骸骨と角骸骨
「こいつです!」
数人のエルフが取り込む中に、そいつはいた。
角の生えたスケルトン。
真っ白な骨以外には何も身につけておらず、ただただよろよろと足を引きずるように歩みを進めている。
周りのエルフ達は少し離れたところに立ち、その様子を見ているだけだ
「のろのろじゃねぇか!一撃でぶっ壊してやるよ!」
バルギークが両の拳を打ち合わせ、そう言い放った。
「お待ちください!」
角の生えたスケルトンを取り囲んでいた1人が、バルギークを止めた。
「あぁん?俺があんなのろまに負けると思っているのか?」
「いえ、そのようなことは……た、ただバルギーク様では相性が悪すぎて……」
「あぁん?!そりゃどういう意味だぁ?!」
「今お見せします!」
暴れそうになるバルギークをミカイルが止め、バルギークに向かってそう言ったエルフが弓に矢をつがえ、角の生えたスケルトンに向けて放った。
スケルトンに向かってまっすぐ鋭く飛んでいく矢は、その頭蓋骨を砕こうと向かっていく。だが、それは叶わず、当たるべき頭蓋骨に当たる音も一切聞こえない。
それもそのはず、矢は頭蓋骨に当たる前に消え去ってしまったのだ。
「どういうことだ?」
「やつの足元を見てください」
指差した場所、スケルトンがよろよろと歩いている道は、周りの土と違い、黒ずんでいた。まるでそこだけ腐っているかのように
「矢がダメなら魔法を使え!」
「お見せしたほうが早いでしょう」
数人のエルフが手を前に出し、魔法を発動する。風の刃、炎の球、氷の杭、いくつもの魔法が先ほどの矢と同じようにスケルトンに迫る。だが、これも先ほどの矢のように消え去っていた。
「見ろバルギーク、やつの周り、魔力を微塵も感じない」
ミカイルがそう言い、俺は月読を使ってスケルトンを見る。
スケルトンからは1種類の魔力を感じるが、その周りには魔力を感じない。一定の範囲内の魔力をごっそり朽ちさせている。ということだろうか
「つまりあいつの能力はどんなものなんだ?」
「腐食、だろうか。やつが触れるものは朽ちてその存在を消す」
「矢も魔法も剣も、素手で攻撃した者はこうなりました」
悲痛に顔を歪めたエルフがいた。
肘から先の肉が消えている。腕の骨が綺麗に姿を見せ、肘の少し上の肉は、溶けたように消えており、血がダラダラと流れている。
先ほどから攻撃などを加えているが、角の生えたスケルトンはそんなことお構いなしとらいったように、前へ前へとゆっくりではあるが、歩みを進めていた。
「剣もダメ、魔法もダメ、だったらどうする?」
「そうですね……」
「試したいことがあるのだが、よいだろうか」
「ムルト、何かあるのか?」
「あぁ。矢を一本くれ」
近くにいたエルフから矢を一本もらう。
そしてローブの中に手を入れ、肋骨の骨を一本取り出す。
「その骨は」
「あぁ。これは推測にすぎないが、なぜやつが装備や武器を持っていないかわかるか?」
「剣や矢が朽ちて消えたんだ。やつも同じようなものは使えないのだろう」
「あぁ。きっとそうだ。そしてあのエルフ、腕は失っていたが、骨は消えてなくなってはいなかった」
「あぁ、そういやぁ……」
そこまで話をし、借りた矢と俺の肋骨をそのスケルトンの道の途中に置く。
スケルトンがその上を歩いた時、矢は朽ちて形を失くしてしまったが、俺の骨は何の異常もなかった。
「あれを見ればわかる通り、やつは肉などを溶かすが、やつの体、骨などは溶かせないのだ」
「あぁ。そりゃそうなんだろうが、骨で戦うって言ってもな、骨の武器はねぇし、腕を失って骨で殴るとしても、腕を動かすための筋肉がねぇんじゃ戦えねぇだろ?」
「ははは、筋肉などなくとも動いている骨が今目の前にいるだろう?」
「……まさか」
