傲慢の罪
彼は突然変異をしたグリフォンだった。
鷹の頭を持ち、獅子の体を持つモンスターのグリフォン。
本来はそうなるはずだったが、彼は鷹の頭に獅子の体、それに蛇の尻尾に人の手足を持ち合わせていた。
端的に言って異形、その姿は仲間たちから嫌われ、いじめられていた。
だが彼の体は仲間たちよりずっと頑丈で、知識もあった。体から生えている手足を使い、器用に服や武器を作り、戦えるほどまでに。
彼は当初からいじめてくるものを退けては、返り討ちにしていた。
いつしか彼は慢心をしていた。それも負ける日までずっと、そして傲慢の罪を手に入れる。彼は自分の体を変化させることに気がつき、動きやすい体へと変化させた。鷹の頭に獅子の体、しかしその形は、人間のものと同じだった。
さらに武器と装備を強化し、自分を虐げていた仲間たちを全て打ち滅ぼし、傲慢の大罪になった。
それからは早い。自分が生まれ育った森から出て、旅をした。
出会う人間にはチャンスを与えた。
『我に一撃加えてみろ』
少しでも体に傷をつけられるものがいれば逃した。
そうでない者には……
『武器を捨てるか、命を捨てるか、選べ』
命が惜しい者や戦うことのできない商人は武器を渡していたが、そうでない者もいた。思い入れのある武器、高い値で買った武器、仲間と共に戦いを決めた者たち。
その者たちは命を代償として払うことになっていた。
傲慢の大罪に負けはなく、逃しはしても殺されることはなかった。
向かってくる者の命を奪い続け、慢心はさらに大きくなる。それだけ力も増大していっていた。
だが、とうとうその日は来る。
彼の目の前を少年が通る。
『止まれ』
彼は、最悪のモノを引き止めてしまった。
★
彼は特別な力を持つ天魔族だった。
天魔族特有の浅黒い肌に、真っ黒な目玉に紫の目、そして翼は特別な力を持つ者が生えるといわれている腰に、同じような時期に2人目の腰羽持ちの内、1人目の幼児が誕生したのだ。
(ここは……?)
彼が産まれた時、産声をあげなかったことで、出産に立ち会った者全員が慌てた。背中をさすり、喉に何かが詰まっていないかと出させようとしたり、体を拭ったり、魔法でどこか悪い場所がないか探したりなどだ。
だが彼の体に悪い箇所はどこも見つからなかった。天魔族は成長が早い。彼はすでに自我を持ち、落ち着いた男の子、ということで収まった。
天魔族達の予想通り、彼は自我を持っていた。そしてもうひとつ。前世の記憶も持っていた。
(僕は確か山の中で……)
自分がどのようにして死んだかを朧気にだが思い出す。
彼は腰羽持ちということもあり、大切に育てられていた。生後1時間で言葉を喋り、2時間で魔法を扱えた。
「すごいわ!あなた!」
「あぁ!本当にすごい!自慢の息子だぞ!」
「うん!ありがとう!!」
産まれたばかりの彼はすでに溢れるほどの愛に包まれていた。それは前世にはなかったもの、彼は感動をしていたが、すぐに思う。
(はぁ……つまらないなぁ……)
彼は思い出す。前世で楽しんでいたことを……
そしてその晩、彼はすぐに歯を生やし、乳を吸うよりも先に、食べ物を食べることになった。
そして彼が授かった特別な力を知る。
(悪食……?)
ゲームのウィンドウのようなものが彼の目の前に現れる。それはステータスの選択肢だった。彼の家族には見えていないようだ。
(スキル取得選択……)
猪の肉を食べた時、それは出てきた。
突進、牙突、スタミナUP、牙、皮……
その猪が有してるものが出てくる。
彼は何気なく印象の強い牙を選ぶ。
そしてそれを自分の体へと反映させた。
彼の鼻の端から、雄々しく鋭い牙が生えてくる
「リク!どうしたの?!」
「あ、あぁ母さん、これは、その……」
「まさか、それがあなたの力?」
「うん。そうみたい」
彼の親子は我が事のように大喜び。
(ステータス……ふーん。【悪食】か)
食べたもののスキルや身体的特徴を1つだけ自分のものにすることができる。だがそれは食べた個体につき1つ。例えば鶏の胸肉を食べて能力を手に入れたら、手羽先を食べても能力は手に入らない。というものだ。
「ねぇ、母さん、父さん」
「なんだいリク」
「僕も翼があるんだから飛べるんだよね」
「あぁ飛べるようになるぞ!」
リクは翼をバサバサとし、飛ぼうとするが、体を浮かすことすらもできなかった。
「ははは、そう急ぐなリク、産まれたばかりさ。リクはすぐに喋れて考えて食事をできるだけでもすごいんだぞ?」
「えぇそうよ。あ、でもフローラ様は産まれた頃から飛べるって言ってたけど」
「あぁ、産まれた時から翼が6枚あったらしいからな」
「じゃあ僕も翼があればすぐに飛べるの?」
「あぁそうかもしれないな。でも、練習すればすぐに飛べるようになるさ、もしかしたら、翼も生えてくるかもしれない!」
「でも僕は今すぐ飛びたいんだよなぁ〜」
その時リクは考えてはいけないことを考えた。
(そうだ……この能力を使えば……)
リクは自分の能力を思い出す。悪食という恐ろしいスキルを
その晩、リクの両親はいなくなった。
前世でもしていたことを、現世でもやってみた。
「うわぁすごい!本当に飛べた!」
6枚の翼をバタつかせながらリクは部屋の中を飛んでいる。鏡に映った赤く塗れた自分を見て思う。
「神様みたいだぁ……あ、でも神様ってもっと羽があるよね……う〜ん。あ!そうだ!」
リクは恐ろしいことを思いつき、それを実行してしまう。
★
夥しいほどの翼を生やした少年は、肉塊の上で目玉を咀嚼していた。
「う〜んいっぱいスキルがあって迷うなぁ〜」
少年は手を休めることなく肉塊を次々と腹の中へと収めていく。
「ー吸収ーっと」
地面や木々に飛び散っている肉片や血なども、手に入れたスキルを使い余すことなく体に取り込んでいく。
どのスキルを取ろうかと悩んでいる少年、リクはあるスキルに目を止めた
「傲慢の大罪……?大罪って言ったらやっぱり七つの大罪?」
前世の世界でも漫画などになっていた七つの大罪の1つ、傲慢、彼は目新しく、今までにみたことないスキルだったため、興味をもった。
「これがいいよね」
リクは数あるスキルの中から傲慢の大罪を選択する。ステータスウィンドウが消え、確かに力が漲ってくることを確認する。
「これはすごい……これでまた強くなったね。ま、僕に勝てる人なんていないと思うけど!」
血の一滴も残すことなく平らげたリクは翼を広げ、大空へと舞っていく
「次はどっちに行こうかなぁ〜……ん?なんかあっちは嫌な感じがするな……」
空を見渡し、リクは嫌なものを感じる。
それが大罪スキルとは対をなす、美徳スキルだということをリクは知らない。
「こっちに行ってみよー!」
嫌な感じがする方角とは逆にリクは飛んで行った。
大きな悪が、世界が震え上がるほどの鼓動を、脈打ち始めていた。
いつもありがとうございます。
ちなみに傲慢の大罪前任者の種族名は、慢力の混獣王です。




