骸骨と2つの罪
0時付近でよく読んでくれている方がいるので、投稿致します。
いつも応援、作品を支えてくださってありがとうございます。
※この前書きは朝9時頃に消滅いたします
祈りを捧げると、周りから感じたざわつきがなくなる
『顔をあげてください』
前にも聞いたことのある、透き通った声が聞こえる。
(アルテミス様……)
恐る恐る顔をあげると、そこには、渇望してやまなかった愛しの女神、アルテミス様がいた
『うふふ、お久しぶりね。さ、座ってちょうだい』
すすめられるがままに、席に着く。
前ここへきた時にもあったテーブルとイスだが、イスの数が多い。合計5脚ある
「イスが、多いですね」
『かしこまらなくていいのよ。あなたの話しやすい言葉で話して』
「わ、わかり、わかった。申し訳ない」
『うふ、そっちのほうがあなたらしいわ。他の人たちはすぐにこっちに来るはずよ。それまでは2人っきりでお話ししましょう?』
「あぁ……はい」
『うふふ。かわいいわね』
かわいいとは初めて言われたが、悪い気はしなかった。それは、アルテミス様に言われたからなのか、俺自身が嬉しいと感じているのか、わからない。
それから俺は、アルテミス様と話をした。
俺がここへ来るまでも、アルテミス様は月を通して俺のことを見ていてくれていたらしい。俺がセルシアンと戦ったことや、黄金の泉を見つけたこと、巨大なスケルトンと戦い、体を失ったことなどを話した
「申し訳ない。貴女様より賜わった剣を折ってしまった」
『きっと、仕方のないことです。自分を責めないでください』
「いや、俺が至らないばかりに、月欠を……神匠と呼ばれている奴に修復を依頼したのだが、どうやら治せないようで……本当に、本当に申し訳ない」
俺は席を立ち、土下座をする。
敬愛する月の化身から受け取った宝ともいうべきものを壊してしまったのだ。治る目処もない。
アルテミス様は、下げた俺の頭を優しく撫でてくれた
『大丈夫ですよ。月光剣は治ります』
「本当かっ!」
その言葉に、勢いよく頭をあげてしまう。
アルテミス様は、いきなりのことにびっくりしていたが、すぐに微笑んだ。
びっくりした顔も愛おしい
『はい。月光剣は、持ち主と一心同体なのです。剣が折れることも、治ることも、持ち主次第』
「つまり、どういう?」
『あなたは体を失った時、どうやって今の体に戻りましたか?』
「他の仲間か、同じ骨を……」
『月光剣もその特性を持っています。つまり……来たようですね。席につきましょうか』
俺とアルテミス様は、とりあえず席についた。すると、白い光がどこからともなくやったきて、徐々に形を作っていく。
その光の中から出て来たのは、カグヤだった
(俺もこんな風にここへ来たのか?)
そんな疑問はどうでもよく、カグヤは俺とアルテミス様を見ると深く頭を下げ、膝を折り、地面に伏せる
「月の女神であられるアルテミス様に呼ばれ、ここへとやってくることができました。ありがとうございます」
『カグヤちゃんも座ってちょうだい』
「はっ」
『うん。これでとりあえず大丈夫ですね。それでは、本日、2人をここへ呼んだ目的を話すわ』
「アルテミス様がムルト様をここへお連れするように言ったことと関係があることですね?」
『うん。カグヤちゃんはムルトから折れた月光剣を見せてもらったわよね』
「はい。確かに」
『月光剣は月の石でできている。もっと言うなら、月鋼で出来てるの。カグヤちゃんとムルトのペンダントも同じもので出来ているわ』
「月鋼……」
俺は月欠を抜きはなち、その刀身を眺める。透き通った青さが、月のペンダントの澄んだ青さとよく似ていた
『そして、カグヤちゃんのいる月の神殿には、アーティファクトがあるはずよね?』
「はい。アルテミス様の銅像のことでしょうか」
『そう。私が大昔、祀られていたときに作ってもらった銅像よ』
「それをどうすれば……」
『あの銅像はね、内側に月の石が入っているの。ちょうどお腹のあたりかしら、あの時作った人が何を意図したのかわからないけど、その中に月の石があるわ』
「まさか」
