表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

134/330

骸骨とあの頃

いつもありがとうございます


二色の魔力が形をとると、そこからは、モブとダゴンのような容姿をしたモンスターが出てきた。

2人とも、禍々しい見た目をしている


「な、なにこれ?」


「お、おで、眠ってた」


アルテミス様はその2人笑いながら見つめ、席を立つ


『どうぞお2人ともイスに座ってください』


「う、うん」


「こ、ここはどこ?」


戸惑う2人。すると、席につく前に2人の体が形を変化させた


「な、なにこれ?」


「な、なんだ?」


『どうやら、私の力では及ばなかったようですね』


「アルテミス様は何をしたんだ?」


『私の力で、ムルトの中にある大罪に、形を持たせたのです。ムルトの前に大罪を司った者が現れたはずです』


確かに、モブとダゴンの息子は大罪スキルの前任者だったはずだ。

2人は元の魔力の形になり、俺の中へと戻っていく


『本来、大罪スキルが次の所有者に受け継がれたとき、前任者の記憶などは消えて無くなるはずなんです。ですが、ムルトの場合はそれが残っている』


「な、なぜだ?」


『きっと、その宝玉の力でしょう。器のように大罪スキルを溜め使いこなすことができる。それを手に入れてから感情のコントロールが上手くいくようになったのではないですか?』


「あぁ。この宝玉とひとつになってから大罪スキルの魔力を上手く扱えるようになった。憤怒についてはモブも協力をしてくれているようでな、スムーズに操れる」


俺は赤い魔力を出し、それを右腕に纏わせてみせる


『それがすごいんですよ。大罪スキルを扱う人は、内側のその魔力を扱いきれず、飲み込まれてしまうんです。ですがムルトは自我を保ちながらその力を使いこなせている』


「それはモブ達のおかげだ」


『ムルトの力でもありますよ。……そろそろ時間ですね』


「お別れか」


『はい。ですが、きっとまた会えます。今日も会えたのですから』


「あぁ。きっと、また」


『はい。また……ムルトは、人間に成りたいですか?』


「成ろうとは思ってはいないが、人間として生きたい」


『そう、ですか。私はムルトをいつまでも見守っています。辛いことはたくさんあったでしょうが、あなたは人を好きでいてくれる。私を好きでいてくれる。あなたは、人間に近づいていますよ。怒りも悲しみも、全て人間のように感じている』


「そんなこと」


『あります。きっとあなたはいい()になれます』


「……それはよかった」


『それでは、また会いにきてくださいね』


「必ず」


意識がどんどんと白くなっていく。前回と同じだ。俺は目を瞑る。

周りにざわつきが帰ってくると、俺は静かに目を開け、立った


「みなさん、祈りは終わりましたか?私とムルト様には神託が下りました。今からそれを実行に移そうと思います。が、これはみなさんにもとても大切な話、顔をあげて聞いてください」


祈りを捧げていた巫女達は、顔をあげカグヤを見つめる。礼の姿勢は崩さず、耳を傾けている


「御神体である」


「俺から話させてはくれないか」


俺は話を始めたカグヤを手で制す。カグヤは俺の顔をじっと見つめ、優しく微笑み頷いてくれた。俺は皆の前に一歩出る。


「カグヤが言ったように、俺とカグヤはアルテミス様に神託をもらった。これは俺とカグヤ2人だけの問題ではない。まず、この月光剣だが、折れてしまっているのは皆知っているだろう。俺は、この剣の修復の仕方をアルテミス様から教えられた」


皆は目をそらすことなく静かに俺の話を聞いてくれた


「これを治すには、月の石が必要らしい。そして、それはとても希少で、世界各地に少量しか残っていない。そして、ここにはそれがある。御神体の、アルテミス様の銅像の中に……アルテミス様は自分の像を破壊し、中から月の石を取り出してほしいと言った」


