聖国へ集まる力
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闇夜に包まれた王城で、骸の王は目を覚ます
『ふむ。ようやく大人しくなりおったわ……』
骸の王、エルトは、自分の腹部とも言えるような場所を撫でてそう言った
『まだ完全には馴染んではいないようだな……』
エルトは思い出す、自分が手に入れたモノについて、そして自分の野望を果たすためにするべきことを
『まさか、自分の子飼いである者に取り込まれるとは、邪神とて思ってはなかっただろうな。さて、アンデッドの量産をしなくてはな』
エルトは、いくつもの、何の骨かわからないものが入り混じった大きな手を前に出し、魔法を唱える
『不死創造』
エルトの手からは、黒い魔力、そして胸の内からその黒よりもドス黒い魔力が漏れ出し、魔法を発動させる
『これぐらいはできる……が、多用はできぬな』
その魔法で創造されたのは、2体のエルダーリッチともとれる。が、正確には違う
『リッチ・ロードか……』
その姿はエルダーリッチとあまり違いはないが、内包する魔力量、常時振りまいている不浄の霧が、そのモンスターを教えてくれる。
エルダーリッチよりも1段階上へと進化されているものだ。
『よし。さっそく、地下で不死創造をし、兵の量産をするのだ』
2体のリッチ・ロードは、エルトに向かって礼のようなものをとったあと、ふわふわと浮きながら、その部屋を後にする
『そして、もう1つの懸念だが……』
エルトは、玉座の傍に山積みにされている魔族の死体から、1体を魔法で引っ張り出し、目の前に捨てた。
先ほど、リッチ・ロードを創造したように、こちらにも似たような魔法をかける。が、今回は創造ではなく、
『不死者作り』
その死体をベースにして、アンデッドの従者を作る魔法だ。
不死創造よりかは消費MPは少ないのだが、不死創造よりも能力の増減の幅が弄りやすいので、結局のところ消費MPはそこまで変わらない。
エルトが作り上げた、その魔族だったものは、1体のアンデッドモンスターとして生まれ変わる
「ワ、我ガ、主」
『楽にしろ』
そのアンデッドは、片膝をつき、主人に礼を尽くした。
黒光りする鎧は全身を隙間なく守り、肩はトゲトゲしく鋭い。
首回りの鎧が大きく、そのモンスターの鼻から下を隠してしまっている。
そして、その鼻から上が見えている部分は、骨だった。
ただの骨ではなく、魔族としての名残だろうか、目の上からはツノのようなものが生えている。
『さて、お前に命令を下す』
「ナンナリト」
『我の魔力から記憶を見たと思うが、その小娘の排除だ』
「カシコマリマシタ」
『くれぐれも、我が兄弟は殺すな。大切な器だ』
「カシコマリマシタ」
『その小娘たちは聖国ノースブランにいるはずだ。どうやってあの国に入ったかはわからないが、我が兄弟と共にいるはずだ。さて、剣を出せ』
そのモンスターはなにも言わずに剣を掲げる。エルトはその剣を握り潰す。
剣の形は変形し、ギザギザというのか、ヘナヘナというのか、不思議な形状となっていたが、刃物としての輝きは失われておらず、その剣がしっかりと獲物を狩ることができるのがわかった
『我が力の一部を付与しておいた。その剣は生き物の血肉を取り込めば、取り込むほど強くなる』
「アリガタキ、幸セ」
『補佐としてエルダーリッチを2体、スケイルドラゴンを1体つけよう。我の満足いく結果を持ち帰れ』
「オマカセオ」
エルトによって創造されたモンスターは、エルトに背を向け、玉座の間を後にする。
その日、闇夜を羽ばたく巨大な影が見られた。巨大といっても、体はなく、あるのは骨のみだ。その骨のみでできたドラゴンの背には、3体のモンスターが立っていた。
エルトにより、補佐としてつけられた
Sランク:死者の大魔法使いが2体、Aランク:骨で出来た竜が1体
そして、エルト直々に創造し、作り変えられた
推定S2ランク:首狩りの悪魔騎士
腕を組み、瞑目し、ノースブランへと到着するのをただ待つ
★
「ビョエ〜」
「ぬ、戻っテきタカ」
ゾンビのような体を持つ鳥が、ワイトとハルカの元へと帰ってくる
「ビョ、ビョエ、ビョエエビョエ〜」
「ふむ。ムルトを見かケタらしい」
「どこで見たんですか?!」
ついついハルカは前のめりになって、ワイトに問い詰めるような形になってしまう。
ワイトはそんなことに構わず、淡々と話す
「どうヤら、聖国へと足オ踏み入レテしまっタようだ。月の教会トヤらに匿わレ、とりあエズは無事なヨウだが」
「長居はできないということですね」
「得策ではナイだろう。ダガ、それはムルトもわかっテイるはずダ」
「私たちはどうしましょうか……」
「ムルトからお前オ任さレてイるからな。お前ガ聖国に行クといウのナラ、手を貸そウ」
「本当ですか!ありがとうございます!」
「ダガ早まるベキではなイ。準備をせねバならナイ。お前モ魔族ならバセンサーに反応してしまウからな」
「センサーですか?」
「あぁ。説明シよう」
ワイトは丁寧に説明をした。魔族やモンスター、亜人などを検知するセンサーが各門に備え付けられており、そこに該当する者が足を踏み入れれば、ムルトのように警報が鳴り、すぐに囲まれ、街の中にいる住民や冒険者にも警戒をされてしまう。
これは出るときも一緒で、門から外へ出ようとすれば、必ず警報が鳴ってしまう。ムルトの逃亡も一筋縄ではいかないということだ
「そコで、俺の出番ダ」
ワイトが提案したのは、陽動作戦。
ワイトは、ワイトキングという種族ゆえに、人間から危険視されている。ワイト本人が戦いを好んではいないが、戦えばランク相応の強さを見せる。
ワイトは自分自身を晒して注目を浴びることで、中からワイトが逃亡できるよう、そして外からハルカがサポートできるような作戦をたてる
「問題は、コノ作戦をムルトにドウ伝えルカダガ……」
「どうしましょうか……」
「マァ、一先ズはここで待機ダ。もしかしたら、ムルトはスグに出てクルかもしれナイ」
「わかりました」
「アンデッドバードで動向は確認できるヨウ頑張ロウ」
「ありがとうございます」
作戦をたてると、ハルカはご飯を作り、食べ、寝た。
ワイトはムルトに頼まれたハルカを守るため、常に警戒の色を消さずに、辺りを注意深く見渡す




