骸骨と月の巫女
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朝日が天窓から微かに注ぎ込んでいる。
どうやらもう夜は空けてしまっているようだ。月欠の自己修復とも言えるものを行なっていたが、それは時間がたつごとに緩やかになっていった。
今は折れた部分が月の石によって完全にくっついているが、その部分が未だ歪な形をしている。
色も、以前のように全て透き通った青色ではなく、月の石が修復を行なっている部分のみが黒みがかっている。完全に融合はできていないということだろう。
俺は月欠を手に取り、まじまじと見つめる。
微かに重さが増しているようだが、それも誤差の範囲だろう。
「おはようございます」
カグヤが現れる。
「早いな」
「朝の礼拝がありますから、ムルト様もどうですか?」
「是非参加させていただきたいな」
「構いませんよ。剣のほうはどうですか?」
俺は月欠を持ち、カグヤに見えるよう持ち上げる
「ご覧の通りだ。あと一晩もあればなんとかなるのではないのか?」
「あと、一晩ですか……」
「む?何かあるのか?……早くここを出て行った方がいいか」
「この教会には、いつまでもいていただいて結構なのですが、この国に留まるのはムルト様にとって良いとは言えません」
「人族至上主義か」
「はい」
カグヤは申し訳なさそうな顔をして、下を向いてしまう。
俺は月欠けを鞘に納め、軽くカグヤの肩を叩いた
「なるようになる。まずは礼拝をして、心を落ち着けようではないか」
「そうですね」
俺はカグヤの手を引き、礼拝堂へと向かった
★
「それでは、朝の礼拝は、これにて終了とします。また夜に」
「「「はい」」」
朝の礼拝が終わった。
朝の礼拝は、30分間祈りを捧げるというものだ。目的としては、月が沈んだ朝に、今晩もまた、平和に月が昇りますように、とのことらしい。
「ムルト様、食事にしましょうか」
「あぁ」
教会内にある食堂へと連れていかれ、用意された席に着席する。
食事というのも、別段豪華なものではなく、野菜のスープにサラダ、黒パンと少量の肉だ。教徒としては普通と言えるだろう
「ムルト様、本日はいかがいたしましょうか」
食事は別に黙々と祈りを捧げながら食べるのではなく、各々談笑をしながら自由に食事を食べている。食べる前には当然、作物などに感謝を捧げていたが
「そうだなぁ、美しいものが見たい」
「美しいもの、ですか?」
「あぁ、月のように美しいもの、それか場所だろうか、観光名所と呼ばれる場所はあるか?」
「あるにはあるのですが……」
「あるのか、ならばそこに行ってみたいな」
「はい……行くだけいきましょうか。ですがムルト様には」
先ほどと同じように申し訳なさそうな、暗い顔をして、支度をするらしく俺は部屋へと連れていかれた
★
俺はカタカタと顎を鳴らす。
周りの人間たちは俺とカグヤを奇異な目で見ていた
「これが大聖堂です。王城の中にある、この国で一番大きな礼拝堂なのですが、奴隷などは入れなくて……」
今俺は、手を縄で縛られ、それをカグヤが引いている状態だ。
ローブは着ておらず、腰には月欠を差し、仮面はカグヤの懐に入っている
「なぜカグヤ様が奴隷を?」
「月の巫女も奴隷を従えるのか」
「あれはモンスターか?それとも……」
ヒソヒソと話し声が聞こえてくる。
俺には当然、カグヤにも聞こえているだろう。カグヤは俺に向かって少しだけ頭を下げ
「申し訳ありません、外を出歩くならばこのような手段しかとれず……」
俺は、「気にするな」と首を振りながらカタカタと顎を鳴らす
「ムルト様……胸の中に核があるので骨人族と言えなくもないので、その、喋っても、大丈夫、だと思います」
言いづらそうにカグヤが言ってくれた。
確かに、俺は傍目から見れば骨人族に見えるのだろう。顎を鳴らすのをやめ、喋る
「確かにそうだな……ふむ。入り口からして見事ではないか」
「私もこの国に住む者として、この聖堂は見事だと思います」
「入って見たかったが、仕方のないことだ」
