骸骨と2つの罪
いつもありがとうございます
「チッ、今度ワ誰ダ」
カグヤへと迫っていた剣が止まった。
俺が間に合ったわけでも、カグヤが何かしたわけでもない。奴の剣には、太い鞭が巻きついていた
「慈愛の巫女を殺させるわけにはいかないのよね」
いつの間にか、ラマが屋根の上から鞭を伸ばし、奴の剣を止めていた。
「うぉぉおぉぉお!!」
俺はそれを理解しても足を止めず、真っ直ぐに奴の元へ走る。魔力を足と腕へ込め、渾身の一撃を叩き込むために
身体強化をし、拳を握りしめ、奴の顔面に拳を叩き込もうとしたのだが
「遅イ」
奴は剣を掴んだまま、体を捻って避け、裏拳を俺に叩き込む。だが、その動きは俺に見えている。赤い魔力は、目にも纏わせており、月読を強化し、数段効力を増している。
俺は体を回転させ、奴の裏拳を避け、その勢いを使って、身体強化、カウンター、そして赤い魔力を纏った拳を、奴の顔面へと叩き込んだ
「グオッ」
渾身の一撃をお見舞いした。俺と奴は静止する。どちらも倒れていない。
「カグヤ!逃げろ!」
「は、はい!申し訳ありません!」
俺は嫌な予感がした。
気をぬく事なく、動かない奴を注視する。ラマも同様だ。鞭を掴んでいるその腕から力を抜いてはいない
「……クモ」
「ぬ?」
「……ヨク、モ、ヨクモヨクモヨクモォォォォオオオオ!!!」
瞬間、奴が吠える
「フンッ!!」
奴が力任せに腕を振る。その腕は、剣を持っている方の腕だ。奴の攻撃を止めたラマは、その、引っ張る力に勝てず、体を宙に投げ出されてしまう
「えっ?!」
ラマの判断は早かった。奴の剣に巻きつかせていた鞭を手放し、新しい鞭を出し、窓枠に鞭を伸ばし、そちらへ移動した。
俺もモブを回収するために距離をとり、奴を見守る
「ヨクモ、我ガ王ヨリ授カッタ、コノ、体オ……」
伏せていた体を起こす奴の顔は、陥没していた。
「貴様ラ!!許サンゾォォォォオオオオ!!!」
瞬間、奴が駆ける。俺の目はその姿を追うことができていた。できていたのだが、避けることはできなかった。鼻から下のなくなった頭蓋骨が、鬼の形相で突っ込んでくる
「なにっ?!」
俺はモブを盾にすることしかできなかった。
奴の剣が、俺の首を砕くために滑り込んでくる
俺はそれを間一髪でモブで防ぐ、だが、その破壊力は凄まじく、衝撃が手足にまで響く
「鞭の切り裂き魔」
2本の鞭が体に巻きつき、引き裂くように左右に別れるが、ギャリン、と大きな音が鳴ったのみで、奴の鎧を剥がすことはできなかった
「螺旋砲鞭」
2本の鞭がラマの手元に戻る前に、もう1つの鞭が奴の体に当たる。
渦巻きのように鞭がなっており、それが奴の鎧に当たると、しなった
「はぁっ!」
俺は手足が痺れながらも、足払いをする。奴の体が少しだけ浮いた瞬間、螺旋状になっていた鞭が、伸びた
「フンッ」
奴はその鞭が伸びた先まで吹っ飛ばされる。
ダメージはなさそうだったが、距離はとれた
「大丈夫?」
「あぁ」
「あいつが今回の主犯ね。私が来るまでよく足止めしたわね」
「あぁ。骨が折れたがな」
「他の冒険者はスケルトンの駆逐に向かってるわ。あなたもこの国の住民なら、この危機に気張りなさい」
「あぁ」
ラマは俺がスケルトンだということに気がついていないようだ。それもそのはず、ローブと仮面を被っているのだから
月光教が使うローブに、角の生えた仮面、手には背丈ほどもある長さの斧を持っている
「あなたランクは?」
「冒険者ランクはBだ」
「はぁ?!Bですって?!よくそのランクであいつを食い止められたわね」
「経験値の差さ」
「私の推定では、あいつSランク以上の強さを持っているわ。少なくともS1ランクはあるでしょうね……と、くるわよ」
奴が吹き飛ばされた場所の砂埃が晴れると、波のうった剣、フランベルジュ。