『そう、そのまさかよ。私の銅像を壊して、中から月の石を取り出して、月光剣の修復に当ててほしいの』
「そんなことできるはずがありません!アルテミス様を破壊するなど!」
『でもね、カグヤちゃん』
「アルテミス様、俺もそんなことはできません。月欠を折ってしまったのは、本当に取り返しのつかないことだ。だが、アルテミス様を形取った像を破壊するのも、それと同じ、取り返しのつかないことだ」
『ムルト……カグヤちゃん、ムルト』
アルテミス様は深呼吸をし、改めて話を切り出す
『ムルトのその剣は、とても大切なものなの。必ず、必要になる。だから、残り少ない月の石を使って、必ず修復しなきゃいけないの』
「アルテミス様……」
『心苦しいのはわかるわ。そして、そこまで私を慕っていることに感謝もしてる。でもね。それを我慢してほしいの。いい?』
「わか、わかりました……」
カグヤは折れたようだ。顔を伏せ、重い決断を下したようだ。俺も同じように、折れてしまう。元はといえば、銅像を破壊しなければいけなくなったのは俺のせいなのだ。
月欠を折ってしまった。
長年この教会で大切にされてきた銅像を破壊させてしまう
『じゃ、次の話に移りましょうか』
「「はい」」
アルテミス様のその言葉に、俺とカグヤは低く返事をする
『ムルトとカグヤちゃんは、互いの第一印象はなんだった?』
「俺は、その、美しい人だな、と」
『うふふ、そう。カグヤちゃんは?』
カグヤは顔をあげ、俺とアルテミス様を交互に見たあと、ゆっくりと口を開き、俺に申し訳なさそうに言い放った
「不気味で、気持ち悪い人だな、と」
『理由はわかるかしら?』
「いえ、わかりません。一目見ただけでこんなことを思ってしまうのは、私としておかしいとは思うのですが……」
『ムルトも同じようなことを考えてるわよね?』
「……はい」
カグヤを美しいとは確かに思った。だが、それよりも先に、気持ち悪い、敵意というものを持ってしまった。
なぜだかはわからない。カグヤも俺に対しては敵意なものを少しだけ感じているらしい
『なぜ2人がそう思ったかは、これから話すことに関係してるわ。ムルトは大罪スキルを、カグヤは美徳スキルを持っているでしょ?』
カグヤは、ハルカと同じく、美徳スキルを持っているという
『ただ持っているだけでは、持ち主の力になるだけなのだけれど、そのスキルは、創造されたものでね。目的があるのよ』
アルテミス様は話を続ける
『7つの大罪スキルは、邪神が持っていたもの、そして、美徳スキルは、それに対抗するため、最高神が作ったもの。その2柱は戦い、神が勝利を収めた。でもね』
俺とカグヤは静かにその話を聞いていた。
『邪神が敗れた時、邪神はいつか復活をするために、その7つの大罪を自分と同じ属性の者達に継承するよう細工をしたの。モンスターや魔族にその力が出るようにね。最高神も同じように、人やエルフに、邪神が蘇っても対抗ができるように』
「な、なぜその話を今」
俺は重い口を開き、アルテミス様に質問を投げかける。アルテミス様は一度顔を伏せ、決心したように顔を上げる
『邪神が、復活させられたからよ』
暗い顔をしてそう言ったアルテミス様だったが、その言葉に少しだけ違和感を感じる
「させられた、というのは?」
『復活したのは確かなの。それは神界でも騒ぎになった。神は地上に手出しができないから、ムルトやカグヤちゃんみたいに神託を下すのだけれど、そんなことを神達で話し合っていたときに、邪神の存在が消滅したの』
「消滅?」
『力は確かに感じるのだけれど、その存在はない。何者かに吸収されたような』
「吸収……」
その言葉を聞いて、1人の男が頭をよぎる
「その話だと、俺も邪神の一部のはずでは」
『うん。そうなる。でもムルトは、力を制御できているでしょう?』
「制御、できているのでしょうか」
『できてるわ。だからムルトにもこの話をしたの。ほら、その2人も』
アルテミス様が俺の額に指を当てると、赤と青の魔力が俺の体から抜け出し、形を作る
「これは……」
『あなたの中の、憤怒と怠惰よ』