「はい。私が至らないばかりに、申し訳ありません」
「俺がモンスターなのが悪いのだ」
「そ、そんなこと」
カグヤがそう言ったとき、石が俺に向かって投げられる
「バケモノー!」
小さな子供が俺に向かって石を投げてきたようだ。その子供の母親と思われる女性がすぐにその子供の頭をたたきこう言った
「コラ!月の巫女様に当たったらどうするの!」
「でも!バケモノが巫女様を食べようとしてる!」
「あの骨人は巫女様の奴隷なの!そんなことできるはずがないの!巫女様に当たらないようにしなさい!」
「はーい」
子供と母親の会話を見ていた。
子供が投げた石など、今のこの体には微塵もダメージがないだろう。そもそも、痛覚がないので痛みすら感じないはずなのだが
「カグヤの心配しかしていなかったな」
「当然と言えば、当然です。この国では、人以外は全て不純なものと捉えられています。
アンデッドは生者への冒涜の象徴となっています。骨人族の奴隷やテイムなども避けられているのです」
この国にも奴隷制度がある。この大聖堂にくるまですれ違った奴隷達は、ほぼ全ての者の体がボロボロだった。それは老若男女問わずだ。傷があまりない者もいたが、服の汚れ具合や肌のツヤを見ると、きっと最近奴隷にされたばかりの者に見える
「この国は、人以外が住むには、住みにくい国なのだな」
「……人間にとっても、住みにくい国ですよ」
「なぜだ?」
「この国には、密告制度があります。密告をした者の家、宗教などに情報料として奨励金が支払われます。人以外の者に手を差し伸べたり、交流を持ったりすれば……」
「処刑をされてしまう、と」
「はい。人々は、密告されるのが恐ろしく、亜人と関わりを持とうとしません。子供にも不幸が訪れぬよう、亜人は悪いものだと教育しているのです」
「そうなのか……カグヤの宗教ではモンスターを敵対視しないと言っているらしいが、それは大丈夫なのか?」
「はい。特例ではありますが、私は美徳のスキルを持っているので」
「アルテミス様が言っていた?」
「はい。大罪スキルとは対をなす美徳スキル。それに私は聖天魔法も使えるので」
「ほう。アンデッドには最終兵器として流用できるな」
「うふふ、私が最終兵器だなんて……つまり、私と私の教会は保護されているようなものなんです。ですが、私がもしあの教会を去ってしまえば……」
「ふむ、そう、だな」
カグヤのその言葉と顔で俺は察する。
カグヤがこの国、あの教会を去ってしまえば、聖国はモンスターを擁護する月の教会を潰そうとするだろう。それをさせていないのが、カグヤという人物なのだ。いわば抑止力とも言える
「ふふ、やはり最終兵器だな」
「だから違いますってばっ」
カグヤに笑顔が戻る。
「やはり、笑っている姿のほうが、お前らしい」
「えっ」
「お前は張り詰めすぎだ。アルテミス様のためにと、月の教会の皆のために、そして俺のために。人間とは、生き物というのは自由なものだ。お前も自分の好きなことを自由にやればいい」
「……」
「カグヤはどこか行きたい場所はないのか?」
「ですが私は……」
「遠慮するな。少量ではあるが金はある。私が出そう。一度教会に戻ることになるが」
カグヤはまた下を向いて考えてしまっていた。側から見れば、ロープで繋がれている奴隷に、主人が頭を下げているように見えるだろう。だが、カグヤということもあり、皆口出しなどもせず、避けている
カグヤは顔を上げ、初めて見る、嘘ではない嬉しそうな微笑みを浮かべて俺にこう言った
「私、パフェというのが食べてみたいです!」
「あぁ、行こう」
カグヤは俺と並び歩こうとしたが、声がかかる
「あらぁ〜慈愛の巫女様じゃな〜い」
「黒蝶、ラマ」
黒光りのする革の服を着て、白い毛皮をしている女性が立っている
「なぁに?恨めしそうな声出しちゃって〜って、それ骨人族?あの巫女様が奴隷を使っているだなんて、何があるかわからないわねぇ」
「あなたには関係のないことです」
「そうね。あなたに確認したいことがあるのだけれど」
ラマと呼ばれた女性は懐に手を入れ、あるものを取り出した