初めてざわつきが起こる。目を見開いて驚いている者もいれば、口を手で覆って驚くものもいる


「静粛に!」


カグヤが手を打ち鳴らし、場を沈めた


「これは確かにアルテミス様から授かった神託です。永くこの教会で祀られてきた銅像を破壊するのは酷です。が、銅像はアルテミス様であってアルテミス様ではありません。本物のアルテミス様はあそこにおられるではありませんか!」


カグヤは空を指差す。そこには、なんとも大きく、綺麗な青い月が浮かんでいる。月の女神であるアルテミス様は、月そのものだということだ。


「銅像を破壊するのは心苦しいでしょう。ですが、それを皆で乗り越えていきましょう。10分後、御神体のある広間へ全員集まるように、それでは、また。ムルト様、いきましょう」


「あぁ」


各々ショックを受けただろうが、カグヤの指示に従い、部屋に戻っていった。

俺もカグヤに連れられ、部屋に戻る。時間が来るまでカグヤは話に付き合ってくれたのだ


そして、10分後その時が来る


カグヤはハンマーのように大きなメイスを持ち出し、銅像の横に立っている。

巫女服の他の女性は、その銅像をぐるりと囲み、これから起きることを覚悟している


「これは世界を救うことに大切なことなんです。みなさん、そしてアルテミス様、どうかお許しを」


「なんなら俺が」


「いえ、これは、私がすべきことですから」


そういってメイスを高々と持ち上げ、振り下ろす。一撃で終わるよう、お腹を狙っていた。アルテミス様の像は、その一撃を受けて、砕け散る。腰が砕け、上半身が前へと崩れる。俺はそれを落ちる前に受け止め、優しく仰向けに寝かせた。

巫女達は涙を流していたが、怒りを表に出すものは誰1人としていなかった。


穴の空いた腹から、拳ほどの大きさをした黒々とした石が出てくる


「これが月の石か?」


黒々とした石の表面は、ゴツゴツと凹んでいたりして、地上から見る月のようだった。違うのはその色だろう


「ムルト様、この後はどうすれば?」


カグヤがそう声をかけてくる。

頰が赤く、涙の跡がうっすらと見えている


「それが、俺にもわからないんだ」


「見当は?」


「ついている、が、色が全く違うのでな」


月欠を抜き、石にくっつけてみるが、俺の体のように簡単にくっつきはしないようだ。


「どうしたものか」


ふと、月の石を高々と掲げてみると、窓から差し込む月の光が、月の石に当たる。すると、先ほどまで黒々としていた月の石が青く透き通っていった。


「ほぉ」


胸の前まで月の石を下ろすと、少しだけ時間を置いて、元の黒へと戻ってしまった


「これは、まさか」


俺は閃いた。すぐさま、先ほどの礼拝堂まで行く、礼拝堂には天窓がついており、そこから月の光が礼拝堂の中へと降り注いでいる。

俺は、月の石を折れた月欠の真ん中へ置く、すると


「おぉ、すごいな」


月の光を受けて青く透き通った月の石が、月欠の折れた場所を繋ぎ、ひとつになった。まだ形は歪だが、まるで俺が他の骨を体につけたとき、少しずつ俺の体の色と同じなるように


「時間がかかりそうですね」


「あぁ」


「私の者をつけますので、ムルト様はお部屋で休んでいてください」


「いや、これを見ていたい。俺の剣だ。最後まで見届けたい」


「ムルト様が、そうですね。そう仰るのであれば」


カグヤはそう言い、礼拝堂を後にする。

時間的には、もう皆が寝静まっている頃だろう。カグヤが「ずっと立っているのは辛いでしょう」と、途中、イスを持ってきてくれたが、俺はイスには座らず、月欠の近くに立ち、天窓から月を眺めていた。

何も考えず、上から降り注ぐ月の光に照らされながら月を眺める。


俺は、初めて洞窟の天井に空いた穴から、月を見ていたことを思い出す。1人で月を見上げていたあの頃を、その日から今日までの日々を、思い出す

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