祭りには強い冒険者もいっぱいいるし、なんとかなるんじゃないかしら」


「ふん。そうだな。我が弾いた剣士も、散っていた参加者たちも、中々の粒ぞろいだ。そういえば気になるスケルトンがいたな。姫の仮面をつけた……」


思い出すように頭を唸らせるブラドだったが、深く考えることはなかった。

この大会には強者ばかりが集まっているというのはブラドの本心であり、その強さは認めていた。

ただ、それらは自分より弱すぎるとも。


「ま、それは私たちに任せておいて。お父さんは次の試合、絶対勝ってよね?」


「あぁ任せておけ!勝利は揺るがぬ!

この、ガロウス・グ・ドラゴニアの名においてな!」


ブラドは大きな大胸筋力一杯反らせ、自信満々に言った。

おちゃらけているようにも見えるが、揺るがぬことのない強さをブラドが持っていることに、かわりはない。

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