「あぁ。そのまさかだ。俺がやつと戦おう」
俺はバルギークにそう答えた時
「つまりこの骨を使えば……おら!」
「おい!馬鹿野郎!勝手なことをするな!」
エルフの1人が俺の骨がなくならなかったことを確認し、その骨を拾い、風魔法で加速させ打ち出した肋骨をスケルトンの頭へと向けて放った。
大きな音を発し、そのスケルトンへ当たったことは確認できた。だが、当たったはずのスケルトンが目の前からいなくなっていた。
「や、やったか?!俺がやったぞ!」
俺の骨を打ち出したエルフが大きな声でそう叫ぶ。俺はゾクリと嫌な予感を覚え、思わず叫んでしまった。
「そこから離れろ!!」
「へ?がっ」
そのエルフの後ろから、角を生やしたスケルトンが現れ、そのエルフへと抱きついた。
抱きつかれたエルフは朽ちていく。エルフ1人を朽ちさせるからか、それとも苦しめているからかわからないが、ゆっくり、ゆっくりと朽ちていった。体の表面が溶け、滴る血もなく、目が窪み、眼球が零れ落ちる。だがそれは地面に落ちる前に、空中で消えた。残ったのは、エルフだった綺麗な骨だけだ。
「ひっ」
その惨状を見たエルフ達は皆恐怖を抱いた。きっとそれはミカイルやバルギークも例外ではない。
スケルトンはゆっくりと辺りを見回した。次の獲物を選んでいるかのように。
だがそれは気のせいのようで、またゆっくりと、足をひきづるかのように、ただただ歩き出した。
「手を出した者は……こうなる。か、骨は拾っておけ」
バルギークが部下に指示を出した。俺は剣や短剣を外し、それをハルカのアイテムボックスへと入れてもらう。
「ムルト、お前は客人だ。お前は俺たちを救う気があるんだろう。だが、戦うことは認められない」
「招いてくれた者達が危険に晒されているのだ。助けるものだろう」
「そうかもしれないが」
「どの道、やつと戦えるのは俺だけだろう」
「……」
「大丈夫だ。やつは抱きつくことしかしないようだ。安心してくれ、それより、人払いを頼む」
「……わかった」
バルギークは苦渋の決断というように、固く目をつぶった後、振り向いて大きな声で指示を出す
「こいつは俺たちが倒す!お前らは国に戻り、陛下にこのモンスターの情報を知らせろ!監視もいらない!ここに残るのは俺とミカイル、客人2名のみだ!その他はここに近づくことも許さん!」
「ですがバルギーク様」
強大な殺気、そして両の拳を打ち合わせる音がこの場を支配した。
「文句があるやつは前に出ろ」
バルギークの本気の殺気と顔はこの場にいる誰もを飲み込んだ
「……わかりました。バルギーク様、ミカイル様、ご武運を」
ここにいたエルフ、そして俺たちを連れてきたバルギークの部隊員たち全員がエルフの国へ向かって走っていった。
「さぁ、これで大丈夫だ」
「こちらへ近づいてくる者は私が対処します」
「モンスターは私が相手をしますね」
バルギーク、ミカイル、ハルカがここに残った。各々が武器を持ち警戒をする。だが、このモンスターと戦えるのは俺1人だ。
半月や短刀、腰袋にローブ、全てを脱ぎ、ハルカのアイテムボックスへとしまっていく。
最後に仮面を外し、何も身につけていない姿になる。
先ほど攻撃に使われた肋骨を拾い、元の場所へとはめた。
「やつの相手は、俺に任せろ」
世界樹の枝葉に覆われた空が顔を出しており、本物か偽物かわからない太陽が、惜しげも無く俺とやつを照らしている。
真っ白な骨の体をもつ2体のスケルトン、向かい合わせで立っている。違いがあるのは、頭に角があるかないか、肋骨の中に怪しく光る宝玉があるかどうかだけだ。
「さぁ、ゆくぞ!」
返事もしない敵に、俺は飛び込んだ
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