骸骨を心配する
コンコン
部屋のドアがノックされる。
「どうぞ」
声をかけたのはハルカだった。
ノックをした人物はその返事を聞いた後、ドアを開けた。
「ムルトはまだ目を覚まさないか」
部屋に入ってきたのは、太陽が描かれた仮面を被った全身がすっぽりと入るローブに身を包んだ男、ティングだった。
「はい。でも私たちのように後少しすれば目を覚ますと思います」
「そうか」
ハルカは自分の膝に頭をのせている自分の愛する男を見た。
試合が終わり、スタッフによって部屋に運ばれたムルト。
すぐに目を覚ますことはなく、ベッドに横にされたのだ。
いつも青い炎が揺らいでいた眼窩に、今それはない。寝ている時も同じようになっていることから、ムルトは今目を瞑っているようだった。
側から見ればただの白骨死体に見えるが、しっかりと生きている。肋骨の内部で怪しく光る宝玉だけがそれを示している。
(広がってる……)
ムルトはかつての戦いで無理をし、骨を変色させてしまったことがあった。
その時は宝玉接している背骨の少しと肋骨の根元が少し黒くなっていただけだが、今となってはそれが広がっている。
黒い部分が増え、ヒビのように黒い線が増えている。
「つ、次はティングさんの試合ですよね」
ハルカは不安になる気持ちを宥めながらティングにそう話しかけた。なんのこともなさそうなティングは腕を組み、それに答える。
「あぁ。相手はロンドだったか?相手にとって不足はない」
「きっとお強いですから、気をつけてくださいね」
「あぁ。心配するな……ふむ」
「……何」
ティングは頭をかきながら、同じ部屋にいるティアを見た。
ティアはムルトがステージから運ばれているところを見て、すぐにムルトの部屋へと向かった。そこには既にハルカがいたが、関係ない。
ハルカと共にムルトへ寄り添ってくれている。
「いや、あなたを見ていると、こう、何かぞわぞわするのだ」
「……それはあなたが不死者だから。私は死霊術師。不死者を殺すことも生かすこともできる」
「天敵、か」
「……敵だったらね」
そう言うティアはティングは向けての敵意など一切ない。
テンションが低いのはいつもの彼女の性格なので、よくわからないが、少なくともティングというモンスターへの偏見はない。というか元々ティアにモンスターへの偏見はない。
ただ襲ってくるものならば反撃をし、何もしてこないであれば場合によっては襲わない。
「ふふ、心強いよ」
「……あなたが死んでも、私が使う」
「是非そうしてくれ……っと、そろそろ時間になる。私は行ってくるよ」
「はい。ティングさん、頑張ってくださいね」
「あぁ。ムルトに私の勇姿を見せられないのは残念だが、全力を出すよ」
「ティングさんの頑張りは私たちも見てるので、大丈夫ですよ」
「ふふ、ありがとう。それでは行くよ」
「はい。行ってらっしゃいませ」
ティングは軽く手を振りながら部屋を出ていった。
足音が離れる中、ティアがハルカに近づいてくる。
「ティアちゃん?どうしたの?」
ティアはすぐには答えず、部屋をキョロキョロと見渡しながら少し考え、口を開いた。
「……魂が少ない。怯えてる」
「それはどういう?」
「悪意のある魂が集ってる。歩いてる。気をつけたほうがいいかもしれない」
「?……わかりました」
ティアの言うことはイマイチわからなかったハルカだが、何かが起こるのだろうことはわかった。
(そっか、次戦うのはティングさんだもんね)
ティングの使う魔法は死霊術に似ている。
魂などを使いモンスターに付与し、それを使役する。
ワイトキングとしての戦い方がそうなのだ。
だから周りのゴーストを使うこともある。
ただ、それは悪意なのか……
モニターから歓声が聞こえた。
ティングとロンドが出揃っているようだ。
今回の試合も繰り上げで、4回戦目を3回戦に持ってきた。
ブラドは未だ目を覚まさぬようで、ミチタカは自室でずっと精神統一をしているらしい。
「ティングさん、頑張ってください……」
自分の膝にのっている頭蓋骨を撫でながら、かつての恩人の勝利を願った。
喧嘩祭り、第3回戦が始まる。
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