頭を守るように、変わった形をした鎧。
一歩一歩、恨みを増しながら、こちらへと歩いてくる
俺は身体強化をし、赤い魔力を更に纏う
「面白いわねあなたの仮面、赤くなった」
能天気にも、ラマはそんなことを言う。
(仮面が赤く?憤怒の魔力のせいか)
俺は手首を少しだけ見ると、手首も真っ赤に変わっていた。恐らく、骨が全て真っ赤になっているのだろう。憤怒の魔力を使うと、仮面から角が生え、体が赤く変色する
「呪いのようなものだ。気にするな」
「そう、わかったわ。ところで、あいつに勝つ算段はあるの?」
「あぁ、あるさ」
「聞かせてもらっても?」
「頭を砕く」
「そんなのアンデッド全体に言えることじゃない。どうやって仕留める気?」
「攻撃あるのみ!」
俺は走り出す。やつと比べると遅いだろう。が、攻撃力でいうならば、憤怒の魔力で底上げした力、そして身体強化で体を堅くしてある。攻撃が当たればさすがの奴でも通るはずだ
「はぁっ!!」
憤怒の魔力を、魔力操作でモブにも纏わせる。赤い魔力を吸ったモブの頭蓋骨の目に、赤い火が灯る
『ブモォォオオォオォ!!!』
それは、俺とモブの叫び、この一撃に、全てをかける。
奴は、避けることはしなかった。
右腕に持ったフランベルジュで、俺の渾身の一撃を止めたのだ
「アマリ……」
目にも留まらぬ速さで、モブを捌かれる。
その剣さばきに対応できず、腹がガラ空きになってしまう。そこに奴の前蹴りが叩き込まれる
「調子ニノルナ!!!」
また、吹き飛ばされる。
俺は思い出した。セルシアンとの戦いを、エルトとの戦いを
俺はあの2人に歯が立たなかった。
セルシアンに至っては知恵を使いなんとか勝てたが、エルトには圧倒的な力の前に蹂躙されてしまった。
もしもあそこで氷獄の姫が発動できていなければ、コットンが来ていなければ、俺とハルカは確実に死んでいた。
(俺は、無力だな……いや、力ならあるか)
胸にある宝玉、それは、力と呼ぶには十分すぎるほどのものがある。そして、俺には魔法だってある。灼熱魔法も、暗黒魔法も、使おうと思えば、使えるのだ。MPに余裕はある。体はまだ動く
(肋骨は……折れていない?)
奴に受けた前蹴りは、とてつもない衝撃だったはずだが、肋骨は折れていない。
そういえば、全身に憤怒の魔力を纏いながらも、少しだけ違和感があったのだ。
それは、奴に足を砕かれた後のことだ。
憤怒の魔力を纏わせ、なんとか砕けた足を繋ぎ止めることに成功した。だが、その後すぐにまた足を砕かれそうになったのだが、その時は砕かれなかった。
憤怒の魔力のおかげかとも思っていたが、憤怒の魔力は、単純に、力のみに特化している。
腕と足に纏えば、その分膂力が増し、繰り出す攻撃も力が増す。だが、防御力自体は上がらない。防御力は俺の持ち前のものとなってしまう。ならば、あの時俺の体を守ってくれたのは……?俺は思い出す。一度、体が赤でも白でもなく、紫になっていたことを、そこから、自ずと答えが、導かれる
★
「ホォ、随分ト見タ目ガ変ワッタナァ」
「強さも桁違いに変わったさ」
ムルトの仮面は、形を変えていた。
憤怒の魔力を使っている時は、仮面から角が生えてくる。では、もう1つの大罪、怠惰の魔力を使えばどうなるか、答えは、首狩りの悪魔騎士の目の前にいた
「ソノ仮面ノ下カラ生エテイルノワ、触手カ?」
ムルトがつけている仮面の上には、2本の角、仮面の下からは、10本の触手が、髭のように垂れている。そして、仮面の模様も変わっていた。月は青く、白かった部分が赤くなっている
「さぁ、仕切り直しだ」
黒い、口のような模様が、横に大きく開いていた
ムルトは、カグヤを、ハルカを救うために、首狩りの悪魔騎士へと、向かっていく




