予選Bブロック2/5
「ふっ!はっ!んっ!!」
ダンはなおもティングに向けて攻撃を仕掛けているが、ティングはそれを風のように避けている。
「なぜ反撃してこないっ!!」
「ムルトの友人を傷つけたくはない。残り数人にもなれば戦うこととはなるが……ー指弾ー」
ティングは指の骨を銃弾のように弾き、ダンを後ろから襲おうとしていたものを倒した。
「確かに、ムルトの友人と戦うのは俺もあまり……」
「そうだろう。それよりもあれだ」
ダンとティングが戦うのをやめ、ティングが一方向へ指をさす。そこには、物凄い形相で走り抜け、すれ違う者の首や頭を捩じ切っている初老の男性が見えた。コルキンだ。
「相当な手練れだ。もう1人の大男と戦っていた気がするが、それはあっちにいるようだ」
コルキンの後ろに頭だけ見える大男、ジュウベエはその大剣を振り回しながら、コルキンと同じように無差別に参加者を殺し回っているようだ。
「あちらはあちらで大混乱のようだ」
「って、おい、あいつはどうするんだ?」
「我々で対処するしかないだろう」
「俺じゃあいつに勝てないぞ」
「1人では、な。ダン、あなたは良い目をしている」
「い、いきなりなんだよ」
「あの人の攻撃を見抜くことはできると思う。ムルトの骨ならばきっと耐えられるだろう」
「ティングはどうする」
「俺が前線に出よう。ダンはカバーを頼む」
「勝てると思うのか?」
「勝てるさ」
ティングはそう言うと、大声を上げる。それは自分とダンだけではなく、周りにいる者達を奮い立たせる。
「心折れぬ強き者達よ!!あれを見てもまだ戦う意思があるのであれば!共に腕を振り上げようぞ!!1人1人で敵わなくとも、力を合わせれば勝てる!さぁ、共にゆくぞ!!」
「「「うおおぉぉぉぉおぉぉぉ!!!」」」
周りの参加者達が、剣を、鎧を叩き合いながら雄叫びをあげた。
そうしているうちに、コルキンはすぐ近くに来ていたが、ティング達を見て、立ち止まっていた。
「中々骨のあるやつもいるじゃねぇか」
「ふふふ」
「な、なんだよ」
それを聞いてティングは思わず笑ってしまった。
「骨しかないな、と思ってな。ふふ、冗談だ」
そう返しながら、ティングは両手を広げる。
「無粋にも多対一、許してくれ」
「なぁに、この程度の数、まだ少ない方さ」
「いや、もっと増えるぞ」
「何?」
ティングは広げた両腕に魔力を凝縮し、それを放出させた。
「ー不死者達の曲芸団、殺戮の時間ー 」
大小様々な赤黒いアンデッドがティングの作った魔法陣から次々と溢れ出し、共に共闘する参加者達と並ぶ。
「我らを一度に相手取るのは、骨が折れるぞ?」
「はっ!冗談だなっ!」
コルキンは走り出し、ティング達へと迫り、その拳をティングの顔面めがけ振り抜いた。
★
ダンとティング、コルキン達が戦いだした頃、ジュウベエが暴れている方にも動きがあった。
「はぁ〜めんどくさいなぁ」
ボーッと立ちながら、周りが次々に死んでいく姿を見守る青年がいる。
髪はボサボサ、目は眠たそうに半開き、腰にはそんな彼とは似つかない大層貴重そうな剣が提げられている。
「腕試しになるからって連れてこられたけど……お爺ちゃんは他のブロックだし負けてもいいかなぁ」
彼はやる気もなく、ステージの中を歩く。
周りの参加者は、そこに彼がいることなど知らないように戦い続けている。
「でもお爺ちゃんが『この大会で予選も突破できないようでは、その剣をやれない』って言ってたんだよなぁ」
腰に提げている剣を見ながらそんなことを考える。彼はめんどくさがりで、やりたいこと以外はやりたくないという人間だが、師である祖父には尊敬の念を抱き、自分が使っている剣1本1本にも敬意と愛を持って接している。
「……予選なんて楽に突破できそうだけどなぁ……」
ため息をつきながら、下を向いてしまった彼に、丸太のように大きな剣が振り落とされる。
大きな金属がぶつかり合うような音がその場を包み込んだ。丸太のような大きな大剣、ジュウベエの剣は空中で静止している。
