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骸骨との思い出


「ムルトよ。此度の活躍見事であった。よって褒賞を授けたい思うのだが、何か欲しいものはあるか?」


「私は当然のことをしたまでだ。これから滞在を許してもらえ、案内もしてくれるのだろう?なら、今回の危機は私も協力するのは当たり前だ」


「と言ってものぉ……」


俺たちは今謁見の間にいる。

ローブや仮面をしっかりと被ってはいるが、謁見の間にいるエルフは、あの時残った者たちだけである。


「本当に大丈夫だ。金には困っていないし、何が欲しいというものもない」


「何も与えないというのもなぁ。角の生えたスケルトンはお主でなければ討伐できない能力だったと聞いた。お主がいなければエルフの国は今日でなくなってしまったかもしれぬのだ」


「そこまで言うのであれば……そうだな」


「お?何かあるのか?」


俺は昨晩のことを思い出す。金もあれば武器や装備にも困ってはいない。だが、最近これだけは嫌だと思ったことがある。


「滞在する家は、月の見える場所がいい」


「ほえ?」


謁見の間に、微妙な空気が流れた。




「それでは、ムルトさん達に滞在していただく家はこちらとなります」


「あぁ。感謝する」


「それでは、通信木板をどうぞ。夜8時ほどにお迎えにあがりますね」


「あぁ。頼んだ」


「はい。それでは、自由に過ごしていただいて構いませんので」


そう言って、俺たちを滞在する家へと案内してくれたミカイルは頭を下げ、城に戻るようだ。

移動したきた家はとても大きかった。

だが、この家でも月を見ることはできないらしい。まず、エルフの国にいる間は月は基本的に見れないと言われてしまった。それには理由があり、世界樹がこの国を覆っているからだ。太陽光や月の光は通すのに不思議だ。


しかし、月を見る方法はある。ジルが提案してくれたのは、月が見たくなれば、うちのミカイルを貸し出してやると言われたのだ。

世界樹の葉に覆われたこの国で月を見るためには、風魔法などを使い世界樹の上に出るしかないという。俺が風魔法を使えることを伝えると、「ほう。ならば好きな時に見るといい。このブローチを貸し出そう」そう言われ、矢と木が描かれた緑色のブローチを渡された。


「これはこれで見事だ」


この国の国旗のようなものらしく、これを持っていれば公式な客人、それも最高位の待遇者だということになるらしい。

このブローチをローブへとつける。


「まだまだ時間もあるし、市内を見て回りたいな」


「パーティはどうするのですか?」


「パーティも行くさ。時間までには戻ってこよう」


「はいっ」


家を移動してもらうだけでは足りない。仲を深めようということで、パーティが行われることになった。食事などもろもろはジルが出し、催しなどもあるらしい。俺のためにこの国特有の食事を出してくれると言ってくれた。そしてこの国の滞在期間もとりあえず無期限になっている。


ハルカとともに身支度をしていると、家のドアがノックされる。


「誰だ?」


少し乱暴になってしまったか、ドア越しに聞いた。


「私です。ミカイルです」


俺はドアを開け、ミカイルを部屋の中に入れる


「早いな、何か用か?」


「えぇ。それが、私がムルトさん専属の案内役となりまして、その、身の世話などを仰せつかりました」


「なるほど、丁度市内を見て回りたいと思っていたからありがたい。だが、そちらの仕事などは大丈夫なのか?」


「はい。しっかりと引き継いできましたよ。それに、何かあれば通信がきます。就寝時などはお隣の家で寝ることとなりましたので、ご安心ください」


「あぁそうか、それならば世話になる」


「いえいえ、当然のことですから。それで、市内を見て回るのでしたっけ?」


「あぁ。頼む」


「かしこまりました」


市内は徒歩で回ることにした




「ふわぁ。すごいですね!妖精の国みたいです!」


ハルカは辺りを見回して、無邪気に喜んだ。

俺も感動を隠せない。気分は小人だ。

大きな根がそこら中に這っており、その根の中や上などに店や家が立ち並んでいる。

エルフの人々も活気に満ち溢れている。


「妖精だなんて、嬉しいですね。エルフは自然と共に生きる種族なので、自然を大切にしながら家もお店も開いているのです」


「それにしてもあの家なんかはすごいな。枝一本で支えられているのではないか?」


「はい。魔法も施されてはいますが、世界樹の枝がほとんど支えているようなものです。あ、ムルトさん、ハルカさん」


「む?」


「エルフ名物、枝焼きです」


「枝焼き?」


ミカイルが手に持って来たのは、少し焦げている枝だった。


「はい。枝焼きです。見ての通り枝なのですが、食用の木がありまして、その木の枝を焼いて味付けしたものになります。美味しいですよ」


俺とハルカへとその枝焼きを手渡す。それを受け取り、一口頬張ってみる。


「いただこう……ふむ。これはなかなか」


枝焼きはコリコリとした食感なのだが、枝を焼いたからといって臭くもなく、逆に美味しいほどだった。甘辛いというのか、その香りもよく、例えるならば、ベーコンの噛み応えに、魚の身のような柔らかさだ。


「美味しいでしょう?人間にも輸出している一品ですよ」


「あぁ。なかなかうまい。いくらだ?金は払おう」


「いえ、もう払ってしまいました。それに、ムルトさんたちはお客人ですし、国を守っていただいた恩もあるので」


「そうか?だがそれではミカイルの懐が寂しくなるだろう」


「ふふふ、ご心配ありがとうございます。ですが、お金は国から支給されていますのでご安心を」


「ふむ、自分のものは自分で払うのだが……甘えさせていただく」


「はい。こちらとしてもその方が良いです」


他愛もない話をしながら、市中の探索をしていく。雑貨屋や飯屋が主だが、エルフの国でしか売っていない服など、ハルカに新しく買おうと思って、案内してもらっていた。


目の前に女のエルフがおり、俺を見つめ、近寄ってくる。


(この女は確か……)


エルフの城に向かう途中、馬車の中から見かけた女だ。強く美しくそして気高い、そんな印象を受けた。

ミカイルは俺に近づいてくる彼女を見て挨拶をする。


「こんにちはイレーナさん」


「こんにちはミカイルさん」


イレーナと呼ばれた彼女はミカイルに挨拶を返し、すぐに俺に直る。

その眼差しは悲しみか、喜びか、よくわからないものであった。


「あぁイレーナさん、ご紹介します。こちら」


「あなた、フォル?」


イレーナはミカイルの言葉を遮り、俺に問いかける。馬車の中からでも問いかけられたその名前に、俺は覚えがあった。


いつもありがとうございます

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