骸骨への贈り物
そして翌日、俺たちは謁見の間に来ていた。
俺とハルカは片膝をつき、頭を下げている。
謁見の間にいるエルフは、初日と変わらず、ハック、クルシュのハイエルフに、ミカイルやバルギークなどのエルフ、そして初日にも残った衛兵が2人だ。
俺は仮面とフードを脱いでいた。
「面をあげよ」
ジルが重々しく口を開く。
初日の謁見ではない謁見とは違い、こちらは正式な謁見になっている。
ジルの隣に立つミカイルも、席についている各々のエルフも、凄まじい緊張感を抱いているようだ。
「ムルトくん。これから出発だというのに、呼び立ててすまないな。仰々しい見送りなどはあまり好まぬと思い、そのまま見送ろうと思ったのじゃが、やはり別れの挨拶はしたいと思ってな」
「一国の王が軽々しく謝罪するものではな……ありま……ない」
正直、丁寧な言葉、こういった場に適している喋り方をよくわかっていない。
受け答えがたどたどしくなってしまう。
「ほっほっほ。ムルトくんとハルカちゃんは楽にしてもらって構わん」
「すまない。そうしていただく」
「じゃが、また同じような機会もあるだろう。勉強はしておくようにの」
「あぁ」
俺とハルカは幾分も楽になったが、周りのエルフ達は、以前緊張感に包まれている。
よくよく感じ取れば、ジルが微かに殺気を漏らしているようだ。
「ジル、解いてやってはどうだろうか」
「気づいたか……わかった」
殺気が霧散していくが、微かに残しているようだ。
「……別に俺は構わないが」
「ほっほっほ。さて、本題に移ろうかの。昼にはここを出発できるよう進めよう。まずは別れの挨拶からじゃな。それでは、バルギークから」
それから、順々に、一人一人の別れの言葉が告げられる。バルギークが大きな声で泣き、ファッセが目元を潤ませ、クルシュがおやつにとパンを持たせてくれ、ハックが別れの歌を歌う。
先ほどまでの緊張感など、あってなかったかのように、各人が自由にしている。
「ムルトさん」
「あぁ」
そして残すところ、ミカイルとジルになった
「正直、紹介状を読んだ時、モンスターなどが世界樹などと思ってしまいました」
「ははは。当然だ」
「ですが、ムルトさんは私の思っているモンスターと全く違いました。考え方も、生き方も」
「俺はモンスターであってモンスターではないからな」
「ムルトさんをこの国に出迎え、救っていただき、お風呂やお買い物にも行きました」
ジルの隣で毅然とした姿勢を維持しているミカイルの目から、一筋の涙が流れる。
声を震わせることもなく、ミカイルは話を続ける。
「女を捨てた私ですが、こんな方と添い遂げたいと思ってしまいました。客人にこんなことを考えてしまう私は、外交官として失格ですが」
「何を思うも考えるも、その人物の自由だ。俺は否定しない」
「私はムルトさんを慕っています。もちろんジル陛下も。旅についていくことはできません。ですが、毎日、ずっと、これからもムルトさん、ハルカさんの旅に安らぎと平和があることをこのエルフの国から祈っております」
「ありがとう」
ミカイルの目からは、止め処なく涙が溢れていた。その涙を拭うすることもせず、ただただ、立っている。それがミカイルの職務であり、誇りなのだろう。
「さて、最後に儂からじゃが……ここで言うことは特にない。昨日話したこと、忘れるでないぞ」
「あぁ。避けては通らん。信じていてくれ」
「うむ。それでよし、それでは、ミカイル。例のものを」
「はい」
ミカイルは未だに涙を流したまま、袖へと消えて行き、すぐに戻ってくる。
その手にはローブと小瓶があった。
「まずはこのローブじゃが、儂らは『心身守りの外套』と名付けた。ムルトくんが注文した胃袋と同じ素材で作られている」
ミカイルがそのローブを広げる。
「ムルトくんが好きな月とは同じ色ではないが、それに近い色にしてみた。魔眼耐性に状態異常耐性、精神魔法耐性、色々ついている」
心身守りの外套の色は深い藍色だ。なんとか青に近くしてくれたのだろう。
「耐久性、防御力、特に付与をしなくても十分なほどの性能を持っている。よって、代わりにムルトくんの助けになるような魔法を付与させていただいた。説明はファッセから」
「はい陛下。早速説明させていただくわ。知ってると思うけど、私の得意魔法は幻惑魔法。その幻惑魔法の特性を活かした魔法をローブに付与させてもらったわ。その魔法は、簡単に言えば阻害魔法よ」
「何を阻害するのだ?」
「そうね。着ているものの顔を見たいだとか、脱いでもらいたいだとかの好奇心っていうのかしら、そういったものを湧きにくくさせるの」
「おぉなるほど、それはいいかもしれないな」
「街の門を通る時なんかに便利かもね。ローブの説明はこれで終わり。次はこの小瓶」
ファッセは小瓶をミカイルから受け取り、それを見せた。
小瓶の中には、ピンク色の液体のようなものが入っている
「この瓶の中には、私の幻惑魔法が入っているわ」
「なんと」
「でも、一回分だけよ。それにこれはそんなに大量に生産できるものでもないの。使い方は簡単よ。瓶を砕いて魔法をイメージするだけ。人を自分のものにしたいだとか、幻影を見せたいだとか、用途は色々。ムルトの想像力次第よ」
「なるほど……それを使えば、相手に自分の姿を誤認させることも?」
「えぇ。そう使ってほしくてこれをエルフからの贈り物として渡すわ。人の姿に化けられるのは時間にして1時間にも満たないし、明確なイメージが大切だけど、ムルトなら大丈夫だと思うわ」
ローブと瓶を受け取り、早速ローブを羽織った。藍色のローブは俺によく似合う。
よくよく見ると、葉っぱの模様が袖についていて、ちょっとしたオシャレになっている。
「これは前留に持っているとよい」
それは、この国に滞在していた時ずっとつけていたブローチによく似ていた。
少し形などは変わっているが、それでも高価そうだ。
「ありがたくもらっていこう」
「あぁムルトくん。達者でな」
「本当に世話になった。感謝する」
「お世話になりました! 」
本当に世話になった。心からの感謝を言い、エルフの国での最後の謁見は終わった
いつもありがとうございます!
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