「ほぉ!1日に2度も私の剣が止められるなんてなぁ!!やはり喧嘩祭り!猛者ばかりで血が滾る!!」
「うるさいなぁ……」
先ほどまでやる気のカケラもなかった彼が、いつの間にか剣を抜きはなち、片手でジュウベエの剣を止めていた。
「お主、名は?」
「……ダイチ」
「ダイチ、行くぞ!!」
「はぁ、めんどくさいなぁ」
ジュウベエは大剣を戻し、フルスイングをダイチへ向けて放つ。
ダイチは持っていた剣を両手持ちにし、自分の左側から迫ってくるその剣を受けた。
「ほぉ」
凄まじい音がし、衝撃が辺りにも伝わる。だがダイチは一歩も引くことなく、その場に立っている。
「膂力も気迫も十分。ここまで有望な冒険者を俺が知らないとはな」
「別に、俺は冒険者じゃないし」
「ほぉ?益々期待ができる!!」
ジュウベエが大剣を持ち上げ、ダイチは頭上からの兜割りを仕掛けてくるのだと考えた。
(でかい図体にでかい剣、パワーはあるようだけど、動きは鈍い……)
ダイチは、ジュウベエが剣を持ち上げている間に懐へと入ろうとする。
2人の距離は短く、ダイチは姿勢を低くし、死角へ入り、容易に懐へと入ることができるかにも見えた。
「ふん。決めつけはよくない」
ダイチの頭上から声が聞こえる。
ジュウベエの両手は剣を持っているはずだった。だが今目の前に壁のような平手があり、それがダイチへと襲い掛かった。
「んぁっ!!」
張り手のように繰り出されたそれはダイチを吹き飛ばした。ダイチは何回かバウンドし、地面に剣を突き立て勢いを止める。
「次への動きが遅い!!」
前を向くと、先ほどと同じような距離にジュウベエがいる。剣を引き、思い切り突きを放とうとしているところだった。
(くっ……!いや、折れるっ)
その突きを剣で止めようとしたダイチだったが、本能的に感じたそれで剣で受け止めることはなかった。全身に力をいれ、膝と腰を折る。
間一髪のところで仰け反り、その攻撃を躱し、剣を蹴り上げた。
「しっ!」
その勢いを殺さぬまま後ろへと避けていく。
ジュウベエはすでに剣を戻し構えていた。
「ダイチ、お主の考えていることはわかる。この体にこの剣、パワーはあるが、スピードはない。そう思っているな?」
「はぁ、はぁ、はぁ」
「そしてこの攻撃を受け考えを改めた。パワーだけでなく、スピードもある。と」
「はぁ……」
ダイチは息を整え、剣を鞘へと納め、さっきまでの気だるさなどまるでないかのように柄を握りしめる。
「本気を出すのか?」
「……疲れるんだよな」
ダイチは最後の弱音を吐いた。だがジュウベエには、本気を出そうと思った。それは剣士として、1人の男としてだ。
ダイチの全身が魔力に包まれる。
炎のように飛び出していた魔力が静まり、体へと馴染んでいく。
ゆっくりと剣を引き抜き、静かに構えた。
ダイチの体と剣には、魔力が薄い膜のように張られていた。
(身体強化も、剣に魔力を纏わせることなく、さっきの俺の一撃を耐えたのか……)
それが、どれほどの実力を持てばできるかなど、ジュウベエが1番よくわかっている。
さっきまでめんどくさがって戦っていた男などどこにもいなかった。
そこには剣士として、上を目指すものとしてジュウベエを切ろうとしている男の姿がある。
(とんだ化け物がいたなぁ)
「剣者が弟子、剣士ダイチ全力を持って相手をさせていただく」
「……紅鬼ジュウベエ、全力を持って受けさせてもらおう」
互いに名乗り、互いに構える。
(コルキン……すまねぇが戦えないかもしれねぇ)
ジュウベエは先ほどまで殺し合いをしていた手練れの相手を思い出していた。
自分よりも強いかもしれない者が目の前にいるのだ。
だがそんなことは関係ない。自分も魔力を纏い、纏わせ、柄を固く握りしめる。
「行くぞおおぉおおおぉおぉお!!!」
「来い!!!」
Bブロックの参加者達は段々と数を減らしていき、ほとんど少数になっていた。
いつもありがとうございます
 




